二月三日(月)10: 月曜日の俺はポンコツ
白蕗さんが悟暁高校に行って能力者たちに事前説明をしてくれるということで、俺はどうしたらいいだろうか。
二月の東北地方に行くとして、俺はそんな旅行に耐えられる服や靴を持っていただろうか。
「いいえ。その件は私に任せていただき、みなさんには能力の向上について考えていただきたいと思います」
いいえというのは、俺の逡巡を読み取られたということだろうか。何にしても、ちょっとホッとしているわけだが。
「そして小林さん、あなたはまず、しっかりと睡眠をとってください」
「えっ」
「私は風の息づかいによって以前の周回の情報を記録に残しておりますが、月曜日に戻った際にかなりの疲労に襲われます。そして同様に、宮田さんの能力で記憶を持ち越して月曜日に戻ったときにも、かなりの疲労に襲われます。これが代償なのか罰則なのか、そのあたりは分かりませんが」
そういえば、宮田が何日も徹夜したような顔をしていたな。
「これらの疲労は、肉体的なものでも精神的なものでもなく、私の能力でも完全には回復することができません。今のところ、回復できるのは小林さんの能力のみのようです」
ふらふらになりながら走っていた白蕗さんの姿を俺は思い出す。運動が苦手というレベルを超えていると思ったが、そういうことだったのか。そして、白蕗さんは風の息づかいでは完全に回復することはできず、それでも何とかして走り抜いていたということか。
「俺の能力で回復できるってことは、時差ボケみたいな感じなのかな」
「はい。体感としては似たようなものに感じられます。ただ、通常の時差ボケというものは、地球の自転による昼夜の周期に対し、四時間ないし五時間を超えるずれがあったときに体調に不調を来すというものですが、周回による約三日間の巻き戻りでは、その不調を何倍にもしたような疲労感に襲われます」
ということは、俺もそうなのか。
「はい。小林さんは今、自覚していないのが不思議なくらい、とてもとてもひどい状態です。小林さんはご自身の能力では回復できないのですから、まずはしっかりと睡眠をとって回復なさってください」
そうだ、俺の能力では、俺自身の体内時計をリセットすることはできない。なんて使い勝手の悪い能力なんだ。
そして俺はふと思い出す。
「そういえば、周回した直後はやけに記憶が混乱するんだけど」
「はい。徹夜をしたり、慢性的な睡眠不足の人の脳の性能は、酩酊状態と同等にまで落ち込んでしまうという研究があります。私達には酩酊状態がどのような感覚なのかは分かりませんが、今現在の小林さんの脳の性能は」
「バカってことか」
宮田が実にシンプルに言い表す。
「はい。今の小林さんは、普段以上に思考能力が低下しています」
普段以上って、普段もそれほど頭がよくないってことかな。
白蕗さんを見る。白蕗さんも俺の方をちらりと見る。その白蕗さんの口が動いて「はい」と言われるような気がしたが、白蕗さんはにっこりと微笑んだだけだった。
☆
家に帰ってベッドに寝転がって、俺の能力について考える。
- 俺の能力は距離に関係なく効果がある
- 周回したあとの疲労は俺の能力で回復できるが、俺自身は回復できない
- 月曜日の俺はポンコツ
俺の能力は距離に関係なく効果があるようだが、どれくらいの距離まで有効なのだろうか。正直なところ、声が届くくらいの範囲までしか効果がないと思い込んでいた。見えないほど遠くにいる人の体内時計をリセットできたとして、どうやって確認すればいいだろうか。
そして、俺の能力の使い勝手の悪い点のひとつでもあるが、自分自身には効果がないらしい。鏡に向かって「おはよう」と言ってみたりしたこともあるのだが、自分では効果は実感できず、自分の体がぼんやり光っているようにも見えなかった。
白蕗さんの能力によって俺の能力に「おやすみなさい」というものがあることを教えてもらったものの、あの白蕗さんですらそれ以上のことは見つけられなかったようだった。俺の能力をどうやって向上したらいいのか、皆目見当がつかない。
そもそも、体内時計をリセットする能力が向上して、どういった感じになるのか、イメージも湧かない。体内時計のリセットというのはゼロかイチ的なもので、ややリセットとか、めっちゃリセットとか、程度を調整するのも難しいのではないだろうか。
そんなことを考えているうちに、俺は眠りに落ちていた。




