第7話 そんなあなたにエチュードを 前編
久々の更新です。結局更新ペース決めずにずるずる来てますね…
即興劇とは、主に演技力の向上と対応力の向上を目的とした訓練の1つである。
演技力はともかく対応力とは、例えば舞台本番中、相手が台詞を1つ飛ばしてしまった場合などに、まさか「あ、間違えた」などと言って「もう1回今のとこやります」などとできるはずもないので、その場で考えて不自然な流れにならないように台詞を自分で作って台詞と台詞を繋ぎつつ、流れを戻さなくてはいけない。そして、そこで求められるのが対応力というわけだ。
「詳しい種類は稽古場の壁に貼ってある紙に書いてあるけど、シンプルなエチュードの他に『一本橋』とか『議論』とか『喜怒哀楽』とか、一口に即興劇と言っても結構種類があるのよ」
「その『一本橋』とかってのは、具体的にはどういうことするんだ?」
「んー、一本橋ってのはね……」
テラスを後にして稽古場に向かいながら、軽く新にエチュードの説明をしていると、丁度そのタイミングで神原先輩が着替え終わって部室から出てきた。
「あ、お疲れ様です。用事は済んだんですか?」
「うん。ごめんね、早速穴開けちゃって」
「いえいえ、全然大丈夫ですよ」
「それで、今どの辺?」
「軽く身訓と発声について体験も混ぜて説明し終わって、そんで今はエチュードの話をし始めたところです」
「オッケー。ありがとう」
ここからは私も加わるよと、何故か嬉しそうに言って胸を叩く神原先輩。
「……で、新、どこまで話したっけ?」
「一本橋って何ぞや、ってことを話し始めたところかな」
「ああ、そうだった。一本橋ってのはね……」
一本橋とは【川に人1人が通れるだけの幅の橋が架かっていました。そこに2人の人が両側からやって来て、橋を渡ろうとしました。しかし当然、2人は橋の真ん中でぶつかってしまって通ることができません】という想定の元、お互いに向こう側に行きたい動機を述べ合って、相手に引かせて自分は通ろうとする、というエチュードだ。
まあ冷静にツッコんでしまえば譲り合えよとか、人1人分しか幅がないとはいえ何とかすれば2人ともすれ違えるだろとか、色々思うところはあるのだが、しかしあくまでこれはそういう設定のエチュードなので、相手を強引に押しのけて進むなどを除けば、2人はどんな理由を述べてでもその場を切り抜けることを求められることになる。
例えば、私が過去に使った理由だと、それこそ走れメロスの丸パクリなのだが、向こうに私の友人が無罪の罪で捕まっていて、今まさに処刑されんとしている。だから真犯人である私は彼のために急いで向こうに行かねばならぬのだ、云々。
そしてそれに対しての神原先輩の反撃は「さっき聞いた話だと、その彼の処刑はもう済んでしまったそうだよ」というものだった。
そう、このエチュード、いかに相手の主張を頓挫させるかも腕の見せ所なのである。
この場合、「向こうで処刑されかかっている友人を助ける」という根幹の部分を「もう処刑されたらしいよ」と言って壊してしまえば、私の橋を先に通りたい理由は崩壊してしまう。
ちなみに神原先輩側の主張は「向こうでドでかい火山が爆発したから、一刻も早く逃げたい」だった。
この主張の強い所は、もうすぐ相手にとっての橋の向こう側は行っても仕方のない場所になるよ、ということも同時に暗示しているところにある。
こう言われてしまったら、相手は“例え火山の噴火に巻き込まれてでも”行かねばならない大きな理由をさらに提示せざるを得なくなってしまう。
等々(などなど)、具体的事例を挙げていけばキリがないが、そんな風にいかに相手の主張を上回り、そして反撃をするかが焦点となったエチュードがこの「一本橋」なのである。
「どう、面白そうでしょ?」
「まあ、面白そうは面白そうなんだけど、喧嘩になりかねないなって……」
「大丈夫大丈夫、あくまでお芝居だから」
まあ、なんとなく新の言わんとしてることもわかるけどね……。
「何事も変にヒートアップしすぎない程度にこなすのがミソだよ」
「さすが先輩、いいこと言いますね」
「でしょ?」
ドヤ顔の神原先輩は置いておいて、残りのエチュードの説明を簡単に済ませてしまう。
「で、『議論』っていうのは読んで字のごとく、外野から議題を1つ貰ってそれに対して賛成反対の役割を割り振り、それで相手を論破するっていうエチュードだね」
「まあ、どっちかっていうとディべートに近いかも。それに、実際ディべート部でも似たようなことやってるっぽいし」
「なんで音羽は相変わらず変に情報通なのさ」
「えへへ」
「別に褒めてはないからね」
わざとらしくシュンとする素振りを見せる音羽を無視して「『喜怒哀楽』っていうのは」と説明を続ける。
「これは4人いないとできないんだけど、クジでそれぞれに喜怒哀楽の役割、つまり喜んでる人、怒ってる人、哀しんでる人、楽観的な人って役を割り振って、そのキャラ設定に基づいて動くっていう感じかな?」
「喜怒哀楽は、舞台上で自分の演じる役のキャラクター性に基づいて動けるか、例えばネガティブなキャラなら何事もネガティブめに動くとか、そういうことを訓練するためのエチュードだね」
「なるほど……なんか、こう言ったらアレかもですけど、エチュードって本気のおままごとって感じなんですね」
真面目な顔でそんなことを言う新に、思わずくすっと笑ってしまう。
言い得て妙だ。
「まあ、説明もそれくらいにしてさ、とりあえず実際にやってみようよ。エチュードの種類のこと言い出したらキリがないし、正直私も内容知らないのとかもあるし」
「え、そうなんですか?!」
「うん。みんな色々思いつくたびにその紙に書き足してってるからねぇ」
そうだったのか……確かに、下の方に書いてある「運試し」とか、どんな内容なんだろうなぁとは思ってたけども。
「じゃあ、まずは普通のエチュードからかな」
ひとまず4人でじゃんけんをし、それぞれに番号を割り振る。
結果、私が1、先輩が2、新が3で音羽が4となった。
「で、番号順に2人ずつ、番号が若い方が話し始めて、そんで2人の次の人がなんとなくの時間で区切って手パンで止めて、次は番号の若い人と交代で、また始める……って感じでOK?」
「要は最初1・2番の人で始めて、3番の人が手パン担当で、終わったら次は2・3番の人、ってことですよね?」
「音羽ちゃん、わかりやすい補足ありがとう」
なるほどとうなずく一方で「なあ、手パンって何?」と聞いてくる新。
「えっと、エチュードの時も舞台の練習の時もなんだけど、演技の開始の時は手を叩いて始めて、そんで終わりの時もまた手を叩いて止めるの。それが手パン」
「へえ、そうなのか」
そうか、演劇部員は普段何気なく使ってる言葉でも、当たり前だが外部の人にはサッパリなのかと、今更そんなことを思ってしまう。
と、神原先輩が「じゃあまずはちーちゃんと私だね」と言ったので我に返って先輩と2人向かい合う。新と音羽は稽古場に唯一あるモノと言っていであろうベンチに座る。
そうか。私の方が番号若いから、話始めは私からか……
後編に続きます。




