二月五日(水)6: 記録
「それで、俺としてはあの召喚の門を何とかして破壊できないものかと、前回、金槌を持って行ったわけなんだけど、結果がどうなったのか宮田が教えてくれないから、俺には分からない」
宮田を見ると、青ざめた顔で目をそらした。よほどその時の結果には触れたくないらしい。
困ったときは白蕗さん頼みだ。白蕗先生、やっちゃってください。
「宮田さんの『回復』の能力が発動するのは、宮田さん本人がそのことに言及したときだということは、先ほど雲川さんとの会話で確認いたしました。私が同じことを話しても過去の周回の記憶は回復されず、宮田さんが話したときに回復しました。なので、私が小林さんや宮田さんの記録を読み取ってお話ししても、小林さんの記憶が蘇ってしまうことはありません」
「記録って?」
「私は人や物を包む風を視ることができるのですが、その風を視ればその人の能力や経験をある程度知ることができます。その風が幾重にも重なって視えるので、辿っていけば今までの周回で何があったのかおよそのことが分かります。私はこのことを総称して記録と呼称しています」
なるほど、白蕗さんが何でもお見通しな理由はこれか。
「もしかして白蕗さんって、宮田に能力を使ってもらわなくても、今までのことが分かってるの?」
「はい。私自身の過去の記録を辿れば、今までにあったことが分かります。とは言え、過去記録を辿ることができるようになったのは、640回前の周回からのことですが。私はこの能力の解析や利用法の研究も進めてきたのですよ。たとえば科学部の部室に置いているコンピューターですが、あの機構も周回ごとに改良することに成功しています」
「まさかそんなことが」
肉体の鍛錬ですら次の周回に持ち越せないのに、どうやってコンピューターの改良結果を次の周回に持ち越すというのか。
「はい。周回の終了前に全てのプログラムとデータを私の記録に保存しておいて、それを次の周回で機構に戻すことで、継続して開発が続けられるのです。私の記録を機構に常時接続することも検討したのですが、風の力を借りればバックアップとリストアは16ミリ秒で完了するので、今のところはそこまでしなくても開発は進められています」
「さっき他人の記憶を直接見るものではないって言ってたけど、そんなことができるんだ」
「そのためには私自身の明確な意志によって記録に保存する必要があります。情報欠損によってデータが失われぬよう、データは多重保存していますし、誤り訂正符号も追加しています。あなたや宮田さんのように漫然と過ごしていらっしゃる方々の記憶を読み取るのは困難です」
「うわきっつ」
「印象的な出来事や強い想いあれば記録に書き込まれるのですが、断片的ですね。ここ1203回の宮田さんの記録のように、『もう無理』『もう限界』と強い意志で書き込んであればとても読み取りやすいのですけど」
「それもきっつ」
風の息づかいさん、いや、『機械仕掛けの神』が万能すぎて笑うしかないのだが。




