白蕗さんの光が弱まり、膝が折れる。白蕗さんの体を支えたのは日向さんだ。
ああ、俺、やっぱりいざという時に役に立ってないな。すっかり傍観者だった。
宮田の様子は、特に変わったようには見えない。
白蕗さんは息を切らせつつ、日向さんの力を借りて再び立ち上がる。
「これは、なかなか大変ですね」
そして白蕗さんは再び手を合わせる。今度は短かった。白蕗さんの呼吸が落ち着いている。
「これで私は回復できました。さあ、宮田さんを回復いたしましょう」
白蕗さんは宮田に向き直り、再び手を合わせる。すぐに白蕗さんの体がぼんやりと光るかと思ったのだが、なかなか光らない。何かを考えているのだろうか。俺には分からない。
病室で聞こえるのは、宮田に繋がれた電子機器類の出す音、宮田の微かな呼吸音、そして宮田の手を握っている雲川さんのすすり泣きだけだ。
そして数秒後、白蕗さんの体がぼんやりと光り、再び膝から崩れ落ちそうになる。
宮田には何の変化もない。
白蕗さんは日向さんに両脇を支えられながら両手を合わせた。それで自分を回復したのだろう、何とか立ち上がった。
白蕗さんの能力って、ペナルティはないのだろうか。俺は能力を大人数に対して使って、ひどい疲労に襲われた。宮田が能力をどう使ったのかは不明だが、目の前に意識なく横たわっているのがその結果だ。
では、白蕗さんの能力に限っては、自分と相手を交互に回復すれば無限に使える、そんな都合のいい話があるだろうか。
「白蕗さん、あまり無理をしないほうが」
白蕗さんはゆっくりと振り返り、ただ黙って微笑んだ。額が汗ばんで、前髪が張り付いている。白蕗さんは無言のまま宮田に向き直り、宮田の回復を再開した。
無理をしてる。鈍い俺でも分かる。白蕗さんは無理をしている。
そこまで必死に宮田を回復する意味はあるのだろうか。最悪の場合でも、時間が巻き戻れば宮田は復活するはずだ。正確には、復活というより、死んだ事実がなくなるのだろうけど。何しろ宮田はすでに42回も自殺しているのだから、それは間違いないだろう。
じゃあ、今回の宮田は諦めて、次の周回で今回の失敗を埋め合わせることを考えればいいのではないだろうか。
今回の宮田は諦めて?
俺は自分の考えに慄然とした。
改めて、ベッドに横たわる宮田を見る。宮田は生きている。まだ生きている。
親友が生死の境を彷徨っているのに、今回は諦めるだと?
どうせ生き返るんだから目の前で親友が死んでしまっても構わない?
そんなわけがあるか。
俺も傍観者じゃいけない。俺も何かやらなければ。俺にできることがあるだろうか。一度傍観者スイッチが入ってしまうと、なかなか体が動かない。でも何かあるだろ。考えろ。
俺が捻り出したのは、ひとつの言葉だった。
「おはよう」
俺は宮田に声をかけた。そうだ、宮田の体内時計を朝にしてしまおう。そうだよ、起きろ、宮田、朝だぞ、起きろ。
「おはよう、おはよう、おはよう」
集中治療室で、物言わずに横たわる少年。祈りを捧げる少女。そして「おはよう」と言い続ける俺。
できれば、ちょっぴり盛り上がる劇伴曲などを流してもらえると、盛り上がったりするだろうか。
そんなことをやっていたものだから、俺達は集中治療室に入室者があったことに気づかなかった。その女性に声をかけられて、そこで初めて存在に気づいた。
「あの、あなた達は何をやっているんですか?」
これが、宮田のお母さんとの出会いだった。