雲川さんが語ったところによると、宮田とこんなやり取りをしたらしい。
第三者からの伝聞にしてはやけに克明に記載されているが、こういうのは物語の回想においてはよくあることだと思って受け流してもらえると幸いだ。
弓道場の裏、一人で座り込み、涙を流す宮田。そこに雲川が近づいていく。
宮田「何だよ、俺を笑いに来たのか」
雲川「私が笑っているように見える?」
宮田(無言)
雲川「何か困っていることや悩んでいることがあったら、相談してもいいのよ」
宮田「言えるわけねーだろ。その時のことは絶対に話せねーよ」
雲川「なるほど、それは能力に関係あること?」
宮田(無言)
雲川「そう。それで、宮田くんが話すと、相手がそのことを思い出してしまうから、話せないってことね?」
宮田(頷く)
雲川「分かった。じゃあ、私が質問をして、頷くか首を横に振るかで答えてもらえば、宮田くんは何も言わずに済むわね」
宮田「いや、そうかも知れねーけど、確実にそうだとは」
雲川「はい質問。召喚の門の話になったところで飛び出したってことは、召喚の門に関係することよね?」
宮田(頷く)
雲川「じゃあ、記憶を『固定』したあとね?」
宮田(頷く)
雲川「となると、召喚の門に入ると死んじゃうことに関係するのね」
宮田(頷く)
雲川「なるほど。ちょっと賭けだったけど、頷くだけでは記憶は蘇らないみたいね」
宮田「えっ、あっ、雲川、何てことを。もしあの記憶が蘇っちまったらどうするつもりだったんだ。あれがどれだけ、いや、やべ、本当に喋っちまうところだった」
雲川「想像もできないけど、よっぽど辛い痛みなのね」
宮田(頷く)
雲川「それで、宮田くんが悩んでいるのは、自分の痛みのせい?」
宮田「いや、それは」
雲川「答えは、頷くか、首を横に振るかだけよ」
宮田(首を横に振る)
雲川「つまり、自分じゃなくて、誰かの痛みってことか」
宮田(頷く)
雲川「それって、あの、私、いや」
宮田「?」
雲川「その誰かって、えっと、弓道場に残っている三人の一人?」
宮田(頷く)
雲川「そ、そう。小林くんのこと、よね?」
宮田(頷く)
雲川「小林くんに、何かされた?」
宮田「光夫が俺に何かするわけねーだろ。雲川は光夫が俺に何かやってると思って卑怯とか言っちゃったけど、光夫はそんなことしねーよ。光夫は光夫で、ムキになって雲川に卑怯って言い返しててどうかとは思うけど」
雲川「答えは、頷くか、首を横に振るかだけよ」
宮田「あっ」
雲川「じゃあ、小林くんに、何か、したのね?」
宮田(しばらく逡巡し、頷く)
雲川「それを後悔して、苦しんでるのね」
宮田「そうだよ、俺、光夫に、光夫にひどいことをしちまった。俺、時間の巻き戻りが起こるきっかけが光夫だって確認するために、光夫をあの召喚の門に突き飛ばしちまった。あんな、あんなにひどい思いを、俺は光夫にさせちまった」
雲川(無言)
宮田「俺はこの手で、光夫にあんな苦しい思いを。うおお、申し訳ない、光夫、何度死んでも謝りきれねー。光夫、すまない」
雲川「ああっ!」
宮田「どうした、雲川?」
雲川「宮田くんが、宮田くんが死んだって。C組の誰かが屋上から飛び降りたって噂が、違う、首を吊って、ああっ」
宮田「ああっ、俺は何てことを」
しばし泣き崩れる二人。
宮田「すまない雲川、俺が余計なことを言っちまったばっかりに、思い出させちまったみてーだな」
雲川「まさか、こんなにも。宮田くん、あなたはどうして、こんなにも何度も何度も命を断つようなことを。」
雲川(無言)
雲川「もう私は思い出してしまったんだから、話して」
宮田「ああ、本当にすまない。俺は光夫に申し訳なくて、何度も何度も自殺を繰り返しちまった」
雲川「だからって、そんなこと」
宮田「ああ、そんなことをしても何の解決にもならなかった。そして気づいたんだ。そうやって自己満足に逃げてるだけじゃねーのかって」
雲川(無言)
宮田「それで、ちゃんとこの時間の繰り返しから抜け出そうって思い直したんだけど、それでもどうしても光夫と顔を合わせにくくて」
雲川「それでどうしたの?」
宮田「いや、その、弓道部に入部して、練習できるのは月火水だけだけど、やってるうちに弓道おもしれーってなって」
雲川「呆れた。結局、逃げてしまったのね」
宮田「うっ、いや、確かに」
雲川「でも、弓道を選んだことは褒めてあげるわ。弓道が面白いことは事実だし」
宮田「そうだな」
ようやく笑顔になる二人。
宮田「あと、ちょっとすまないんだが、頼み事がある」
雲川「なに?」
宮田「光夫の前では、召喚の門に関してはなるべく深刻じゃない感じで話してほしいんだ」
雲川「小林くんに勘付かれないように、軽口でも叩いておけばいいのね」
宮田「ああ、頼む」
雲川「ちょっと妬けるな」
宮田「えっ」
雲川「何でもないわ」
宮田「いや、気になるだろ」
雲川「じゃあ私の質問に答えて。答えは頷くか首を横に振るかだけよ」
宮田(頷く)
雲川「宮田くんは、私のこと、えっと、何でもないわ、どうやら落ち着いたみたいね。そろそろ弓道場に戻る?」
宮田「ああ。って、何でそんな質問を頷くか首を横に振るかで聞くんだよ」
雲川「な、何でもないってば」
弓道場に向かって歩き始める二人。暗転。