「時間も限られていますので、悟暁高校の生徒の皆さんを紹介いたしましょう」
白蕗さんの言葉に、俺は我に返った。そうだ、あまり時間はないのだ。
俺は四人の女子生徒を見る。先程まで、白蕗さん、日向さん、雲川さんに加え、この四人の計七人は、大展望台二階の多目的トイレに避難していたわけだ。多目的トイレに七人とか、ずいぶん窮屈だとは思うが。
恐らく女子同士は多目的トイレで自己紹介も済ませているだろうから、わざわざ俺のために紹介してくれるってことだよな。俺のために、俺のために、俺のために。よし、自己肯定感が少しだけ貯金できた気がする。
それはそうと、悟暁高校の皆さんを紹介してもらう前に、俺からまず自己紹介をしたほうがいいよな。
「あ、みなさんこんにちは。俺は芙鶫高校の小林光夫です。今見てもらったと思うけど、能力は体内時計の調節です」
俺は四人相手に能力を披露しつつ自己紹介をした。能力の同時使用は、四人くらいなら問題ない。
俺が自己紹介をしたことで、悟暁高校の皆さんもそれぞれ自己紹介をする流れになった。えっと、俺のために白蕗さんが紹介して下さるはずだったのに、俺は自らの手で台無しにしてしまったと理解すればよろしいのだろうか。
悟暁高校の女子のうち、一際背の高い女子がまず自己紹介をした。ロングのストレートヘアの、色白美人といった感じの女子だ。
「私は五所川原瞳と言います。自分でも遠くの物がよく見えるので、何なんだろうと思っていたのですが、白蕗さんにそれは特殊な能力だと言われて驚きました」
五所川原瞳さん、どこかで聞いた名前のような気もする。
「どれくらい遠くの物が見えるんですか?」
「えっと、そうですね、こちらからは見えませんが、富士山は見ましたか?」
俺はさっき見た小さな富士山を思い出して頷いた。
「頂上に神社があって、そこに頂上浅間大社奥宮と書かれているのが私には見えました」
えっと、これが本当なのかどうか、俺には確かめる手段がないわけだけど、こんな嘘をつく意味もないだろうから、信じておこう。
次に自己紹介してくれたのは、小柄で愛嬌のある顔をした女子だ。
「私は鰺ヶ沢香です」
五所川原瞳さんが目がいいってことは、鰺ヶ沢香さんは嗅覚がすごのだろうか。
「私は人に触れるだけで、その人のどこが調子悪いのかが分かります」
違った。嗅覚じゃなくて触覚だった。こういうのはキャラ名に応じた能力を持つんじゃないのか。
「ちょっと失礼しますね」
鰺ヶ沢香さんはそう言って俺の両肩に両手を置いた。えっと、初対面の女子の顔がこんな間近に来ると、ドキドキしてしまうのだけど。視線を落とすと、小柄な割に豊満な胸がそこにあった。いやいや、何を見てるんだ俺。俺は顔を天に向けて目を固く閉じた。
「ずいぶん内臓が弱っていますね。あと体温も急上昇しているようです」
俺も宮田ほどではないけど、能力の多重使用によって内臓にダメージを受けているからな。あと体温に関しては、現在の状況がそうさせているだけだと思う。
触れるだけで症状が分かるというのは、白蕗さんの能力を知らなければすごい能力だと思ったんだろうけど、何だか普通に感じてしまうな。いや、普通はこんな能力なんてありえないんだが、俺もずいぶん感覚が麻痺してるな。
「ちょっと治しておきますね」
「えっ」
目を開いて鰺ヶ沢香さんを見ると、彼女の体がぼんやりと光った。
「ちょっと待って、治すって、代償とかないの?」
「えっ、ないですけど。もう治りましたよ」
なんてこった。この子の能力は、別の意味で白蕗さんを超えていた。
次の女子も小柄で、とても大人しそうな印象だ。
「私は八戸愛海です。私はどんな臭いでも嗅ぎ分けられます」
犬並みの嗅覚なのかな。
「でも、あだ名のハチをハチ公って言う人はぶち殺します」
見た目と違って、めっちゃ物騒な子だったよ。余計なことを言わなくてよかった。違う意味でドキドキする。
八戸愛海さんは掌を上にして両手を俺に差し出した。そして彼女の体がぼんやりと光る。なんだか花のような匂いがして、気分が落ち着いた。
「私は心を落ち着ける香りを出すことができます。ぶち殺しますって言ったのは、それを確かめるためにちょっと脅かしただけです」
よかった。物騒な子はいなかったんだ。
最後の女子は、ちょっと気の強そうな、可愛らしい女子だ。
「十和田春香です。私は集中すれば小さな物音も聴き取ることができます。あなたの心拍数は、一分間に八十二回ですね。平常心拍としては少し高いようです」
この人は聴覚なのか。俺の心拍が高いのは、平常とは言えない状況だからという気もするけど。
あと、十和田春香さんって名前も、どこかで聞いたような気がするんだが、どこで聞いたのか思い出せない。
十和田春香さんの体がぼんやりと光った。
「私の声は、他人を落ち着けさせる効果があります」
ああ、確かに癒やされる声だ。俺の心拍がどれくらい下がったのかは分からないけど。
悟暁高校の女子の自己紹介が一通り終わった。えっと、つまり、視覚、触覚、嗅覚、聴覚が揃っているのか。
いや、一人いなくなってしまったけど、食べたものに含まれているものが分かるって言っていたアイツが味覚ということは、五感が勢揃いしているのか。能力はランダムに与えられているのではなくて、何かの意図を持って与えられているんだろうか。
それを言っちゃうと、日向茜さんは火属性、雲川潤さんは水属性、白蕗空さんは風属性だよな。
「それでは自己紹介も済みましたし、各自の能力をあの召喚の門に対して使って、反応を調べてみてください」
白蕗さんの言葉を聞いて、俺は雑念を振り払った。そうだ、俺の能力が召喚の門に通じるか、それを試さなければならない。