二人だけ
……気まずい。
……どうしてこうなった。
現在、8時25分、2年7組、つまり、俺の教室。朝の陽ざしがさす中、俺と、ある女の子が向き合っていた。うん、ある女の子とか言わなくてもわかるよね。昨日、告白された女の子だよ。
……うん、まずいね。超気まずい。
「…えっとー、……その、なんかごめんね。あのね、実は…、その…昨日、東雲君に告白するって言ったら、なんか、こうなっちゃって。やめてって言ったのに」
「い、いや。べ、別にいいよ。それは、君が謝ることではないでしょ」
「きみ、か。やっぱり、私の名前、覚えてくれていないんだよね」
「ぅ。ごめん、俺、人の名前とか、そういうの、覚えるのあんま得意じゃないんだよね」
「私は、雪浪梓。ちゃんと覚えといてね」
「あ、あぁ。善処するよ。…そ、それで、この状況はいつまで続くの?ドアの向こうで覗いているみたいだけど」
「ば、ばれてましたかー。でも、二人はもう付き合ってるんだよね。なら、別に問題なくない?」
そういってドアの向こうから、出てきたのは、滝五鈴だった。クラス委員長で、元気溌剌な女の子である。
「ぅ。…あ、あの……、実は私、……振られたんだよね。…だから、そのこういう状況にされると、すっごい気まずい…」
「…へ?」
「「え、えぇぇぇぇぇ!?」」
ドアに隠れていたクラスメイト達が、素っ頓狂な声を響かせた。
「な、なんで?え、どうして?なんで振っちゃったの?!東雲君!」
何でって言われてもなぁ、と内心思いつつ、考えはしたものの、これと言って理由が見つかるわけもなく、というか理由がわかっていたら、昨日の夜、あんなに悩まなくて済んだのだが。
でも何か話さなくてわいけないと思い、口を開ける。
「……好きな人が、いるんだよ」
自分の口から勝手に出た言葉は、なぜだか心の奥底に落ちて行って、静かに浸透していった。
なぜ自分の口からこんな声が出たのかはわからない。だけど、それが、なぜだか、俺が悩んでいた答えだったのかもしれないと、思った。
「そっかー。まぁ、それはそうだよね。いくら梓がかわいくても、好きな人がいるんじゃ、だめだよね」
「ま。まぁな。そういうことがから、…ごめんな、梓」
「ううん、いいの。私が勝手に盛り上がって、クラスにまで話して、勝手に落ち込んでるだけだから。気にしないで」
「…あぁ」
「…ところで、その東雲君の好きな人って、だぁれ?気になる」
「…っ!」
五鈴の言葉に思わず、寒気がした。別に、五鈴の言葉にとげがあったわけでも、怖い顔をしていたわけでもない。
ただ思い出したくない事実に、俺の心が、体が、拒否反応を示したものだった。