二月三日(月)7: 真面目にやりなさいよ
白蕗さんが立ち上がり、科学部の部室のドアに向かった。そしてドアを解錠する。
金属製のドアが開き、雲川さんが現れた。なぜ白蕗さんが雲川さんの到着を知ったのかは風に聞いておくれ。
雲川さんはずかずかと歩いてきて、俺の前に立ち止まり、俺の鼻先に人差し指を突きつけて、言った。
「どうよ、能力を使わずに、全て正鵠を射てやったわよ、これでもう卑怯者だなんて言わせないわ!」
「えっ、卑怯者とか、俺言ったっけ?」
「えっ」
雲川さんはしばらく何かを思い出すような表情をした。
「言ってないわ!」
「だよね!」
雲川さんは俺に人差し指を突きつけたポーズのまま固まってしまった。
もしかすると、俺は口を滑らせてそんなことを言ってしまい、時間を巻き戻してしまったのかも知れない。ということは言ったことになるのだろうか。ちょっと不安になってきた。
「えっと、どっちだっけ?」
俺にも分からない。
そもそも卑怯という言葉を最初に使ったのは、雲川さんだったはずだ。いや、最初というのが何周前なのかもよく覚えてないが、あれは火曜日だっただろうか。
『不思議な力を使って他人をコントロールするなんて、とても卑怯だと思うわ。恥ずかしくないの?』
それで俺は背後から爆裂魔法を唱えてやりたいと思ったんだった。思えば、そのときは俺に不思議な能力があるなんて考えもしなかったな。
そして前回の水曜日、弓道場で雲川さんに能力があるということを自覚してもらったときに、俺の中の意地悪な部分が「不思議な力を使って矢をコントロールするなんて、とても卑怯だと思うわ。恥ずかしくないの?」とか言いそうになった。いや、言わなかったつもりだったが、白蕗さんが溜息をついたり、宮田がやれやれといった感じで首を横に振っていたのを思い出す。
じゃあ、言っちゃったのだろうか。そして時間を巻き戻してしまったのだろうか。
俺にも分からない。
いや、だとしても、なぜ雲川さんがそのことを覚えているのだろうか。
俺には分からない。
「雲川さん、すごいじゃないですか、四射を五回やって、全て図星ですか。さすがです!」
宮田が会話に割り込んできてくれた。助かる。図星というのは、弓道の的の中心にある黒い点のことだ。物事の核心を突くことを「図星を突く」とか「図星を指す」と言ったりするが、まさにそれだ。自称普通の高校生の俺がなぜこんなことを知っているかは疑問だが、おそらく同じ時間を繰り返すうちに宮田とともに知識を蓄えてしまったのだろう。
そんな話はさておき、宮田にしてみれば、自分ではなく俺に対して結果報告されたことが気に入らなかったのかも知れない。せっかくだから、この勢いに乗って雲川さんを持ち上げておこう。ピンチをチャンスに変えるんだ。
「それもすごすぎるけど、雲川さん、能力を使うかどうかをコントロールできるんだね」
「もちろんよ!」
雲川さんが再起動して、ドヤ顔でふんぞり返った。こんな絵面、ファンが見たら卒倒だろうな。
宮田が卒倒した。
部室の奥からピーという電子音が聞こえる。
「あ、ご飯が炊けたみたい」
日向さんが立ち上がった。
ちょっとキミたち、真面目にやりなさいよ。




