二月五日(水)11: なんて不甲斐ない
面会時間は20時までとのことだが、そんなに遅くまでお邪魔しているわけにもいかないので、俺達は17時頃には宮田の病室を出た。
しばらく無言で廊下を進んでいくうち、白蕗さんがふらふらと壁際に寄っていく。そしてそのまま白蕗さんは廊下に設置してある待合椅子に腰を下ろした。
「なんて不甲斐ない」
白蕗さんが吐き出すように言った。よく見ると白蕗さんの体が小刻みに震えている。
「みなさんに能力の向上を、などと言っておきながら、私の能力では宮田さんを治し切ることができませんでした。私に、どんな怪我や病気でも治せる力があればいいのに」
白蕗さんは握り拳を額に押し付けて固く目をつぶっている。いや、さすがにそこまで行くと『機械仕掛けの神』どころではなくなるわけだが。
「それで、宮田くんは、どうなの?」
雲川さんが、恐る恐るといった風に訊く。白蕗さんは、やや間を置いてから答えた。
「分かりません。ずいぶんと回復はしたのですが、おそらく持ち堪えられるかどうかは宮田さん次第です」
しばしの沈黙。
「でも、宮田は時間が巻き戻れば復活するんだよね?」
俺は確認するように訊く。
「はい。復活はします。ですが、それで何もかも元通りになるわけがないじゃないですか」
「えっ」
俺の隣に立っている日向さんが言葉を継ぐ。
「今夜もし宮田くんにもしものことがあったら、私達は明日、どんな気持ちで過ごすことになるのかな」
雲川さんが消え入りそうな声で言う。
「そんなの」
そんなの無理よと言いたかったのだろうが、その言葉は聞き取れなかった。
しばらくして、白蕗さんが再び口を開いた。
「かく言う私も軽く考えてしまっていたことを認めなければなりませんが、宮田さんが自ら命を絶ったときのみなさんの記録には、とても深い悲しみが刻まれているのですよ。ここにいるみなさんだけでなく、学校中の全ての生徒が、先生が、もっとたくさんの人が、その悲しい傷を負ったまま生きているのですよ。次の周回でその記憶がなくとも、傷は残っているのです。私は、過去の記録だからと軽く考えてしまっていましたが、いざ宮田さんのあのような姿を目の当たりにして、私は、私は」
白蕗さんはそこまで言って黙ってしまった。
俺はふと、前回の修学旅行の集合時間の日向さんとの会話を思い出す。
『小林くんが死んだら私は死なずに済むって言われても、安心なんてできないよ』
そうだ。どうせ生き返るんだから死んでも構わない。そんなはず、ないじゃないか。
召喚の門に吸い込まれてしまう人達について「諸君、死んでくれ」などと考えていた俺の軽薄さが、重くのしかかってくる。
白蕗さんや雲川さんにも、「すでに召喚の門の中にいます」という言葉がのしかかっているのかも知れない。
死というものを、命というものを、軽く考えてしまっていた。
これはその報いなのだろうか。




