第6話 ようこそ、奇人変人演劇人のるつぼへ! 後編
後編です。
「では、見学者も来てくれたことだし、前置きはなしで、とっとと今日の部活を始めましょう!」
稽古場に集まった私達は、神原先輩のその宣言でぐるりと円になって挨拶をする体制に移る。
演劇部では部活を始める時と終わる時に、こうして円になって挨拶をするのが慣習なのだ。
「じゃあ、今日の部活を始めます。よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします!」」」
紛いなりにも私達は演劇部。
こういうところでもしっかりと声を出して、深々と互いに礼をする。
「今日は凛ちゃんがちょっと用事あるってことで欠席な以外は、全員いるね……って、まあ人数少ないから見りゃわかるか」
「なんでわざわざ悲しくなること言うんですか……」
「でも、今日はちーちゃんが見学連れてきてますからね!」
「そうだね。せっかくだし、まずは自己紹介から始めようか。とりあえずみんな座って」
神原先輩、私、新、音羽の順に円になってその場に座り、神原先輩から自己紹介を回していく。
「改めて、演劇部部長の高校2年、神原希望です。で、今日は休みだけど、もう1人高2で副部長の山崎凛って子がいるんだけど、まあ彼女のことはいずれ機会があると思うから、その時にでもね」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあ次、ちーちゃん!」
「え、私もしなきゃですか?!」
改めて新に向かって自己紹介って。
「えっと、みなさんご存じ笹原千代です。……あと何話せばいいんですか」
「んー……好きな食べ物とか?」
「それそんな知りたいですか?!」
全然~?と笑う神原先輩に苦笑いを返しつつ、一応「ケーキとか甘いものですかね」と律義に発表しておく。
合コンかよ。
「じゃあ次、新……は飛ばして、先に音羽かな」
「うっす。さっき軽く話したけど、東雲音羽ですっ! 気軽に『音羽ちゃん♪』って呼んでください! 見た目こんなんですけど、案外中身はマトモなのでよろしくお願いします!」
「いやそれ自分で言う?!」
あとこれは私見だけど、中身も全然マトモではないからね?
「最後、谷塚くん!」
人数が少ないのであっという間に一周し、新の番が回ってくる。
大丈夫かしら。変なこと言ったりしないだろうか……
彼の志望動機はもうすでに知れ渡ってるとはいえ、ここで明言されてしまうと流石にちょっと気まずいぞ……?
と、そんな私の心配をよそに、「どうも、谷塚新といいます。この学校には先週転校してきたばっかりで……」と、案外普通に自己紹介を始める新。
「まだ部活とか全然わからなかった時に千代から色々演劇部の話を聞いて、演劇部なら楽しくやれそうだなと思ったので見学に来ました」
「ちーちゃんがいるんだもんね」
小声でそう呟く音羽をキっと睨みつける。
「演劇のこととか全然わかりませんが、よろしくお願いします!」
そう言って彼が頭を下げると、全員で「おー」と謎の歓声を上げて拍手する。
ふと、音羽が新に「ねえねえ」と声をかける。
「谷塚くん! ちーちゃんも君のこと呼び捨てにしてるし、私も新っちって呼んでいい?」
「全然いいっすよ!」
同級生相手にまだ微妙に敬語の新にくすっと笑いつつ、さりげなくぐいぐい行く音羽に若干の危機感を覚える。
この子、こういう肉食なところあるからなぁ……
「じゃあ私も新くんって呼ばせてもらおうかな。谷塚くん、だとなんか少し距離感じるしね」
さらっと音羽に便乗する神原先輩。
「是非是非!」
でも、確かにこのほうが気楽と言えば気楽だし、まあいっか。
「さて、じゃあ早速演劇部とはなんぞや、何してるんや、って話をしたいんだけど……ごめん、私1枚だけ生徒会に出さなきゃいけない書類があって、ちょっと行かなきゃいけないから、2人とも、新くんの案内頼んでいいかな?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「お任せあれ!」
すぐ戻るからーと言って稽古場を後にする神原先輩。
「さて……」
稽古場には私と音羽、そして新の3人だけになってしまった。
はて、どこから始めていこうか……
「とりあえず、普段やってる身訓と発声、それにエチュードの話でもしちゃう?」
「だね」
案外音羽が先に口を開いたので、とりあえずここは彼女に任せるとしよう。
「まずこうして稽古場に集まって挨拶したら、いつも身訓っていう準備体操みたいなやつと、発声……は読んで字のごとくなんだけど、その2つをやるのね」
「はい」
「身訓、つまり身体訓練はそこにCDプレイヤーがあるから、流れる曲に合わせて体操するっていう、ある種ラジオ体操みたいな感じで、今日はとりあえずやらないけどまた今度教えるから存在だけは覚えておいてね」
先輩曰く「アクロバティックなラジオ体操」……とは流石に言わないか。
しかしこれがまた結構辛いのだ。
じわじわと普段運動をしていないツケを払わされてる感じ、とでも言えば伝わるだろうか?
「で、発声は……ちーちゃん、どうする? 発声は実際に体験してもらった方が早いんじゃない?」
「うん、それもそうだね。言葉でいくら言ったところで感あるし」
ということで、稽古場の側にあるテラスに移動。
早速実地で発声についてのレクチャーを開始、と思いきや「じゃあ後よろしく!」と突然私に丸投げする音羽さん。
「いや、別にいいけど何故急に……」
「私はもう身訓の説明したし」
なんて雑な……
さては飽きたな?
「えっと、じゃあ次、発声についてね。これも細かい話をすれば長くなっちゃうんだけど、一言で言えば舞台の上で通る声を出す訓練って感じかな」
舞台の上で、というのはどういうことかというと、広大な舞台と客席に囲まれた空間では声の伝わり方が普段とは少し違うのだ。
そんな普通ではない空間で、お客さんにもしっかり台詞を伝えるためには、腹式呼吸という呼吸法を使った発声が有効とされている。
これは通常大声で叫ぶ時のように喉で大声を出してしまうと、負担がもろに喉にかかってしまい、あっという間に喉が腫れて声が出なくなってしまう故である。
「腹式呼吸はよく『腹から声出せ』って言われるように、読んで字のごとくお腹から息をする方法なんだけど……慣れてないと意識して変えるのも厳しいと思うから、手っ取り早くまずは体験してもらおうかな。ほい、そこに横になってみて」
人間は基本的に寝ているとき、つまり横になっている時は無意識にこの腹式呼吸を使っているので、とりあえず横になれば誰でも腹式呼吸は体験できるのだ。
「どう、お腹から呼吸してる感じ、わかる?」
「んー……まあ、言われてみれば……?」
結果、テラスの床に横になった新と、それを見下ろす女子校生2人という恐ろしい構図が誕生する。
……知らない人に見られたら通報されかねないな、これ。
「で、それを立った状態でできるようになればオッケーって感じ。まずは意識してみるだけでも結構違うんだけど、そこはもう追々って感じかな。まあ、家で軽く練習してみてよ」
「……頑張るわ」
「で、腹式呼吸を意識しつつ、次はやっぱり声量も大事だから、それもこの発声で訓練する感じだね」
「訓練って……具体的には?」
「ここから叫ぶんだよ」
「叫ぶのか……」
そう言いつつ、何か腑に落ちたような表情の新に、はてと思いながらも私は説明を続ける。
「そんで声量以外にはあとは滑舌かな。滑舌悪いと結局声大きくても何言ってるかわからないし、あと何も全ての台詞を大声で言えばいいってものでもないしね」
「え、そうなのか?」
「そりゃそうでしょ。日常会話の場面とかどうするのさ」
「あ、そうか……。で、滑舌って具体的には何やるんだ? 早口言葉とかか?」
「まあ、基本的にはそうね」
すると音羽がまずは発声からやってみれば?と言ってきたので一旦説明を切る。
「とりあえずさっき説明した腹式呼吸だけ意識して、あとは自分が思うように発声してみてよ」
「お、おう。これ、中々恥ずかしいな……グラウンドにいる人とかに聞こえちゃわないか?」
「ばっちり聞こえるから大丈夫。気にしないで」
「何が大丈夫なのかサッパリなんだけど?」
早い話が慣れて気にならなくなるってことなんだけど……これは言わない方がいいだろうな。
渋々ながらも、なんとか自分なりに発声にチャレンジする新。
その姿を見て、私は音羽と顔を見合わせてニヤッと不敵に笑い合う。
「こんな感じでどうだ?」
ふっ、素人め。
「音羽、本当の発声ってもんをこのお坊ちゃんに見せてやりな」
「合点承知でィ!」
ノリノリで前に出た音羽は、次の瞬間、グラウンドはおろか、体感、学校の最寄り駅まで届くんじゃないかくらいの声量を見せつけてくれる。
さすが音羽。私もこの1か月でだいぶ出るようにはなったが、流石に彼女には敵わない。
感心しつつ耳から手を放して、素直に拍手を送る。
「どうだ、見たかい? ざっとこんなもんよ!」
「お、おう……すげぇな……」
若干引いてすらいる新をよそに、ドヤ顔の音羽さん。
「まあ、とりあえず体験としてはザックリこんなもんでいいでしょ。発声と滑舌も詳しくは後で先輩から教えてもらうとして、次は中入ってエチュード、やりますかね」
「そうだね。あんまり発声ばっかしてても演劇部の真の楽しさは伝わらないだろうし」
「演劇部の真の楽しさ……?」
なんだそれはと顔に書いてある新に、私は自信満々に告げる。
「即興劇だよ」と。
更新が開いてしまって申し訳ありません。
中々モチベ管理が難しくて、執筆がはかどらないクソ作者でごめんなさい許して…
次回更新も気長に待っていただけたら幸いです。
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ともかく、次回更新は今のところ未定ですが、ブックマークなどしてお待ちいただけたら嬉しいです。
では。




