二月六日(木)4: 止める暇なんてありゃしない
大展望台一階、下りエレベーター乗り場の前に来た。
その両開きの召喚の門は、何の支えもなく1メートルほど空中に浮かんでいる。
どんな材質でできているのか、よく分からない。木のようでもあり、石のようでもある。門の上には女性の胸像が設えられており、まるで来る者を歓迎するかのように両腕を広げて、門上部のアーチと一体化している。門は開いているが、その向こうは真っ白な光に包まれており、何があるのか見えない。
俺は召喚の門から数メートルのところで足を止めた。召喚の門にはあまり近づきたくない。こいつは疫病神だ。今日もすでに多くの命を奪ってしまった。
崩山一輝は、何の躊躇いもない足取りで召喚の門に近づいていく。見た目の繊細さによらず、なかなか豪胆な性格のようだ。
「何なんすかね、これ。これってあれっすよね。どこにでも行けるドア」
「わああ!」
おいやめろ、それ以上は言うな。
白蕗さんが召喚の門のことをドアと呼ぶなと釘を刺していない可能性と、コイツが話を聞いていない可能性、どっちが高いだろうか。
「ああ、あの白蕗さんって子が、召喚の門のことをドアと呼ぶなって言ってましたね。俺としては、門でもドアでもいいんじゃないかって思うんすけど、何かまずいんすかね」
お前がよくても駄目なんだよ。駄目なものは駄目なんだよ。というかコイツ、ちゃんと話を聞いているんじゃないか。ちゃんと話を聞いているんなら、行動する前にその話を思い出してくれよ。
まだ出会ってから十分くらいしか経ってないのに、崩山一輝のことは脳内で呼び捨てにしてるし、なんならコイツ呼ばわりしている。
白蕗さん曰く、俺も結構なポンコツではあるのだが、それを下回るポンコツということでよろしいだろうか。白蕗さんは、よく俺に対してブチ切れずにいられるな。いや、ときどきブチ切れているような気がしなくもないけど。
「それはそうと、これ何かめっちゃ光ってますけど、向こう側はどうなってんすかね」
そう言いながら崩山一輝は召喚の門に手を突っ込んだ。
「あっ」
「あっ」
止める暇なんてありゃしない。
「ぎいいいやあああ!」
崩山一輝の悲鳴と、彼の腕の骨がバキバキと砕かれる音が展望フロアに響く。
「ちょっと見てないで助っ、助けっ」
肉は裂け、骨は砕け、飛び散った液体も召喚の門に吸い込まれていく。これは万が一にも助かることはないだろう。あまりにも凄惨な光景なのに、俺の体は硬直して目を逸らすことすらできなかった。
召喚の門によって人が粉々に砕かれる様子を、こんなに間近に見せられるとは思わなかった。これが親友だったら、俺は耐えられないかも知れない。宮田の気持ちが少しだけ分かった気がする。
もちろん、さっき知り合ったばかりの変な奴が粉々になっても心が痛まないのかと言うとそんなことはなく、俺はその場で嘔吐した。
そうか、俺も、俺もあんな風になるのか。毎回あんな風になってたのか。




