二月五日(水)7: まだ彼は生きていますよ
院長先生に宮田の病室に案内してもらったところで、俺達は面会謝絶の意味するところを思い知らされた。
病室には、集中治療室と書かれている。
院長先生が入室し、続いて招き入れられた俺達が見たものは、数々の測定機に囲まれた宮田の姿だった。宮田は意識がないようで、口にはチューブが差し込まれている。医師が付きっきりという状況ではないようだが、常に容態をモニタリングしなければならないということが事態の深刻さを物語っている。
「彼のお母さんも、仕事を終えてこちらに向かっているそうです」
院長先生はタブレット端末を操作しながら言った。
「当院でも手は尽くしたのですが、おそらく今夜が山場となるでしょう。いったい、どのようなことが起これば、人間の身体がこんなにもダメージを負うのか、長年医者をやっている私にもさっぱりですよ。白蕗さんも、御学友のみなさんも、彼に伝えたいことがあれば、どうか声をかけてあげてください」
うわ、めっちゃ重たい事態になってる!
雲川さんが前に進み出て、ベッドに横たわる宮田の手を取った。宮田の手首には何かのチューブが繋がっていて痛々しい。そして、雲川さんの切れ長の目から、ぽろぽろと涙が零れ落ちるではないか。
おい宮田、雲川さんを泣かせてるぞ、起きろ。涙のパワーで回復しろ。
日向さんを見ると、貰い泣きをしているのか、目を真っ赤にして涙をこぼしている。
「すみません院長先生、しばらく私達だけにしていただけますか」
白蕗さんが目を潤ませてそう言うと、院長先生は集中治療室から退室してくれた。
「ふう、風の力を借りて目を乾かすことで、涙を出しました」
白蕗さんが種明かしをする。いや、うん。風の息づかい、便利ですね。でもよく考えると、別に種明かしをしてくださる必要もないような。
もしかして、白蕗さんは、いや、違うかな。違うかも知れないけど、言ってみるか。
「宮田がこんな風に傷ついて倒れているのを見ると、やっぱり人格者の白蕗さんには堪えるよね」
「なっ」
白蕗さんが絶句して固まった。「はい」か「いいえ」じゃない白蕗さんって、珍しいな。そして、白蕗さんの顔がみるみる赤くなっていく。
「いっ、いいえ。宮田さんの損害など、私の能力で回復できます。回復してみせます。いえ、おそらく回復できます。雲川さんも、日向さんも、何を勘違いなさっているのですか」
なんか、白蕗さんにしては支離滅裂な感じになってるな。
白蕗さんは、雲川さんの横、ベッドに横たわる宮田の枕元に移動した。俺達には背中を向けていて表情は伺い知れないが、白蕗さんが両手を合わせて祈るようなポーズを取ったのは背後からでも分かる。
白蕗さんの体がぼんやりと光った。風の息づかいは、宮田を回復することができるのだろうか。
ふと思ったが、白蕗さんが院長先生を人払いしたのは、このポーズが原因だろうな。生死を彷徨う御学友にいきなり手を合わせているんじゃ、院長先生じゃなくても「まだ彼は生きていますよ」って言いたくなるだろう。
雲川さんは、宮田の手を自らの顔の前に持ってきて、祈るようにしている。雲川さんのドヤ顔で卒倒する宮田が、自分の置かれている状況を知ったら、むしろ違う意味で壊れてしまったりしないだろうか。
集中治療室には、宮田に接続された機器類の出す音だけが鳴り続けている。無限のような数秒が過ぎた。
81話くらいまでちょっと暗い展開が続きます。




