二月五日(水)15: 勘違い甚だしい
「理由は、あなたなのよ」
雲川さんの言葉が脳に浸透するまでに、しばらく時間がかかった。
「俺?」
宮田が42回も自殺したのは、俺のため?
いや、それとも、俺のせい?
「えっと、俺、何かやっちゃったのかな?」
雲川さんは答えない。一瞬、何かを言おうとしたようにも見えたが、また口をつぐんでしまった。
「あ、あの、自分の胸に聞いてみろというパターンは、勘弁してもらえるといいかな、なんて」
虎の尾を踏む覚悟で、ちょっと冗談めかして言ってみる。
しかし、雲川さんの唇は、ちょっともにょもにょ動くだけで、言葉を発する気配がない。
ふと気づいたが、こんな美人の顔が目の前にあって、しかも俺を見つめているとか、急にドキドキしてきたぞ。
いや、そんなことを考えている場合じゃない、誰か、この状況から、助け出してくれませんかね。
沈黙を破ったのは、日向さんだった。
「小林くん、雲川さんが困ってるよ」
えっ、助けてもらえるかと思ったら、追撃ですかね。
「雲川さんはね、宮田くんのことが好きなんだよ」
「なっ」
日向さんの言葉に、雲川さんが硬直した。
「なのに、宮田くんが小林くんのことを大事にしてるから、雲川さんはどうしていいか困ってるんだよ」
「なっ」
日向さんの言葉に、俺も硬直した。
「なるほど、分かりました」
白蕗さんが、何かを納得したようだ。今度こそ助けてもらえますかね。
「これが三角関係というものですね。私、恋愛関係には疎いもので、気づきませんでした」
助けてもらえるかと思ったら、とどめを刺されちゃったよ。
「そんなんじゃないわよ」
雲川さんが真っ赤になって否定する。真っ赤なのが、怒りなのか照れなのかは判然としない。
雲川さんは何度も「明鏡止水」と小声で言っている。重ね掛けは意味があるのだろうか。俺には分からない。
しばらくして、雲川さんは落ち着いた口調で話し始めた。
「ありがとう、日向さん、白蕗さん。茶番はもう結構よ」
雲川さんは茶番ということにしておきたいようだ。いや、要らないことを言ってしまわないように俺は口を閉ざす。
「私が宮田くんのことを好きとか、勘違い甚だしいわね」
そうだね。病室での態度を見て、何となくそんな気はしていたよ。いや、要らないことを言うんじゃないぞ俺。
雲川さんは、大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。そして言った。
「宮田くんは、ずっと後悔していたのよ。いえ、今も後悔しているのよ。小林くん、あなたを召喚の門に突き飛ばしたことを、今でもずっと後悔してる。ずっと申し訳ないと思っているのよ。だから分かる。宮田くんは、あなたに対する贖罪のつもりで、わざと自分の辛い記憶を呼び起こしたのよ」
雲川さんの言葉が脳に浸透するまでに、しばらく時間がかかった。
「俺?」




