二月三日(月)5: 未来の失敗
「それでは、召喚の門について、分かったこと、分からなかったことを確認いたしましょう。議事進行は不肖この私白蕗空が務めさせていただきます」
白蕗さんの開会の言葉により、報告会が始まった。
白蕗さんが手元のノートパソコンを操作すると、プロジェクターで表示されていた「召喚の門に関する報告会」というスライドが切り替わり、「本日のアジェンダ」という題のスライドが表示された。なぜ科学部の部室にプロジェクターやスクリーンの設置してあるミーティングスペースが設けられているのか疑問に思ったが、この部室にずらりと居並ぶサーバーラックを見渡して、俺はその疑問を噛まずに飲み込んだ。
さておき、「本日のアジェンダ」には二つの項目が並んでいる。
- 召喚の門について分かったこと、分からなかったこと(報告者: 各自)
- 他の能力者について(報告者: 白蕗)
「それではまず、召喚の門について分かったこと、分からなかったことを、各自簡潔に述べてください。重要と思われる、あるいは興味深い報告があれば、そちらを深堀りして行きましょう」
最初に口火を切ったのは日向さんだった。
「私は炎の精霊で召喚の門を温めてみたけど、特に何も起こらなかったよ」
日向さんの能力は、すでに炎の精霊ということになっているらしい。
「なるほど。小林さんの能力はいかがでしたか」
「えっ、俺?」
いや、俺の能力、体内時計をリセットする能力で何をどうしろと?
「いや、召喚の門に体内時計があるとも思えなかったし、何も試さなかったけど」
白蕗さんは、今までに見たこともないような溜息、漫画的な表現で言えば、細くたなびきたる溜息をついた。ぎくり。あ、あの、怒ってらっしゃいます?
「いいえ。科学者たるもの、何も起こらないことを確認することも重要な実験のひとつなのですが、先にそのことを伝えておかなかった私の落ち度です」
「すみません」
返す言葉もない。
俺の能力なんて、空振りに終わったところで特に何か減るものでもないし、召喚の門に向かって「おはよう」とか「こんばんは」とか言いまくってもよかったんだ。それを俺は、無駄だろうと思って試しもしなかった。
「でも、雲川さんの絶対に中る矢も中らなかったから、もしかすると私達の能力は効かないんじゃ」
日向さんが取りなすように言ってくれるが、そうじゃないんだ。
「いや、日向さん、もしかすると俺の能力だけは効果があったかも知れない。それは実験しないと確かめられないことだし、俺はそれをしなかったんだよ」
できることなら、時間を戻したい。いや、その、うん。
「私達は同じ時間を周回しているわけですから、次の実験では確認漏れのないよう気をつけましょう。過去の失敗は次に活かせば成功の一部になるのですよ」
「未来の失敗だけどな」
宮田、今はそういうツッコミはいいから。
空気が重くなるような沈黙を、日向さんが破ってくれた。
「あの、召喚の門だけど、炎の精霊が効かなかったから、そのあと熱湯をかけてみたり、アイスをぶつけてみたりしたよ。結局、何も起こらなかったけど。正確に言うと、お湯もアイスも、直前で何か見えないものに弾かれているような感じだった」
うっ、日向さんがいろいろと試したというのに、俺ときたら、何もしていない。
「そういえば、雲川の矢も、何つーか、雲川の能力を上回る感じで無理矢理軌道が外れている感じだったな」
宮田が雲川さんの実験結果を代弁する。
「雲川は能力を使わずに召喚の門に向かって矢を射たりもしたけど、それも軌道が外れて門に吸い込まれちまった」
うっ、雲川さんがいろいろと試したというのに、俺ときたら、何もしていない。
というか、雲川さんは行射のときに能力を使うかどうかを自分でコントロールできるのか。俺ときたら「おはよう」とか「こんにちは」とか口にしたら常に能力を使ってしまうというのに。
俺ときたら、俺ときたら、俺ときたら。




