二月六日(木)1: 未来を変える力
二月六日(木)――
修学旅行の朝である。俺にとっては四周目の修学旅行だ。といっても俺は修学旅行の初日の半分までしか経験していないわけだが。
いつもより早く起き、いつもより早く朝食を済ませ、いつもの制服に着替えて、準備しておいた旅行鞄を持って高校に向かう。
洗面台の鏡に映る俺の顔は、いつもより緊張しているように見えた。何しろ今日この俺はいつものように死んでしまうわけだからな。
集合時刻は7時半だが、6時半に学校に到着した。
俺は日向茜さんを見つけ、声をかけた。
「日向さん、おはよう」
「おはよう」
日向さんはそう言って、くすくすと笑った。俺は何か面白いことを言っただろうか。
「小林くんって、『おはよう』って言うときにいつも能力を使ってるのね」
「自分では使っているかどうかも分からないけどね。使い勝手の悪い能力だから」
昨日のことを思い出し、つい自虐的なことを言ってしまう。
日向さんの笑顔が、ふと曇った。その表情には、緊張感のようなものも混じっている。今日死んでしまうかも知れないという不安だろうか。
「俺が先に召喚の門に入ればその時点で時間の巻き戻りが起こって、日向さんは死ぬことがないんだから、そんなに心配をする必要もないよ」
「えっ」
日向さんの表情がさらに強張った。
「小林くんが死んだら私は死なずに済むって言われても、安心なんてできないよ」
ああ、確かに、同じことを自分が言われたとして、めでたしめでたしなんて思えないよな。
日向さんは目を潤ませて言った。
「小林くんを死なせずに済む方法があればいいのに。私に未来を変える力があればいいのに」
なんか、日向さんがヒロインらしいことを言い始めたぞ。いや、ヒロインなんだろうけど。
そういえば、日向さんに屋上に呼び出されるたびに展開が異なっていたことを思い出す。もしかして、日向さんには本当に未来を変える力があるんじゃないだろうか。
しばらくして、白蕗空さんと雲川潤さんが登校してきた。この学校一の知性と美貌が並んで歩くとか、なかなか見れたものじゃないよな。ただ、この知性はけっこうな毒を含んでいる気がするし、この美貌はけっこう鋭い棘を持っている気がする。
羨んでもしょうがないのだが、白蕗さんの能力と比べると、俺の能力は確かに使い勝手が悪いよな。応用は利かないし、どうやって能力を伸ばしていいのかも分からないし。
そして、やや遅れて宮田も登校してきた。いつになく暗い顔をしている。いや、いつも通りだっけか。




