第9話 授業は寝るもの流すもの 後編
後編です。
翌日、部室にて。
「……ってことがあったんだけど、音羽、どう思う?!」
一足先に着替え終わってスマホをいじっていた音羽に、私は昨日の放課後のことを語って聞かせると、音羽は大層めんどくさそうに「ふーん」と鼻で返事を返してきた。
「っていうか、ちーちゃんって私のこと、愚痴聞きマシーンかなんかだと思ってない?」
「否定はできないかな」
「そんなことを即答しないでおくれ」
まったくと困った様に笑いながら「でも別にバレてても大丈夫だったんだからいいじゃん」と言う音羽。
「かーっ、音羽まで相沢さんと同じこと言うかー」
「なんでそんなガッカリされにゃならんのか。……それにしても、その相沢さんって子、なんか怪しいなぁ」
「あ、怪しい?」
「うん。そんな風にちーちゃんに接近するなんて怪しいよ。きっと某国のスパイとかだよ」
引き続きスマホをいじりながらも、訳の分からない陰謀論を展開する音羽さん。
「私は政府の高官かなんかなの……?」
「私のちーちゃんに近づくハイエナめ……」
「色々言いたいことはあるんだけど、まずそれだと私が死肉ってことになるんですけど? あと、いつから私は音羽の物になったの?」
「安心して。あなたは私が守るもの」
「唐突な綾波レイ……」
若干台詞も違う気がするし、何より棒読みすぎて全然似てませんけどね?
とかなんとか、そんな会話を交わしているうちに部活の開始時刻になってしまう。
「……なんか音羽と話してるとさ、青春の貴重な1ページを無駄にしてる感が凄いんだけど」
「失敬な。それを言うなら、ちーちゃんと新っちの会話だって大概だと思うけどなぁ?」
「それはそれで失礼よね」
「それはほら、新っちだからセーフってことで」
「凄まじい謎基準……」
とかなんとか言いつつ、私達は部室を後にしたのだった。
*
そんなこんなで5月も最終週に突入し、体育祭も大過なく過ぎると、いよいよ梅雨の気配が漂い始め、私も朝の通学路でしっとりとした空気を味わってウンザリする回数が増えていった。
そして、体育祭の振替え休日明けの火曜日。
今日も変わらずしっとりとした空気を胸いっぱいに吸い込んで胸焼けになりそうになりながらも、私は放課後、音羽と2人で先週行きそびれたケーキ屋を目指して歩いていた。
ケーキ屋巡り、というか、スイパラに行くのが私のちょっとした趣味だったりするのだが、何だかんだ言いつつもいつも一緒に来てくれる音羽の存在が、こういう時はかなり嬉しかったりする。
だがしかし。
スイーツを取り込めば取り込むだけ純粋に体重が増える私に引き換え、スイーツを食えば食うほど出るところが出て引っ込むところが引っ込む音羽の体質を考えてしまうと、感謝どころか若干の殺意すら覚えるのだが……まあ、あまり考えないようにしよう。
「……ケーキのカロリーって、人によって取り込む量が違ったりするのかなぁ」
「ん? ちーちゃん今何か言った?」
「言ってないでーす。もしくは音羽には関係ないことでーす」
「そ、そう? ならいいんだけど。……で、今日行くのはなんてとこ?」
「えーっとね、クラスの子から聞いたところで、名前は……なんだっけな」
「ちょ、そんな曖昧な記憶で大丈夫? ちゃんと辿り着く?」
2人で並んで、スマホで位置を確認しつつ住宅街を歩き進めていく。
「こういう時何故か私が迷うことはないって、音羽なら知ってるでしょ?」
「でも、だったら私が超のつくほどの方向音痴だってのもちーちゃん知ってるよね?!」
「大丈夫大丈夫、こんな街中で遭難したりはしないから」
「その大丈夫は『死ななければOK』みたいなレベルの大丈夫さだよね?!」
と、そうこうしているうちに無事到着。
「無駄に方向感覚だけはいいんだから」と謎の恨み言を吐く音羽と共に店に入り、一番人気だというチョコレートムースケーキを注文。
「そうだ、これ新っちにも買っててあげなよ」
「へ? なんで新に?」
「いいじゃん、家隣なんでしょ? だったら差し入れくらい不自然じゃないって~」
「不自然とかどうとかって問題じゃないと思うんだけど……」
と私が言い終わるかどうかのところで音羽は店員さんに「すいません、もう1つ追加で!」と注文してしまった。
私はまだ買うともなんとも言ってないのだが……
「ほらほら、今恩を売っておけば、そのうち何らかの形で返ってくるかもだしさ」
「んー……まあ、そこまで言うなら……」
別に断固嫌だって訳でもないし、そこまで財布がピンチということもないから、ここは新に買って行ってやろう。
……断じて音羽の言うように、お返しを期待したからではないからね?
「よかったね、買えて。このケーキ、結構売り切れてることも多いんでしょ?」
想定より多くお金を払うことにはなったが、それ以上の欲しかったものを買えたウキウキを抱えながら店を出る。
「ね。学生が来ることを想定して、この時間にも作っててくれたのかな?」
「だとしたら最高のお店だね」
「まだ味次第だけどね。でも、見た目も可愛いし、これは新も喜ぶよ~」
「まあ、男子高校生がケーキでそこまで大はしゃぎするかって言われたら微妙だけどね」
「それならそれでいいの。大事なのはあくまで気持ちと、渡したって事実だから」
「滅茶滅茶お返し期待してるじゃん」
「そそそ、そんなことないし!」
行きと変わらず愚にもつかない会話をしつつ、駅に向かって来た道を戻っていく。
するとふと、音羽が「そういえばさ」と話題を変えた。
「今週部活ないけど、放課後ってやっぱり勉強して過ごす感じ?」
「へ? なんで今週部活ないの?」
「え? いや、だってテスト1週間前だし、部活動は禁止じゃん」
予期せぬ発言に思わずケーキの箱を落としそうになり、慌てて動揺する心を落ち着かせる。
「あ、あれ?! そうだっけ? 今ってテスト一週間前??」
「前回の部活の最後に神原先輩言ってたじゃん。聞いてなかったの?」
「そ、そういえば言ってた……ような?」
「ちーちゃん、いくらテスト嫌だからって現実から目を逸らしちゃいけませんぜー?」
「うわー……マジか」
慌ててスマホに入っているスケジュール帳を確認すると、確かに6月の第一週に丁寧に赤字で「中間テスト」とでかでかと書いてあった。
おお、ちゃんとチェックしてんじゃん。
過去の私、偉い!!
……ではなくて。
「うわあ……ヤバい、全然テスト勉強してない!」
「まあその反応を見るに、でしょうねとしか言えないけどね。逆にその反応で『でも対策はばっちりさ!』って言われたら引く」
「冷静にツッコんでくれたところ悪いけど、私今それどころじゃないから!」
やばいやばい、ケーキなんか買いに来てる場合じゃなかった!!
ただでさえ普段勉強してないんだ。
本気で何か対策をせねば……
「あ、そうだ!」
「どうしたのさ」
「ふっふっふ……私はたった今、対策を思いついてしまったのだヨ」
「秘策?」
なんだそりゃと首を傾げる音羽に、私はケーキの箱を持ち上げてニヤッと笑ったのだった。
次回更新は、多分来週末とかだと思います。
しかし大学生になった途端、町行く高校生が輝いて見えるのはなんなんでしょうね。この間まで自分もその”輝かしい”高校生だったはずなんですけどねェ…輝いてたかは別として。
まあいいや。
モチベになるので評価・ブクマ・感想等一言でも狂乱するので是非よろしくお願いします。
では、また次回。




