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プロローグ バージョン3.00

 (ごう)(おん)(ひび)(わた)り、(もく)(ぞう)(せい)(どう)(きし)みを()げる。

「イリスティーナ(ひめ)、もう(とびら)()ちません」

 エミリエールの()(めい)のような(こえ)を、イリスティーナは(そう)(はく)(かお)()いていた。

 なぜ、(いま)なのか。なぜ、(わたし)のときなのか。()(こう)(めぐ)らせても、(こた)えにはたどり()かない。

 (せい)(どう)()(あつ)(もく)(せい)(とびら)が、()(じょう)(つい)などの()()(さん)(ぶつ)ではなく、()(もの)(たい)()たりという(ぼう)(りょく)によって、(いま)まさに(やぶ)られようとしている。

 いや、(とびら)()(かい)されるか、この(せい)(どう)()(たい)()(かい)されるか、どちらが(さき)かは()からない。

 (すう)(にん)(にょ)(かん)(とびら)()さえているが、これから()こるであろう()(かい)(たい)し、(にん)(げん)(ちから)がどれだけ(こう)()(はっ)するかは(はなは)()(もん)である。


 (おう)とその()(えい)(ぐん)(りん)(ごく)からの(きゅう)(えん)(よう)(せい)による(えん)(せい)()(ざい)のこの(とき)(ねら)ったかのように、(すう)(せん)(びき)()(もの)がこの(ふう)()(こく)シクスィードに()()せてきたのは、まだ(そら)(しら)けぬ()(めい)のことであった。

 (がい)(へき)(もん)(やぶ)られ、(じょう)()(まち)(じゅう)(りん)され、(いち)(にち)()たずして(じん)(こう)(いち)(まん)()(せん)(にん)のこの(ふう)()(こく)(めい)(うん)()きようとしていた。


 イリスティーナは()(けっ)した。


「この(くに)(ほろ)ぼさせるわけにはいきません。(さい)()(しゅ)(だん)(もち)います」

 エミリエールの(からだ)がびくりと(ふる)える。

「しかし、あれは」

 エミリエールが(なに)かを()いかけるが、もはやそれ()(がい)(しゅ)(だん)(のこ)されていないことは(めい)(はく)であった。

 イリスティーナは(くび)(かざ)りにしていた(ふる)びた(かぎ)(ふところ)から()()し、(せい)(どう)(おく)にある(きん)(じゅ)()()(とびら)(かい)(じょう)する。

 (とびら)()()けると、(よど)んだ(くう)()(まが)(まが)しい()(はい)とともに(なが)()てきた。

『できることなら、これは使(つか)いたくないものだな。これは(もろ)()(つるぎ)だ』

 (おう)(こと)()(おも)()される。しかし、その(おう)はここにいない。なんて使(つか)えない(おう)なのか。

 そもそもこの(ふる)びた(かぎ)()たせた()(てん)で、(おう)はこの(きん)(じゅ)(かん)する(せき)(にん)(かん)(ぜん)にイリスティーナに(まる)()げしてしまっているということだ。

 (おう)への(うら)みの(こと)()()()んで、イリスティーナは(きん)(じゅ)()()へと()()れた。


 (きん)(じゅ)()()(ゆか)には()(ほう)(じん)(えが)かれている。(ちょっ)(けい)(すう)メートルもある、(こう)()()(ほう)(じん)である。

 イリスティーナの()(しき)()らし()わせても、ただの(しょう)(かん)()(ほう)がこれほど(ふく)(ざつ)()(ほう)(じん)(ひつ)(よう)とするとは(おも)えなかった。

 ()たしてこの()(ほう)(じん)は、この(くに)(すく)いとなるのか、それとも――

 イリスティーナは()(きつ)()(かん)()(はら)うように、()(ゆう)(くび)()った。(なや)んでいる()(かん)はもはや(のこ)されていない。

()でよ、(しょう)(かん)(もん)

 イリスティーナが(りょう)()(かか)げて()(りょく)()めると、()(ほう)(じん)がぼんやりと(ひかり)(はっ)し、(とう)(とつ)にそれが(あらわ)れた。

 その(もん)は、()(ほう)(じん)から1メートルほど(うえ)に、(なん)(ささ)えもなく()かんでいた。

 (もん)というよりは、アーチ(がた)(もん)()だけが(くう)(ちゅう)()いている。(もん)()()ざされており、(ざい)(しつ)(いし)のようにも(てつ)のようにも()える。(ひょう)(めん)には(なん)(そう)(しょく)もない、ただの(いち)(まい)(いた)だ。(とっ)()もなく、(もん)()なのかどうかも(うたが)わしい。

 (もん)()(さい)(じょう)()(じょ)(せい)(きょう)(ぞう)(しつら)えられており、その(じょ)(せい)がアーチに沿()って(りょう)(うで)(ひろ)げている。(うで)(もん)()(いっ)(たい)()しており、()(くび)から(さき)(はん)(ぜん)としない。

 (もん)()には()()はなく、(じょ)(せい)(きょう)(ぞう)(いっ)(たい)()しているため、これが(ほん)(とう)(もん)()だったとして、(ひら)くときにどうなるのか(そう)(ぞう)もつかない。

 ただ、(しょう)(かん)(もん)()ばれるものだから、(もん)なのだろう。

 いや、そんなことを(かんが)えている()(あい)ではない。イリスティーナは(われ)(かえ)った。

(しょう)(かん)(もん)()ぐ、(つよ)(ゆう)(しゃ)をここへ(しょう)(かん)したまえ」

 ()(ほう)(じん)がまばゆい(ひかり)(はな)ち、イリスティーナが、(しょう)(かん)(もん)が、(きん)(じゅ)()()が、そして(せい)(どう)が、(しろ)(ひかり)(つつ)まれた。

(なんじ)()(らい)、しかと(りょう)(かい)した」

 やがて(しろ)(ひかり)(じょ)(じょ)(おさ)まっていく。

 (まぶ)しさに()()じていたイリスティーナが(おそ)(おそ)()()けると、そこには(さき)(ほど)(おな)じように()(ほう)(じん)(しょう)(かん)(もん)があるだけだった。

 イリスティーナの(もと)めた(つよ)(ゆう)(しゃ)は、そこにはいなかった。

「えっ、どういうことなの」

 どこかから(こえ)()こえる。

(しょう)(かん)()(ほう)(せい)(こう)した。ただし(しょう)(かん)(せい)(こう)しておらぬ」

 イリスティーナが「なんじゃそりゃ」と(さけ)ぶよりも(まえ)に、(せい)(どう)(とびら)()(かい)される(ごう)(おん)()(ひび)いた。

 こうして、イリスティーナは()に、この(くに)(ほろ)びたのだった――


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