二月三日(月)6: 召喚魔法
「それで、白蕗は風の能力であの門のこと、何か分かったのか?」
宮田が議題のボールを白蕗さんに投げてくれた。そうだ、結局のところ、白蕗さんが風の息づかいですべて解決してくださればすべて解決できるのでは。
「はい。何も分からないということが分かりました」
えっ。
「人や物を包む風を視ることのできる私の能力ですが、あの召喚の門に関しましては、何も視えませんでした」
「何だよ、白蕗でも手がかりはなしか」
宮田ががっかりしたように言う。
「いいえ。何も分からないということも、ひとつの手がかりです」
「何も分からないのに、何が分かんだよ」
「はい。私達の能力がどのような仕組みで効力を発しているのかは分かりませんが、あの召喚の門は、私達の能力が通じないほど強力であるか、あるいは能力が通じない特殊な存在であることが考えられます」
「じゃあどうすればいいんだ?」
「そうですね。私達の能力を向上させる、あるいは召喚の門に通用する能力を持った人を探すといったことが考えられます。ただ、私達の能力が召喚の門から与えられているもしくは召喚の門の向こう側からの干渉によって与えられているのだとすると、どちらの対策も望みは薄いかも知れません」
「結局のところ、俺達の能力じゃ召喚の門には手も足も出ねーってことか」
宮田が両手を挙げて降参の意を示す。
「そうですね。私達の能力が科学技術によってもたらされているものだとして、私が設計者なら機構に損害を与えるような操作ができないように安全装置を付けるでしょうね」
議論を放棄していた宮田が身を乗り出す。
「いや、科学技術って、いくら何でもこんな魔法みたいな技術はねーだろ」
「いいえ。現代の地球人類の科学技術ではそうかも知れませんが、もっと高度に発展した科学技術を持った生命体が存在する可能性は否定できません。有名な言葉ですが、十分に発展した科学技術は魔法と見分けがつかないのです。たとえば電話機を誰もが持ち歩いて地球の裏側の人と通話ができるなんてことは、つい百年前には絵空事でしかなかったのですよ」
魔法。魔法。そうだ、魔法だ。
「そうだ、あの召喚の門が人々を吸い込むときに、魔法がどうのとか言ってなかったっけ」
あのときトイレで俺の横にいた宮田も聞いているはずだ。宮田を見る。
「何の話だっけ」
「おい、ちゃんと思い出してくれよ」
「わーったよ、あのとき聞こえた言葉を思い出せ俺。ああ、『召喚の門に告ぐ、強き勇者をここへ召喚したまえ』だな」
「そのあとだよ」
「そのあと?」
宮田が首をひねる。えっ、宮田は聞き逃したのか。白蕗さんを見る。
「いいえ。私も聞いていません」
さすが白蕗さん、話が早くて助かる。けど、やっぱり聞いてないのか。
「おい光夫、お前がそのとき聞いたことを思い出せ」
あっ、思い出した。そうか、最初から宮田の能力で思い出させてもらえばよかったか。
「ありがとう、思い出した。あのとき、『召喚の門に告ぐ、強き勇者をここへ召喚したまえ』という言葉のあと、別の誰かが答えているのが聞こえたんだ。男なのか女なのかは分からないけど、『召喚魔法は成功した。ただし召喚は成功しておらぬ』と言っていた」
「魔法?」
宮田が興味津々に立ち上がった。そうだよな、高度に発展した科学技術と言われるより、魔法と言われるほうがロマンあるよな。
「でもやっぱり、俺はそんな言葉は聞いてねーな」
そっか。だよな。すでに聞いていたなら、宮田が今こんな反応を見せることもないよな。
「どうやら、誰かが強い勇者を召喚魔法で呼び寄せようとしたものの召喚に失敗したらしいな」
「いいえ。それは違いますね」
白蕗さんに否定された。こんな簡単な文章のまとめもできないのか俺。
「召喚に成功していないというのは、失敗したのとは違います」
「さっきの、過去の失敗は成功の一部ってやつか?」
宮田が聞き返す。
「いいえ。そうではなく、召喚魔法というものが成功して召喚という処理が走り始めたようですが、それがまだ成功という結果に達していないだけのように思われます」
「えっ、つまり、召喚は」
「はい。今まさに召喚がおこなわれている真最中、もしくは何か問題があって召喚が途中で止まっていると思われます」
そういうことになるのか。
「召喚が途中で止まったら、どうなるんだ?」
宮田が疑問を口にする。そうだ、止まったままなのか、そうじゃないのか。
「はい。召喚の処理が止まってしまった場合、処理が再起動している、つまり、もう一度やり直しているということは可能性のひとつとして考えられます」
「おい、それってもしかして、この時間の繰り返しの原因ってことか?」
「はい。周回の可能性のひとつとして考えられます。ただしこの仮説ですと、小林さんが召喚の門で命を落としたときに周回が発生することが説明できません」
そうだった。俺も周回する条件のひとつなんだった。
いや、そういう言い方をすると、何だか機械に組み込まれた歯車になったような気がするな。
俺は身震いをした。それが科学部の部室の冷房のせいなのかは、俺にも分からなかった。




