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第8話 滑舌魔女と幽霊少女 後編

後編です。

「ちなみに早口言葉って他にはどんなのがあるんだ?」

「はい、こんな感じ」


 綺麗に読み上げる自信もなかったので、原稿の束を新に押し付ける。

 原稿(ここ)に書いてある一例を挙げてみよう。


『歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんが、赤坂サカス前派出所の一日所長を務めました』


『東京証券取引所で新春祝賀会が行われ、アボカド料理などがビュッフェで振る舞われました』


『今日未明、なかなかカタカナが書けなかったアーノルド・シュワルツェネッガー氏がエステティシャンへの転身を発表。腹腔鏡手術の手術助手と共に白装束姿で会見を開いたアーノルド・シュワルツェネッガー氏は、シャア少佐の肩たたき器を手に新春シャンソンショーで「こちら葛飾区亀有公園前派出所は神アニメだ。神アニメ中の神アニメだ」と断言しました』


 ……等々。

 最後のはもう内容が意味不明なだけに、これはニュース原稿としてどうなんだという気もするが、あくまで滑舌の訓練の一環なのでおそらくこれでいいのだろう。

 ふと横を見ると、新が「うわァ」とすごく嫌そうな顔をしているのが目に入る。


「これくらいで挫折してたら舞台は遠いよ。……私も割と挫折しそうだけど」

「ああ、先は長いな」


 2人で同時にため息をつき、原稿の束をしまう。

 新と仲良く並んで凹んでいると、ひとしきり発声を済ませてすっきりした表情の神原先輩「どうしたのさ、2人して」と声をかけてきた。


「ああ、いえ、先が思いやられるなァって思ってただけですんで、大丈夫です」

「全然大丈夫には聞こえないけど、本当に大丈夫?!」

「なんとか頑張ります」


 そう言って頬を叩き、気合を入れなおす新を見て、私は少し不思議な気持になる。

 なんだ、結構根性あるじゃん。


「ちなみに、新くんのこともあるから、しばらくは基礎練習を続けるつもりだけど、ある程度形になってきたら台本読みとか、そういう本格的な練習に入っていくからそのつもりでね」

「はい」


 神原先輩が去っていくのを視界の端に映しつつ、新は「台本読みって?」と小声で聞いてくる。


「読んで字のごとくなんだけど、実際の台本を使ってみんなで読み合わせをするの。言うなれば、動きがない本番って感じ?」

「へぇ」

「多分、ずっと基礎訓練ばっかりじゃ面白くないだろうし、ボチボチそういう実践的なものも混ぜていこうっていう先輩の気遣いだと思う」

「気遣い、ねぇ」


 どうせならエチュードが……と寝ぼけたことを言う新のわき腹を(つね)って「だからうちはエチュード部じゃないんだってば」とため息をつく。

 それはそれであったら面白そうだけど。エチュード部。


「でも俺、てっきり野球部でいうところの球拾いみたいな感じで、『1年坊主はずっと球拾ってろ!』的な感じになるのかと思ってたから、少し意外かも。それって要は、俺達にも早いところ舞台に上がってほしいってことだろ?」

「まあ……そう、なんじゃない?」


 というか、文化部なのにハードだとか、そのくせスパルタかと思ってたとか、新の中で一体演劇部はどんなイメージだっただろうか。

 少し心配になってきた。

 とりあえず「そんな2年生になるまで舞台に上げない!みたいな部活だったら、私も音羽も入部してないわ」と苦笑交じりに告げる。


「そもそも部員数も少ないしね。1年生だからって理由で別の業務に割り振るだけの余裕もないから」

「それもそうか」


 そんなことを言い合いながらも、引き続き発声練習を続けていく。

 神原先輩の言う通り、普段なら20分か、長くても30分くらい基礎練習をしたらエチュードや台本読みに移っているのだが、新向けの基礎練習強化月間ということで、今日はずっと基礎練習のようだったので、せっかくなので私も初心に帰ってしっかりと基礎練習に励むとしよう。


「よし、今日はこれくらいにしておこうか」


 そこから大体1時間くらい経っただろうか?

 そろそろ喉が辛いなと感じ始めた頃になって、神原先輩がそう言ったのをキッカケに、私達はぞろぞろと稽古場へと戻る。

 そして始まりの時と同じくみんなで円になって、今日の感想を一言ずつ述べ合い、挨拶をして部活を〆る。


「さて、時間も時間だし、さっさと着替えて帰ろー!」

「いえーい!!」

「なんで2人ともそこでそんなにテンション上げられるんですか……?」

「だって帰宅だよ?! テンション上がらない?」

「音羽、実は演劇部のこと嫌いなんじゃないの?」

「マッサーカー!」

「そんなマッカーサーみたいに言われても」


 2人の謎のノリに付き合ってグダグダと駄弁りながら着替えていると、部室の外から新が「おーい、まだかー?」と声を上げるのが聞こえてきた。


「ちーちゃん、出てあげなよ」

「いや、私今絶賛着替え中だから!」

「確かにー!! ちーちゃん今下着姿だもんねー!!」

「ちょ、なんでそんなこと外に聞こえるくらいの大声で言うの?! バカなの?!」


 ニヤりと笑う音羽をひっぱたくと、外から「こんなに時間かかってるのにまだ着替え中ってオイ!」と、少し想像と違う反応が返ってくる。


 いや、そこですか……まあそこも大事だけどさ。

 扉の外で興奮されても困るけど、そこまでスルーされても何か気分悪いなァと思いつつ、ちらっと音羽に目をやって、その想いそっと胸の奥にしまい込む。

 ……まあ、音羽みたいにグラマラスだったら話は変わってたかもね。

 そっと自分の胸に手をやって、誰にも気づかれないくらいの小さなため息をつくと、そんな私に構わず新が「早くしろ~」と扉を小突く。


「わかったって! 急ぐからちょっと待って」


 慌ただしく着替えを済ませて、荷物をまとめて部室を出ると、新がむすっとした表情でテラス前の段差に座り込んでいた。


「ごめんごめん、遅くなった」

「ホントだよ……ガールズトークに夢中になるのもいいけど、稽古場(こっち)は俺1人だから、あっという間に着替え終わっちゃうんだからさ、少し急いでくれ」

「確かに、そうだね……ごめん。一緒に帰ろうって言い出したの私だしね」

「っていうか、新っちも部室(こっち)で一緒に着替えればいいんじゃないの?」


 私に続いて部室から出てきた音羽が、さらっとそんなことを言う。


「音羽、あんたは言葉の爆弾魔か何かなの??」

「アホなこと言ってないでホラ、帰るぞ」


 まったく、と手をブレザーのポケットに突っ込んで先に歩き出す新を、慌てて追いかけつつ、振り返って神原先輩に「お疲れ様でしたー!」と挨拶をする。


「3人とも、お疲れ~! また次の部活でね~!」

「お疲れ様でしたー!」


 2人で早足で部室棟の廊下を進み、ようやく階段のところで新に追いつく。


「じゃ、帰ろっか」

「だねぇ」

「いや、そんな仕切り直しみたいにされても、俺はさっきから帰る気満々だったんだけどな」


 そんなことを言いつつもどこか楽しそうに微笑む新を見て、私は音羽と再び顔を見合わせて「だね」と再び笑い合ったのだった。

次回更新は未定ですが、来週くらいかなって勝手に思ってます。

いつか知りたい人はブクマしていただけるとわかるので便利だと思います(小声)

一言でもいいので感想もお待ちしています。


では、また次回!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 演劇部って、こんな感じだったなっていうのを思い出しました。懐かしい気持ちになりました。 そして幼なじみ同士の進展も気になります。あと、幽霊少女も。 [一言] 滑舌を鍛える為にやっていたこと…
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