二月四日(火)3: 範囲攻撃
宮田は何か考え込んでいたが、コーヒー牛乳を飲み干して言った。
「レベルアップの経験値稼ぎすんなら、一人一人じゃなくて、もっと大人数に能力を使ったほうがいいんじゃねーか?」
「大人数?」
「ゲームで言うなら範囲攻撃的な感じっつーか」
「攻撃って何だよ」
でもそうか、回数をこなすなら、それも手かも知れないな。しかし、複数の人に対して能力を使うって、どうやればいいんだろう。
そういえば、日向さんの『炎の精霊』の実験では、日向さんが認識しているビーカーの水が全て温められていたっけ。
今は昼休みだが、昼休みもそろそろ終わるということで、生徒が教室に戻って来つつある。複数の生徒を意識下に置いて能力を使えばいいだろうか。宮田を含めた数人を意識下に置いて、俺は小声で言った。
「すまん、ちょっとだけ実験させてくれ。おやすみなさい、こんにちは」
宮田の眉がぴくりと反応した。そして宮田と俺は教室を見回す。ほかの生徒は無反応だ。
「どうやら俺以外には効果がなかったみてーだな」
「残念。ゲームで言うところの単体魔法って感じか」
宮田にだけ効果があったのは、宮田が一番近いところにいたからだろうか。まあ、それならそれで、回数をこなせばいいだけだ。小声で『おはよう』とか『こんにちは』とか言うのに、大した労力がかかるわけでもない。
宮田が眉をひそめて難しい顔をしている。
「ゲーム的に考えると、全体魔法とか範囲魔法の専用の呪文もあるんじゃねーのか?」
「なるほど、それはありそうだ」
しかし、『おはよう』の全体魔法って、何だろう?
いや、秒速で思いついたワードがあるのだが、果たして、そんなのでいいんだろうか?
「ちょっと試していいか?」
宮田に確認する。確認してから、別にその必要もなかったかなとも思ったが、宮田が腕組みをして真剣な目で「思う存分やれ」とばかりに頷いたので、絵的にはかっこいい感じになったような気がする。ちょっと興奮してきた。
俺は宮田の背後に見えている数人の男子生徒を意識に入れ、小声で言った。
「みなさんおやすみなさい、みなさんこんにちは」
果たして効果は、あった。
「うわ、昼飯を食ったら、急に眠くなったよ」
「俺もだよ」
「暖房が効き過ぎか?」
どうやら、俺の能力で一瞬の睡魔に襲われた男子生徒たちは、食後の眠気だと考えてくれたらしい。
宮田がにやりと笑った。
「なるほど、能力の向上、面白そうだな」
いや、宮田の能力はすでにとてもとても恐ろしいものなんで、できれば向上するのは勘弁してほしい。
俺はさっきの興奮がすっと覚めるのを感じていた。




