二月六日(木)11: 意思の疎通
こいつは何だ。こいつは何なんだよ!
俺は召喚の門を睨んだ。
いや、こいつは何だって、そりゃあ召喚の門だよな。俺は自分の疑問に自分で答えを出す。
違う。
ああ、これもそうなのか。
「俺はそもそも、こういうのには慣れていないんだけど。いや違うな。慣れている人なんていないか」
考えもなしに話し始めて支離滅裂になってしまったので、改めて説明をし直そう。
「俺は召喚の門に対して、今日はいい天気ですねとか寒いですねと言ってみたんだけど、それには何の反応もなかった。それはなぜかと言うと、今日は実際にいい天気だし、実際に寒いからだと思う」
俺は召喚の門に向かって言った。
「今日は暑いですね」
うん、二月なのに暑い、そんなわけないよね。
俺は白蕗さん達に向かって説明を続ける。
「今俺は、二月なのに暑いわけないって思った。これはもちろん俺も同意なんだけど、俺の意見ではなく、召喚の門からのテレパシーみたいなものを受け取っているんだと思う」
一瞬の間を置いて、日向さんが召喚の門に向かって「今日は暑いですね」と言った。
「ほんとだ。説明が難しいけど、いいえ違いますって感じの考えが浮かぶ気がする」
他の女子たちも口々に「今日は暑いですね」とか「今日は雨ですね」とか言い始めた。
白蕗さんだけは俺の話を聞く姿勢なので説明を続ける。
「俺はそもそもテレパシーというものに慣れていないけど、恐らく言葉を送ってきているのではなく、思考を送ってきているんだと思う。そして、今日はいい天気ですねとか寒いですねという問い掛けに対して、召喚の門はちゃんと肯定の意を伝えてきているんだけど、俺自身が実際にいい天気だし寒いと思っているもんだから、返答があったことに気づけなかっただけだと思う」
他の女子たちは今度は「今日は寒いですね」とか「今日は冬ですね」とか言い始めた。
「なるほど、精神感応は言語野を通さずに意思を直接伝える。合理的な説明ですね」
お褒めに預かり光栄です。
「私も先程から意識の中で召喚の門に質問を繰り返しているのですが、小林さんの説明を聞いていなければ気づけないほどに反応は捉えづらいですね。個人差があるのかも知れません」
「私にはぜんぜん分からないわ」
雲川さんは感じ取れないようだ。
「各自の結果報告を聞いている時間はありません。小林さん、あなたが召喚の門との精神感応が一番強いようですので、召喚の門に質問してください。何が目的なのか、なぜこんなことをするのか、そして、やめさせることはできるのかを聞き出していただければ助かります」
俺の心臓がドクンと跳ねた。
突然だ。突然すぎるが、この時間の繰り返しを、止められる希望が見えた。
もし今周で時間の繰り返しが終わるなら、多臓器不全で入院している宮田には申し訳ない気もするが。
いや、違う違う。今周はすでに召喚の門によって多くの人の命が奪われてしまっているんだから、今周で終わらせてはいけない。
俺は召喚の門に向き直った。
こいつは何だ。こいつは何なんだよ!
さっきそう考えたとき、そりゃあ召喚の門だよなと納得したが、それは召喚の門からの返答だったのだろう。
「改めて聞くけど、お前は何だ?」
召喚の門だと納得する感覚がある。「こんにちは」と声を掛けると「こんにちは」という言葉が反響しているように感じたが、とても捉えづらい。これでいろいろな質問をするのは難しそうだ。
「小林さん、通じるかどうかは分かりませんが、言語野を通して回答をいただけるように依頼してみてください。言語野というのは脳にある言葉を話したり理解する機能を司る領域です。精神感応で意思という生データを送りつけるのではなく、言語野というフィルターを通して送ってもらってください」
白蕗さんのアドバイスに従って俺は言い直してみる。
「えっと、言語野を通して答えてもらいたいんだけど、お前は何なんだ?」
『我は召喚門なり』
これが、俺と召喚の門との、最初の明確な意思の疎通だった。




