二月五日(水)10: 絶対に治ります
白蕗さんが宮田のお母さんの前に進み出て、改めて自己紹介をした。
「改めまして、初めまして。私共は芙鶫高校の生徒で、宮田さんとは懇意にしていただいています。本日、宮田さんが急病で入院なさったことを知り、居ても立ってもいられない気持ちで見舞いに参じた次第です。申し遅れましたが、私、白蕗空と申します」
白蕗さんがお辞儀をするとき、なぜか胸の前で手を合わせていて、なぜか体がぼんやりと光ったが、見てないふりをしておこう。
「これはご丁寧に。私、宮田の母、宮田忍と申します。うちの子に、こんなにもお友達がいるとは思いませんでした」
おや、宮田のお母さんを最初に見た印象では四十代半ばか後半くらいだと思ったが、改めて見ると、まだ四十代に達していないように見える。むしろ、高校生の息子がいるにしては若く見える。
宮田のお母さんが俺を見る。
「あなたが光夫くんね。うちの息子が、いつも話をしているんですよ。うちの子に構ってくれて、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ、宮田くんにはお世話になっています。小林光夫と申します。宮田くんとは、親友というか、腐れ縁というか、仲良くしてもらってます」
宮田は俺のことをどういう風に伝えているのだろう。不思議な能力を持っていて、同じ時間を繰り返す仲間とは言えないだろうしな。
次に自己紹介をしたのは雲川さんだ。
「初めまして。私、宮田くんと同じく弓道部の雲川潤です」
「えっ、うちの子が弓道部?」
「あっ、いえ、私が弓道部で、宮田くんはいつも熱心に弓道部を応援してくださって、私達にはとても励みになっているのですよ。宮田くんは優しくて、本当に友達想いで」
雲川さんはそこで言葉を詰まらせた。そして切れ長の目からまた涙が零れ落ちる。おい、宮田、いい加減にしろ、そろそろ起きろ。
雲川さんがこんなにも涙もろいとは。正直言って、俺は雲川さんを誤解していたようだ。いや、宮田も雲川さんのことをクールビューティーと称していたから誤解しているのかも知れない。
さらに言えば、俺は宮田のことを剽軽で楽しいやつだと思っているが、優しくて友達想いというところには気づいてなかった。そういう一面もあるのか。
「あらまあ、うちの子に、こんなにきれいなお友達がいるなんて。いつものこの子なら、あなたに手を握ってもらったら飛び起きそうなのにね」
宮田のお母さんは冗談めかして言うものの、その表情は寂しげだ。
「いえっ、お義母さん、私なんて、そんな」
雲川さんが、めっちゃ照れてる。やっぱりクールビューティーではないよな。それはそうと、今さっき「お母さん」ではなく「お義母さん」って言ったかな。いや気のせいだと思うけど。
雲川さんは宮田のお母さんの手を取り、励ますように言った。
「宮田くんはきっと回復します。絶対に治ります。私はそう信じていますから」
ちらりと院長先生を見ると、笑顔を浮かべているものの、寂しげだ。宮田の容態が予断を許さないということが、その表情から伝わってくる。おそらく医者なら絶対に口にすることができない「絶対に治ります」ということを言えてしまう高校生に思うところがあるのかも知れない。
最後に日向さんが自己紹介をした。
「私は宮田くんと同じクラスの、日向茜です。宮田くんには、修学旅行とかでお世話になっていて、あっ」
うん、修学旅行は明日からだねぇ。
「えっと、修学旅行の準備とか、いろいろお世話になっていて、宮田くんも修学旅行をほんとに楽しみにしてたのに、こんなことになっちゃって」
日向さんが言葉を詰まらせた。よく考えたら、不思議な能力を持っているとか、時間の巻き戻りなんてのがなければ、日向さんは宮田や俺とはそんなに接点はなかったんじゃないだろうか。
「本当にありがとうね」
日向さんが言葉に詰まったのをどう受け取ったのか、宮田のお母さんの目にも光るものがあった。




