二月三日(月)8: 応用が難しそうだ
「ああ、温まるねぇ」
お茶漬けを口に運びながら、宮田が老人口調になっている。
ここが科学部の部室ではなく、お茶漬けの器が1リットルのビーカーでなければ、単に五人の高校生がお茶漬けをすすっているだけに見えるかも知れない。
いや、言い換えよう。科学部の部室で、科学部の白蕗空さん、剣道部の日向茜さん、弓道部の雲川潤さん、帰宅部の宮田、そして同じく帰宅部の俺が、理科の実験なんかで使うビーカーを使ってお茶漬けを食べている図は、どこからツッコミを入れていいのか分からない。
日向さんのビーカーだけひときわ大きく見えるが、日向さんが小さ、もとい、2リットルのビーカーだからだ。必然的にご飯の量も多い。
お茶漬けのためのお湯は、もちろん日向さんが炎の精霊で温めたものだ。日向さんの『炎の精霊』は、一度加熱した水を再び加熱することはできないが、俺達が摂取してその後排泄した水はどうなんだろうか。食事の最中に排泄のことは考えないほうがいいだろうか。
「それはそうと、雲川さんが行射のときに能力を使うかどうかをコントロールできるの、ほんとすごいと思うよ。いつの間にそんな練習をしたの?」
俺は先程の疑問を改めて雲川さんにぶつけてみた。
「それは白蕗さんに呼び出された日、弓道場で練習したからよ」
「雲川が能力を使っているかどうかは俺がチェックして教えていたからな」
宮田が補足する。なるほど、二時間もぶっ通しで行射していたのはそういうことか。そういえば宮田は雲川さんに何かを話していたな。
能力のコントロールか。体内時計を調整する俺の能力は「こんにちは」や「こんばんは」と言うだけで発動してしまう。能力を使うかどうかをコントロールするなんて、どうやって練習すればいいのだろうか。
「俺の能力は有無を言わさず発動しちゃうんだけど、雲川さんはどういうふうにコントロールしてるの?」
「あら簡単よ。心の中で『明鏡止水』と唱えるのをやめれば済むことだわ」
雲川さんがドヤ顔をし、宮田の上体がぐらりと揺れる。ええい、やめなさいよ。
俺の能力に応用できるだろうか。「おはよう」と発声する行為は、脳で考えて口で喋っているわけだから、どちらかをやめれば済むのだろうか。何も考えず何も言わないという組み合わせもあるが、これはまず除外していいだろう。では、何も考えずに無意識に「おはよう」と言うか、脳では「おはよう」と考えるけど何も言わないというのはどうか。いや、無意味だな。
どうやら導かれる答えはひとつのようだ。
「なるほど、俺の能力には応用が難しそうだ」




