二月三日(月)2: モブキャラ
12時40分、昼休みになった。宮田が声をかけてくる。
「光夫、おはよう」
宮田は何日も徹夜したみたいな顔をしている。大丈夫なのか心配になるが、俺も同じような顔をしているのかも知れない。
「こんにちは」
前回、宮田が少しくらいは驚いてくれるかと思ってドヤ顔の準備をして空振りに終わったのを思い出す。
「それな、光夫はすごいアイデアを思いついたみたいにやってたけど、千回くらい見てると、反応しづらくてな」
「それは、何かごめん」
何となく謝ってしまったが、よく考えたら俺のせいじゃないよな。
ともあれ、俺が「こんにちは」と言ったことで宮田の体内時計は昼にセットされたはずだ。
廊下を見ると、A組の雲川潤さんが生徒ホールのほうに歩いて行くのが見える。そのままこのC組の前を通り過ぎるのかと思ったら、ドアを開けて教室に入ってきた。教室が一瞬で静まり返る。雲川さんはずかずかと近づいてきて立ち止まり、俺に人差し指を突きつけて、小声で言った。
「私にも挨拶をしなさい」
「えっ」
「早く」
「あ、こ、こんにちは」
「ありがとう」
雲川さんはにこりともせずに礼を言うと、あっという間に教室から出ていってしまった。
えっと、何だあれ?
雲川さんに詳しい宮田さん、解説をお願いします。俺は宮田に視線を送って解説を促した。
「俺もだけど、記憶を持って時間を遡るのって、めっちゃ疲れるんだよな。夏休みとかに徹夜でアニメを見まくって、昼だか夜だか分からない感じになるっつーか」
ああ、それで、体内時計をリセットする俺の能力は重宝されているということか。
お役に立てたようで光栄です。
気がつくと、教室が騒がしかった。ほかの生徒、主に男子だが、俺を見て騒いでいる。
「おい小林、今のは何だよ」
「何で小林なんかにこの学校一の美女が声をかけてるんだよ」
悪かったな、俺なんかで。
っていうか、雲川さん、勘弁してくださいよ。これどうやって収拾するのさ。
「いや、あれは、そう、こないだ雲川さんがハンカチを落としたから、それを拾ったお礼を言いに来ただけだよ」
「なんだ、そっか」
「そりゃそうだよな」
ベタベタな言い訳だったが、俺のモブキャラっぽさが功を奏して、みんな信じてくれたようだ。
次の周があるならだけど、俺が廊下まで行って、「雲川さん、こんにちは」と声をかけて、学校一の美女に無視されるモブキャラを演じよう。そうすれば波風が立つこともなく雲川さんの体内時計をリセットできる。
って、何で俺はそこまで雲川さんの面倒を見なきゃならないんだよ。俺は善人かよ。それにモブキャラって何だよ。
「光夫、いいから落ち着け」
「ああそうだな」
落ち着いた。宮田の能力、すごいや。
「宮田の能力で俺を落ち着かせてくれてるの、けっこう助かってる」
「えっ」
宮田が固まった。
「もしかして自分では気づいてなかったとか?」
「えっ」




