二月六日(木)7: 富士は日本一の山
召喚の門に対して各自の能力を試すということで、俺も召喚の門に近づいた。
しかし、いざとなってみると、人がいる前で無機物と思われる召喚の門に「おはよう」とか声を掛けるのは、どうにも気恥ずかしい。
日向さんを見ると、召喚の門に対して両手をかざし、能力を使っている。
「精霊えいっ、精霊えいっ」
そうか、俺も能力を使うときにポーズを決めて、能力を発動していますアピールをすればいいのか。そうすれば、無機物に話しかけている変な人ではなく、能力を発動している痛い人に見えるかも知れない。いや、ここにいるのは全員が能力者だから、痛い人には見えないはずだ。
俺は日向さんを見習って、両手を伸ばして召喚の門に手をかざす。いや待て、片手だけ伸ばして、もう一方の手は肘の内側に添えたほうがいいだろうか。掌を向けるのではなく、指を銃の形にしたほうがかっこいいだろうか。
いや、バカなことを考えるのはよそう。ポーズなんてどうでもいい。そもそも俺は今まで能力を使うときにポーズなんてとっていなかったんだから、妙なことをして能力が発動しなかったなんてことになったら、白蕗さんに肺活量の限界まで溜息をつかせることになってしまう。
俺は必要以上に三度ほど咳払いをして、意を決して言った。
「おはよう」「おはよう」
ん?
俺は一回しか言っていないのに、こだまのようなものが聞こえた気がする。
もしかしてこの展望フロアは、ものすごく音が反響するのだろうか。いや、そんなことはないよな。俺達が会話をしても、そんなに声が響く感じではなかったわけだし。
俺は別の言葉を試してみることにした。
「こんにちは」「こんにちは」
まただ。ものすごく音が反響しているように聞こえる。
能力以外の言葉だったらどうなるのだろうか。
「富士は日本一の山!」
おっ、能力以外の言葉だと反響しないな。
「どうしたの小林くん、急に?」
日向さんを驚かせてしまったようだ。
「いや、俺が『おはよう』とか『こんにちは』って召喚の門に言ったときだけ、言った言葉がものすごく反響するっていうか、言ったそのままの言葉が聞こえるんだ」
俺がそう言うと、なぜか日向さんは素早く上体を左右に動かしながら聞いていた。えっと、何をしているのでしょうか。
「小林くんの能力を避ける感覚が掴めてきたみたい」
「えっ、ああ、また俺は能力を使っちゃってたのか」
言葉を発するだけで否応なしに能力が発動してしまうのって、使い勝手がよくないよな。
じゃなくて、なんですと?
「俺の能力を、避けたの?」
「うん。目で見えるわけじゃないんだけど、何かが飛んできているような感覚はあるから、それを避けている感じかな」
もしや、名のある剣豪とお見受けしたが。
いやいや、どのレベルの剣豪だったら、目に見えないものを避けることができるんだろうか。
「避けれるものなんだ」
俺は唖然とするしかない。
「そんな話は後回し。『おはよう』とか『こんにちは』って言ったときだけ、同じ言葉が聞こえるんだよね」
日向さんはそう言うと、召喚の門に向かって言った。
「おはよう」
日向さんはしばらく待ってから、今度は「こんにちは」と言った。
「うーん、私には何も聞こえないみたい」
「なるほど。そういえば、日向さんの能力は、直前で何か見えないものに弾き返されている感じなんだっけ?」
「ああ、それは、前の周でお湯をかけたり、アイスをぶつけたときだよ。能力が弾き返されているのかどうかは分からないな」
「俺の能力が弾き返されて俺に返ってきているのかも知れないけど、今のところは断定できないか」
もう少し、いろいろ試してみないといけないな。
「ありがとう。このあといろいろ思いついたことを召喚の門に言ってみるけど、変なことを口走っていても、あまり気にしないでもらえると助かる」
「うん、分かった」
さて、いろいろ試すと言っても、まずは俺の能力を全部試しておかないとな。




