二月三日(月)4: 寒いからこそアイス
ホームルームで担任の野村先生から三日後の修学旅行に浮かれて怪我や病気のないように注意され、教室の清掃を済ませて、放課となった。
俺と宮田は科学部の部室に向かう。白蕗さんに呼び出されているからだ。
金属製の扉の前に立つと、電子音が鳴ってガチャリと解錠する音が聞こえた。白蕗さんが中から解錠してくれたらしい。
なぜ俺達の到着に白蕗さんが気づいたか、それは風に聞いておくれよ。
「うわ、相変わらず寒いなここ」
宮田が両腕で自分を抱くようにして震える。科学部の部室にはサーバーラックが32台あり、冷却のために冷房ががんがんに効いているのだ。
「こう寒いと、アイスが食べたくなるな」
思わず言ってしまった俺の言葉を聞いて、白蕗さんが小さな溜息をついた。
「大したことではありませんが、それも目障りなので解除してしまいましょう」
解除?
「宮田さん、寒いからアイスというのは、元々は誰のお考えですか?」
「ん、ああ、元々は俺が『寒いからこそアイス』って言ってたな」
「小林さん、お分かりですね」
「えっ」
あっ。たった今「この寒いのにアイスかよ」って気分になった。
確かに大したことではないけど、こんなことまで認識を改変されてたのかよ。
「宮田、お前、こんなしょうもないことを」
「何だよ、俺が何かやったって言うのかよ」
宮田を責めてもしょうがないことは分かっているが、ちょっとだけ首でも締めてやりたい気分になる。
「白蕗さん、ほかにも認識の改変があるなら教えてほしいんだけど」
「あとは、弓道部の雲川さんをクールビューティーと思い込ませていたりだとか、それから」
解除した。全部解除した。
そんなことをしていると、部室の奥から日向さんがハンカチで手を拭きながら現れた。あら、先に来てたんだ。
「日向さんは、剣道部はお休み?」
「うん、通常練習だから」
そうだった。通常練習だから休んでもいいと、前の周回のときに言ってたんだった。時間を遡った直後の月曜日は、いろいろなところで記憶が曖昧になったりする。
「雲川さんはどうしてるんだっけ?」
「雲川なら弓道部の練習に行ってるぜ」
宮田が答えた。そうだ、弓道部は月曜日には二月末の春季遠的大会に向けて試合形式の練習をしていて、雲川さんはその練習に参加すると言っていたっけ。
記憶が混乱する。




