二月三日(月)3: 距離には関係ない
宮田は購買に焼きそばパンを買いに行かなければならない。呆然としている宮田に俺は声をかける。
「43分20秒を回ってるぞ」
「あ、そうか」
宮田が教室を出て行く。ちょっと急げば間に合うだろう。
俺は自分の弁当を取り出そうとして、あることに気づいた。
日向さんを見ると、女子グループで机二台を向かい合わせにくっつけて、そこにランチョンマットを敷いて弁当を並べている。そして無事に楽しい食事を始めたようだ。
海老の天ぷらを食べている日向さんと目が合った。口にくわえた海老の天ぷらをもぐもぐしながら、日向さんがにっこり微笑んだ。能力の暴発がなかったと俺に伝えつつ、ほかの女子たちに気取られないように海老の天ぷらが美味しいという風を装っているのだろう。実際、美味しそうだ。
楽しく食事中の日向さんは、あとでいいだろう。俺は教室を出て、屋上に出る階段へと向かった。宮田が購買から戻って来るまでに間に合うだろうか。
階段の手前の曲がり角のところまで来ると、白蕗さんがふらふらと歩いているのが見えた。よかった、火曜日だけじゃなく、月曜日にも白蕗さんはここを通るらしい。
「白蕗さん、こんにちは」
俺が声をかけると、白蕗さんは元気を取り戻したようだ。
「小林さん、こんにちは」
記憶を持ったまま時間を遡ると体内時計がめちゃくちゃになるというのは、もちろん白蕗さんや日向さんにも当てはまるわけで。楽しく食事中の日向さんを後回しにしたのは、あそこで「こんにちは」なんて声をかけたら、何を言っているのかと笑われるのが明白だからだ。
白蕗さんは、俺を見て、小さな溜息をついた。ぎくり。
「小林さんの能力は距離には関係ありませんので、体育のときに使っていただいてもよろしいのですよ」
「えっ」
ちょっと待ってくださいね。
体育のとき、白蕗さんが何かに気づいたようにこちらを見て、「ごきげんよう」という感じで会釈してきたのを思い出す。
「あれって、私に対して能力を使っていただいてもよろしいのですよって意味だったの?」
白蕗さんは、再び小さな溜息をついた。
わああ、すみません。
教室に戻ると、宮田が購買から戻って来たところだった。
俺は自分の弁当を取り出す。俺の弁当は保温弁当箱とかランチジャーなどと呼ばれるものだ。今日のおかずは、ソーセージに卵焼き、ブロッコリー、ポテトサラダ、ミニトマトだ。保温弁当箱の蓋を開けると、湯気が立つ。
俺が「いただきます」と手を合わせて弁当を食べ始めると、宮田も焼きそばパンを包んでいるラップを外し始めた。
俺は食事をしながら、日向さんに向かって、聞こえないような小声で「こんにちは」と言ってみた。
日向さんはピクリと反応して、そのあとは何事もなかったように食事を続けている。
ほんとだ、距離が離れていても効果がある。俺、この能力の射程距離を確認するなんて、考えもしなかったよ。




