二月五日(水)5: 『ドア』と呼び続けるのは大変問題がある
「つまり、月曜日から修学旅行初日の木曜日までを、ずっと繰り返しているのね。いいわよ、ここまで来たら、何でも信じるわよ。来るならきなさいよ」
雲川さんは白蕗さんの説明を聞いて、半ばヤケクソっぽい感じではあるものの、納得してくれたようだ。
「修学旅行の初日に何が起こるのか、私は直接見ておりませんので、宮田さんと小林さんにお話しいただきましょう。宮田さんは言わないつもりのことはおっしゃらなくても構いません」
直接見ていないというのは、白蕗さんは何かを通して視たという意味かな。
「ただ、ちょっと気になるので先に訂正させていただきますと、宮田さんと小林さんが『ドア』と呼称しているものですが、どうやら『門』のようです」
「門?」
「はい。ただし私の能力は直接他人の記憶を見るようなものではないので正確なところまでは分かりません。宮田さん、体調がすぐれないところ申し訳ありませんが、あのときに聞いた声についてお聞かせ願えますか?」
宮田は心なしか青ざめているようだ。
「そんな何年も前の細かいことなんて覚えてねーよ」
宮田は吐き捨てるように言う。ということは、宮田はこの千周以上を、あのドアを見ずに周回してきたのか。
白蕗さんは小さく溜息をもらして言った。
「それでは、ご自分に対して『あのとき聞こえた言葉を思い出せ』とでもおっしゃってください」
宮田はきょとんとした顔になったあと、素直にその指示に従った。
「あのとき聞こえた言葉を思い出せ、俺。うお、思い出した」
そんな機能もあるんだ。暗記系のテストなら満点を取り放題だな。問題は、俺達が繰り返しているこの数日間にはテストはないってことだけど。
「あのとき確かに、『召喚の門に告ぐ、強き勇者をここへ召喚したまえ』という声を聞いたぜ」
いや、何でそんな大事なことを忘れるかな。確かに俺も聞いたけど。そうだ、俺も聞いた。忘れていた。
「そういうわけですので、お二人には今後は『ドア』ではなく『門』と呼称していただきたいのです。『ドア』と呼び続けるのは大変問題があると風が騒いでおりますもので」
そうだ、あのドアみたいなものは、召喚の門というものだ。今の今まで俺が忘れていたのは、宮田が俺の記憶を「固定」したあとに聞いた声だということだろう。宮田が話を口にしたことで、『回復』の能力によって俺も思い出したわけだ。
それで、召喚って、どこへ?
「もしかして、異世界召喚?」
「それは分かりません。まずは、召喚の門について分かっていることをお話しいただけますか」
日本電波塔での出来事は、自分で記憶を持ち越すことができない俺よりも、宮田のほうが説明には適しているはずだ。ただし、宮田は最終的に何が起こるのかをどうしても話したくないせいか、なかなか口を割らない。じゃあ、俺から説明してみるか。
「最終的にどうなるのかは俺には分からないんだけど、展望フロアに、俺達がドアと呼んでいたもの、召喚の門が現れて、展望フロアにいる人達を吸い込んでしまうらしい。空中に浮かんでいて、この世のものとは思えないし、吸い込むと言っても掃除機みたいに空気を吸い込んでいる感じじゃなくて、そっちに向けて落下する感じなんだ。そして、宮田が言うには、俺があのドア、いや召喚の門に吸い込まれるのをきっかけに時間の巻き戻りが起こるらしい」
召喚の門に吸い込まれた俺がどうなるのか、当人である俺は全く覚えていないのだが。
ともあれそんな感じで、結末を先に述べた上で、展望フロアが光に包まれるところから順に質疑応答を交えながら宮田と俺で説明したのだった。




