「あの、あなた達は何をやっているんですか?」
見知らぬ女性にそう言われて、俺達は動きを止めた。
女性は四十代半ばか後半くらいだろうか。背が高いが、そのせいなのか、ひどく痩せて見える。
この女性が誰であれ、集中治療室に来てみたら、意識のない宮田の手を取って祈る雲川潤さん、手を合わせて祈る白蕗空さん、その白蕗さんを支える日向茜さん、そして「おはよう」と繰り返す俺がいたわけで、この状況を見て何をやっているのか疑問に思わない人はまずいないだろう。
客観的に見ると、俺が一番怪しいな。むしろ俺だけ怪しいな。完全に不審者だな。その俺が釈明をして説得力はあるだろうか。
「あの、白蕗さん、これは一体?」
女性と一緒にいた総白髪の男性が疑問を発した。この病院の院長先生だ。矛先が白蕗さんに向いたので、不審者の俺は黙って成り行きを見守ることにする。
「はい。私共は、宮田さんの同級生です」
白蕗さんは、女性に対して自らの身分を明かした。その上で俺達が何をやっていたのかをいい感じに説明してくだされば、俺の不審者っぽさも薄れるだろうか。
「宮田さんに何とかして意識を取り戻していただければと思い、応援の意味で声をかけていたところです」
あっ、矛先が俺に向いた。というか、向けられた。能力のことなんて話せないから、俺の奇行ということで矛先を向けるしかないよね。
「なるほど。意識不明の患者さんに、おはようと声をかけて目を覚まさせようというのは、なかなか斬新で興味深いですな」
院長先生の言葉って、多分これ言葉通りに褒めているわけじゃないよね。
院長先生の肩が小刻みに震えているのは、褒めているわけじゃないよね。
「それで先生、息子の容態は」
女性の質問によって、俺の奇行は関心事から外された。そして、俺達には女性が宮田のお母さんであることが分かった。
院長先生がタブレット端末を見て答える。
「息子さんですが、最初に結論を言わせていただきますと、今夜中が山場です。一通り精密検査はしたのですが、重篤な多臓器不全で、心臓、肺、肝臓および腎臓に機能障害が見られます。MRI検査で脳に致命的な損傷がないことは確認できたのですが、異常脳波が出ており、こちらも予断を許しません」
「そうですか」
宮田のお母さんが、がっくりと肩を落とす。身長は高いのに、小さく見える。
宮田は母子家庭だ。女手ひとつで育ててきた息子が生死の境を彷徨っている気持ちは、察するに余りある。
時間が巻き戻ればなかったことになってしまうかも知れないが、今この瞬間の、宮田のお母さんの悲しみは、消えないでどこかに残り続けてしまうような気がする。
そして、宮田がこんなことになってしまった原因、つまり、宮田に全体魔法を使ってみるように煽った犯人がここにいる。
俺はどうしようもなくいたたまれない気持ちになった。