「宮田くんは、何をやったらあんなことになっちゃったんだろう」
長い沈黙のあと、日向さんが誰に訊くともなくつぶやいた。
白蕗さんは拳を額に当てたまま、何も答えない。
昨日、俺は体内時計をリセットする能力を大人数に対して使用したことで、過労で倒れてしまった。いや、あれが過労だけなのかは分からないが、ともあれ一晩眠ってある程度は回復できたし、白蕗さんの風の息づかいで全回復できていると思いたい。
じゃあ、宮田はどうなんだろう。俺の過労を何十倍にもしたとして、あんな風になってしまうものなのだろうか。
「宮田さんは」
白蕗さんは顔を上げることなく話し始めた。
「宮田さんの症状は、小林さんのように能力を過剰に使用したことによる重度の過労もありますが、それだけではありません」
やはり、というか、そうなのか。
「院長先生がおっしゃっていた多臓器不全というのは、生命の維持に必要な重要な臓器、脳や心臓や肺や腎臓や肝臓のうち複数の臓器の機能に障害が発生している状態を言います。ひとつの臓器の治療ができたとしても、他の臓器の治療が間に合わないなど、死亡率は五割から九割にも達します」
雲川さんのほうから息を飲む音が聞こえた。
院長先生の「今夜が山場」という言葉を思い出す。今夜の山場を超えたとして、その先も平坦ではなさそうだ。
「ですが、宮田さんの症状はそれだけではありません。多臓器不全が最優先事項ということで、院長先生は触れなかったのでしょうけど、宮田さんは、宮田さんの症状は、ああ、あんなにもひどい」
白蕗さんは手で顔を覆って、肩を震わせている。
やがて白蕗さんは顔から手を離し、顔を上げた。その顔は涙でびしょ濡れだが、何かを決意したような表情だ。
「これは私達全員にとって、いえ、特に小林さんにとって重要なことなので、お話ししておかなければなりません」
えっと、話が飛躍した、わけではなく、続きなのだろうか。
「はい。宮田さんの症状の話です。院長先生は触れませんでしたが、宮田さんの全身の筋組織は、ずたずたになっています。そして、全身の至る所で剥離骨折も起こしているようです」
雲川さんのほうから今度は「ひっ」という短い悲鳴が聞こえた。
院長先生の言葉を思い出す。
『いったい、どのようなことが起これば、人間の身体がこんなにもダメージを負うのか、長年医者をやっている私にもさっぱりですよ』
そうだ、院長先生も理由が分からないというようなことを言っていたではないか。
「な、なんで宮田はそんな、全身がバラバラになるようなひどい状態に」
俺はそこまで言ってから、おそらく自分が正解を言い当てたことに気づいた。
「まさか」
「はい。そのとおりです」
白蕗さんが肯定する。
「宮田さんは、自らの能力によって、召喚の門によって自らの身体が粉々になった記憶を思い出したのです」