妹、マジ天使
「そっか。……うん、そっか。でも、兄さんは、振ったことに悔いてはいないんだよね?」
「……うん、まぁ」
「私は、兄さんに告白した女の子がどんな人なのか知らないけど、ていうか兄さんも知らないんだっけ。でも、兄さんの答えは間違いでも何でもないと思うよ。あっていたとも言えないけど」
「……そうだよな」
うん。うちの妹、マジ天使。
「だから……、もうそろそろ離してくれない?」
「……やだ」
「もー…」
そうやって、今日の出来事を上書きしていく。そう、思い込ませていた。そう、自分を正当化した。いや、したかった。妹に抱き着いても、自分が振った相手に対しての罪悪感は、消えることはなく。
この味わったことのない初めての感覚に、どうやって向き合うべきか、四苦八苦していた。
☩ ☩ ☩
朝、ともなれば、調子はいつものように戻っていて、でも、だからと言って昨日の夕方のことも、忘れられるわけもなく。
ただ自分が落ち着いたというか、悩むのも疲れてしまった感じだった。
「兄さん、ごはん、できたよ」
「おう、今行く」
今日もこうやって、いつものように妹とのやり取りをする。
いつもと同じ日常に、小さな安堵の欠伸を一つ。そして妹の待つ、リビングへ。
「いただきます」
「はい、召し上がれ。……どお、おいし?」
「うん、うまい。…我が家の味」
「ふふ、ありがとー」
今更だが、俺たち兄弟は、とても仲がいい。俺は妹にうそや隠し事はしたことないし、妹も、俺にそういうことはしていないと思う。……多分。
俺は、妹に、昨日のように困ったことはすぐ相談するし、妹だって、俺にいろんな事を相談してくれる。
例えば、二か月くらい前の7月も頃。妹は中三で、受験生であり、かつ、夏ともなれば、男女交際だって増えてくる。陽菜は俺に対して、勉強教えてと言ってくるのがほとんどだったが、夏休みも終盤に差し掛かったある日、『好きな人を花火大会に誘いたいの。ねぇ兄さん、どうしたらいい?』と、相談しに来てくれたのだ。
もうその時ほんっ当にうれしかった。何せ、妹からの初恋愛相談だ。だから、俺も気合を入れて相談に乗った。
まあ、結果を言おう。
妹は、花火大会に誘ったものの、告白することができなたった。なぜなら、向こうから告白してきたからだ。なので、当然陽菜の恋は成就し、あれ?これ俺いらなかったんじゃね?と思いつつも、妹から、すごい感謝されてしまったので、少しの罪悪感が生まれてしまった。
………あれ、俺、罪悪感感じてばっかじゃね?
まあそんなことはどうだっていい。妹が喜んだ顔は今でも忘れられない。……いやホント可愛いんだよ。君なら分かるよね?翔真君(陽菜の彼氏)、かぁいいよね?
それから、妹の相談事も増してきたし、俺だってしっかり向き合おうとしている。そして、俺が、恋愛について困ったことがあれば、真っ先に陽菜に相談しようと決めていた。だから、昨日相談した。相談してみて、一日明かして、ずいぶんと楽になった気がする。これは妹パワーであるのだろうか。
「陽菜、ありがとな」
だから、俺は感謝の意を告げる。あの時、陽菜もこんな気持ちだったのだろうか。なんだか少し図った気がした。
「へ?う、うんどういたしまして?」
当の本人は気づいていないみたいだった。