二月五日(水)17: 優しくて、友達想い
俺はふと、不機嫌そうにサンドイッチを頬張っていた宮田を思い出す。
『何でサンドイッチ食べてんだ?』
『そんな日もある』
宮田との思い出はいろいろあるはずなのに、なぜサンドイッチを思い出すんだ。
サンドイッチはさておき、宮田はこの千周以上を、どんな思いで過ごしてきたんだろう。
あの日の宮田は、どんな気持ちでサンドイッチを食べていたんだろう。
千周以上も俺をほったらかして、弓道に打ち込んでいた宮田。俺はそれを宮田の身勝手だと思っていた。
でも、違っていたのか。
病室での雲川さんの自己紹介を俺は思い出す。
『宮田くんはいつも熱心に弓道部を応援してくださって、私達にはとても励みになっているのですよ。宮田くんは優しくて、本当に友達想いで』
宮田が優しくて、友達想い。
俺なのか。俺なのかよ。
宮田がそんなに思い詰めていたとは。そんなにまで俺に対して申し訳ないと思っていたとは。
今までの宮田の言動、行動を思い返す。俺は気づくことはできなかったのか。気づくきっかけはなかったのか。
『でもいいのですか、宮田さん。あなたはもう限界です』
『分かってる、分かってるけど、俺は、あんな思いを、俺は』
宮田の真剣な眼差しを思い出す。あのとき宮田が言おうとしたのは「俺は、あんな思いを光夫にさせてしまった」ということだったのか。あの時点ですでに宮田は助けを求めていたのか。
宮田の病室のほうを見る。病室には何の動きもない。あそこで、宮田は今も生死の境を彷徨っている。
宮田、そんなに苦しいなら、なぜ一言くらい相談してくれなかったんだよ。
いや、違う。
「そうか、宮田は俺に相談することもできず、一人で苦しんでいたのか」
誰も答えるものはない。
そういえば、白蕗さんが言うには、宮田の記録には『もう無理』『もう限界』と強い意志で書き込んであるんだっけか。
宮田、一人で苦しみやがって。視界が滲む。
長い沈黙のあと、白蕗さんが口を開いた。
「さて、宮田さんには頑張っていただくとして、私達は明日の修学旅行に備えなければなりません。ただの修学旅行ならいくらでも不参加でよいのですが、私達にとってはそうではありませんから」
そうだな。少なくとも俺は、修学旅行に参加して、日本電波塔で召喚の門によって粉々にされなければならない。
「私は無理」
雲川さんがぽつりと言った。
「私は、できれば、無意味かも知れないけど、宮田くんに付いていてあげたい」
「はい。それもよいでしょう」
白蕗さんは肯定するのみで、それ以上は語らなかった。
日向さんは思案顔だったが、やがて言った。
「私は修学旅行に行くよ。あの召喚の門に、炎の精霊は効かなかったけど、まだ何か試せることがあるかも知れないから」
日向さんに未来を変える力があると信じよう。
「俺ももちろん行くよ。何しろ俺の能力が召喚の門に通じるのかどうかも試してないしね。宮田のためにも、できることをやらないと。いや、宮田にとっては、雲川さんが隣にいてくれるのが一番なんだろうけど」
ちらりと雲川さんを見る。雲川さんは唇をすぼめてぷるぷると震えている。何ですかその反応は。意味不明すぎる。
「それはそうと、宮田が不在だと、記憶の『固定』をどうするか考えないといけないと思う」
「はい。それは問題ありません」
俺の疑問に、白蕗さんが即答する。
「私の記録に今回の顛末をすでに記録済みですので、周回が起こりましたら、宮田さんに一人ずつ今回の記憶を呼び覚ましてもらえばよいのです」
なるほどね。次の周回に持ち越せるのは、宮田の記憶だけじゃなかった。
「一人ずつというのは、やっぱり負荷が大きすぎるのを避けるため?」
「はい。宮田さんの能力の多重使用がどれくらいの負荷になるのか不明ですので、危険は避けたほうがよいでしょう」
宮田の病室が騒がしくなったのは、その時だった。
この重い展開がそろそろしんどくなってきたので先に答えを書いてしまうが、宮田の容態が急に改善したため、医師たちが面食らって騒動になっているのだった。




