バスに揺られ、都内にある電波塔に来た。愛称は東京タワー、正式名称は日本電波塔。高さ333メートルの鉄骨構造の電波塔である。
宮田が電波塔の展望フロアを睨みつけている。無言だ。
俺も電波塔を見上げる。待っていろ、忌々しい召喚の門め。
フットタウン一階からエレベーターに乗り、地上150メートルの大展望台へと上がる。
平日の昼過ぎなので、それほど混んではいないが、他校の生徒も来ている。あっちにいるのは、俺達同様に召喚の門に吸い込まれて命を落とす悟暁高校の生徒だ。
日向茜さん、白蕗空さん、雲川潤さんが近づいてきた。白蕗さんが小声で言う。
「それでは私達は化粧を直しに参りますので」
「えっ、ああ、うん」
多目的トイレに身を隠すことを「化粧を直す」と言うのが正しいのかどうかは、男である俺にはよく分からない。
あと、多目的トイレは必要な人のためにあるものだから、女子高生が化粧室代わりに使うんじゃないと炎上したりしないだろうか。いや、しないか。
三人が去っていくのを見送りながら、おれはふとあることを考えた。
日向茜さん、白蕗空さん、雲川潤さんの三人だけがこの日本電波塔で白い光に包まれて異世界召喚されて魔法を使う騎士になってその世界を救うという物語だったら、宮田も俺もこんなに苦労しなくてもよかったのにな。
「光夫、行くぞ」
宮田に促されて、俺は甘美な妄想を振り払った。のんびりしている時間はない。
宮田とともに、大展望台一階に降りる。カフェと女子トイレの間、下りエレベーター乗り場の前に召喚の門が現れるわけだが、迂闊に「ちょっと召喚の門の様子を見てくる」と出かけたまま行方知れずになるわけにはいかない。まだ時間があることは分かっているが、俺達は男子トイレに直行した。
ただ、男子トイレに直行してしまったことで、問題が発生した。暇を持て余すのである。
男子トイレで何もせずに突っ立っているわけにもいかないので、宮田と二人で並んで用を足している風を装ったのだが、あまり長時間そうしているわけにもいかなかった。
結局、洗面台のところで直す意味もないような前髪をちまちまと直し続ける邪魔な高校生を演じることにした。まあ、俺達にとっても他のお客さんにとっても、少しの我慢だ。
しばらくして、トイレの外から白い光が差し込んできた。