「一息ついたところで、もうひとつの議題に移りましょう」
白蕗さんの言葉で報告会が再開した。
「私達が二階の多目的ルームに避難する前ですが、悟暁高校にも能力を持っている生徒がいるのを発見しました」
「ああ、すでに召喚の門の中にいらっしゃった人達だっけ」
「はい。避難するまでの限られた時間でしたので私が見つけられたのは悟暁高校のその五人だけですが、探せばほかにも見つかるかも知れません。そもそも私の能力も万能ではありませんので、能力を持っていれば必ず見つけられるというものでもないのですよ」
いや、あの短時間で五人も見つけられたのはすごいと思う。白蕗さんの風の息づかいじゃなければ、そもそも見つけること自体が困難だと思う。日本電波塔にいる短い時間に、たまたま目の前にいるときに能力を使ってくれるという偶然が起こる確率はどれくらいだろうか。宮田が今までに見つけていないということは、そんな確率は極めて低いと思われる。
むしろ、日向さん、雲川さん、白蕗さんが能力を持っていることに、宮田はよく気づけたものだ。数千回も同じ時間を繰り返しているとはいえ、かなり運がよかったんじゃないだろうか。
それはそうと、白蕗さんの能力が万能ではないというのは異議申し立てをしたいところではあるが、能力を持っていれば必ず見つけられるというものではないというのは、どういった理屈なのだろうか。
「能力を持っているのに見つけられないってのは、どういう場合なの?」
俺が聞きたかったことを雲川さんが聞いてくれた。
「はい。私は人や物を包む風を視ることができるのですが、その風を視ればその人の能力や経験をある程度知ることができます。ある程度と申しますのは、直接視ているわけではなく、その人が意識的あるいは無意識的に能力を使用した際に、それが風の揺らぎとなって記録として残されているのを読み取っているためです。能力を使った本人が驚愕したり不思議に思ったりして下さると記録に残りやすいのですが、能力を自覚していない場合ではそれは期待できません。そういうわけですので、能力を持っていても使用実績がなかったり能力を使用してもまったく気づいていないような場合は、私の能力で知ることは困難となります」
なるほど。俺の能力に『おやすみなさい』というのがあることを教えてもらったが、俺はどこかでその『おやすみなさい』を使った実績があって、それが記録に残されているということか。いや、思い返すまでもなく、俺はいつも就寝前には両親に「おやすみ」って言っているから、そのたびに能力を使っていたってことか。
「やっぱり、能力を持った人が召喚の門の近くにそんなにいるってことは、私達の能力は召喚の門と関係あるのかな」
日向さんが疑問を口にする。
「はい。それも私達の能力が召喚の門に関係しているという仮説を裏付ける理由になり得ますね。あのとき大展望台にいた人数ですが、日本電波塔の大展望台の同時収容人数は公式な情報が得られないので千人だとして、能力を持っている人があの場に少なくとも十名存在するわけですから、1パーセントということになります。この1パーセントという数値が全ての人類に普遍的に適用されるなら、日本人が一億人としてそのうちの百万人、世界人口が八十億人として八千万人に及びます。これだけの人数があまねく世界に存在するのなら、世界中で話題になっているはずでしょう。ですので、あの召喚の門と関わったことにより能力を付与あるいは貸与された可能性のほうが高いのではないかと私は考えます」
白蕗さんは、あくまで断定を避ける慎重さだ。
「それで、その五人のことは、どれくらい分かってんだ?」
今度は宮田が疑問を口にする。
「はい。名前と能力については一通り分かっています」
風の息づかい、やっぱりとんでもない。
「ここではその五人の名前は挙げませんが、私は明日、学校を休んでその人達に接触を試みようと思います。修学旅行では時間が限られていますから、事前に能力のことなどを説明しておくほうがよいでしょう」
宮田が身を乗り出す。
「面白そうだな。俺も付いて行きたいぜ」
「はい。宮田さんにも来ていただき、その場で今までの周回の記憶を回復していただけると助かります。ただ、悟暁高校は東北地方の学校で、本日二月三日(月)の平均気温は1℃、最低気温はマイナス2℃、最高気温は5℃くらいですね。平年の積雪深は40センチメートルくらいらしいのですが、今年は例外的に積雪が少ないようです。明日以降は冷え込みが厳しくなり、雪も降るらしいですが、よろしいですか?」
「すまん、パス」
宮田はあっさりと引き下がった。
そして、宮田が「付いて行きたい」と言ったときにぴくりと反応して、いかにも「私も」と言いたげだった雲川さんは、何も言わなかった。