第9話 授業は寝るもの流すもの 前編
9話です。最近なんだかんだ週1くらいで更新できてるんで、こんな感じで行くんだと思います。
そんなこんなで新のいる私達の新しい日常は過ぎていき、やがて5月も終わりが見え始めてきた。
そんなある日、帰りのSHRを経てクラスが解散し、今日は部活もないし、音羽でも誘ってどっか寄り道でもしていこうかなーなんてぼんやりと考えながら荷物を整理していた私は、後ろの席の相沢さんに「ねえ」と肩を叩かれる。
「やっほー、ささちー。今日も1日お疲れ~」
「相沢さんこそお疲れ。6限ずっと寝てたみたいだったけど、寝不足?」
「やだな~、あの程度は寝不足に入らないよ~」
「ど、どういうこと……?」
フルネーム、相沢愛奈。
背中まで長く伸ばしたストレートの黒髪に眼鏡という、ザ・優等生なふりをして勉強よりゲームが好きという中々にキャラの濃い彼女だが、音羽を除けば何気に私がこの学校に入学してから初めてできた友達だったりする。
「だって午後の授業なんて、そもそも起きてられるわけないじゃん? 自分の机にいてあげてるだけありがたく思ってほしいよね~」
「滅茶苦茶なもの言いだけど、あながちわからなくない……」
「でもささちーは偉いよ~。うとうとはしても、寝ずに授業聞いてるんだから~」
「そんなことないって。単に先生が怖いから起きてるだけで、そうじゃなかったら相沢さんみたいに寝てるって」
それに、あくまでなんとか起きてるだけで、授業をしっかり聞いて自分のものにしてるかと言われると、それはそれで話が変わってくるしね……
自分で言うのもあれだが、私はあまり勉強は得意ではないので、授業中に眠くなってる場合ではないのは重々承知しているのだが、しかしそうは言っても、というものだ。
頭でいくらわかっていようとも、昼休みを経て机に座れば誰だって眠くなるに決まってる。
それに引き換え、この子はずっと寝てる割に私より小テストの点数はいんだよなぁと、相沢さんを眺めてしみじみこの世の不平等を噛みしめる。
「それよりささちー、いい加減私のこと『相沢さん』って呼ぶのやめてよ~。なんか距離を感じる~。普通に愛奈って呼び捨ててくれていいのに~」
「んー、なんか最初相沢さん呼びだったから、切り替えるタイミングがわかんなくてさ。だからなんとなくこのままでって感じになっちゃってるんだよねぇ」
「まあ、ささちーがそう言うならいいけど~」
あっけらかんと言い切る彼女を見て、本当に不思議な人だなぁと改めて内心静かに頷く。
彼女とは結構親しくしているのだが、未だによくわからない箇所が多かったりする。
……その割に、相沢さんには私のことかなり知られているのが何とも……
曰く「ささちー結構チョロいもん」とのこと。
解せぬなぁ……。
「話戻すけど、でも私達に限らず、みんな結構寝ちゃってたしね~。やっぱり昼過ぎには魔物が潜んでるよねー」
「だね。新もがっつり寝て先生に怒られてたし」
「あらた……? ああ、谷塚くんのこと~?」
「あ……う、うん」
わざとらしくニヤリと口を歪める相沢さんを見て、しまったと今更口をぎゅっと結ぶ。
つい、癖で。
「いや、それはね」
これで変に新との関係を勘繰られても嫌だなと、必死に言い訳を絞り出そうとした私を制して、相沢さんは「ううん、わかってるよ~」と笑顔を浮かべる。
「ささちーと谷塚くん、幼馴染同士なんでしょ~? だから別に変な勘違いなんてしないって~」
「そうそう、そうなのよ。わかってくれてよかった……って、え?」
「ん? どうしたの~?」
あれ、なんでそのこと知られてるんだ?
私そのことは音羽以外には言ってないし、新にだって口止めした……はず、だよね?
「え、なんで幼馴染って知ってるの?」
「なんでって、谷塚くん、この間自分で言ってたよ~?」
多分みんな普通に知ってるんじゃないかな~と、追加でサラッと恐ろしいことを言い放つ相沢さん。
「でもみんな全然『へー』ってくらいの感じだったから、別に謎の嫉妬ゆえの攻撃に怯えたりする必要はないと思うよ~。それにささちーと谷塚くんなら、なんかそれっぽいしね」
「ツッコミどころが多くてあれなんだけど、まずそれっぽいって何?!」
私の恐れていたことを見透かしたかのようにそんなことを言う相沢さんに、思わず音羽にするようにツッコミを入れてしまうが、相沢さんはさして気にする様子もなく「要はお似合いってこと~」と笑いながらそんなことを言ってのける。
「お、お似合いって……私と新が?」
「そうだよ~。熟年夫婦っぽいとでも言えば伝わる?」
「理解したくなかったけど、言いたいことは死ぬほど伝わってきたわ。マジか~、そんな風に見えてたか―」
「あ、今の惚気っぽい~」
「全然そんなことないから!」
そう見られてしまっているというのは……私は何かアクションを起こすべき状況なのだろうか。
そんなことを考えてしまい、スマホを両手で弄びながらうーんと1人で唸る。
「ほら、でもささちー達は幼馴染同士なんだし、いい感じに気の置けない仲なわけでしょ~? それって熟年夫婦云々は置いていても、普通にいいことだと思うよ~?」
「そう、なのかなぁ」
「そうだよ~。あ、でも彼を振り向かせたいのなら、要現状を打破する努力って感じだけどね~」
ニヤッと笑う相沢さんに音羽の姿が被り、私は静かにため息をついて「それはないから大丈夫」とだけ返しておく。
と、タイミング良くというか悪くというか、丁度会話がひと段落したところへ新が「よお」と間抜け面を下げて登場する。
「2人とも、何の話してたんだ?」
「ん~? 恋バナ、かなぁ~?」
「相沢さん、過去を捏造しないで……それと新! あんた約束破ったでしょ?!」
「ん? 約束って……お前の部屋が見えちゃうからカーテンは閉めとけっていう、アレか?」
「ふ~~ん??」
隣で楽しそうに頬を歪ませる相沢さんにゾッとしつつ、「それじゃないわ!」と彼の無防備なわき腹を思いっきり抓る。
「痛ェ!!」
絶対相沢さんに変な誤解──あながち誤解でもない分タチが悪いのだけど──をされてしまったが、そっちはそっちでまた後で何とかしよう。
まずはこの幼馴染をどうにかせねば。
「私言ったじゃん! 幼馴染同士だってこと言わないでって!」
「あー……そのことか」
「そのことか、じゃないよ! 何サラッと人に話してんのさ! 女の子は怖いんだから、そういうことは知られたくなかったのに……」
「でも、結果別に大丈夫だったんだからいいんじゃないの、ささちー?」
「まあ、そうっちゃそうだけど……」
「それにささちー、小動物みたいだって結構女子の間でも人気だから、そんな悪質ないじめの心配なんてしなくても大丈夫だと思うよ~?」
「何その反応に困る報告?! 小動物みたいって褒めてるのそれ?!」
「褒めて……るんじゃない? 知らんけど~」
相変わらずマイペースな相沢さんに苦笑いを浮かべる私をよそに、「でも」と口を開く新。
「別にそんな気にしなくてもいいと思うけどなー。俺と千代の仲なんだしさ」
「『俺と千代の仲』ねぇ~? お熱いことで~」
さも当たり前のようにそんなことを教室で言い放つ新と、あからさまにニヤニヤと私の反応を伺う相沢さんの目線に、私は顔が真っ赤になっていくのを感じる。
「新……」
「ん? なんだ?」
「選ばせてあげる。パンチとキック、どっちがいい?」
「……じゃ、俺はこれで失礼するよ」
そう言って荷物を掴むなり教室をダッシュで出ていく新の背中に「待てーっ!!」と演劇部特有の声量を叩きつけ、私は相沢さんに「またね」と告げて教室を飛び出して彼を追いかける。
「まったく、困った2人だねぇ~」
1人教室に残された相沢さんにがぼそりと呟いたその一言は、誰の耳に入るでもなく放課後の教室に虚しく響いたのだった。
後編に続きます。




