二月五日(水)4: 『おやすみなさい』
「今お見せしましたように、日向さんには対象を加熱する能力、私には風の力を借りてちょっとした現象を起こす能力があります。そして、こちらの小林さんと宮田さんも、それぞれ能力を持っています。小林さんは体内時計を調整する能力で、宮田さんは他人の記憶や認識を操作する能力です。こちらも実際に見ていただいたほうがいいでしょう。小林さん、体内時計を調整する能力、分かりやすい効果をお見せください」
「えっ、分かりやすい効果って言われても、『おはよう』とか『こんにちは』くらいしかないけど」
白蕗さんはしばらく無言ののち、小さな溜息をもらした。
少しずつ白蕗さんのことが分かってきた気がするけど、もしかしてこれって密かにブチ切れているってことなのでは。
「ご自分の能力については、もう少し真摯に研究していただけると助かります。せっかく身近に宮田さんという被験体がいらっしゃるのですから、いろいろな言葉を試すなどできたはずです」
「返す言葉もないです」
宮田が「俺を実験動物みたいにゆーな」と怒っているが、放置しておこう。
白蕗さんが俺の周りの空間を見回す。何かを視ているようだ。
「小林さんの能力は、ご自身に使うこともできませんし、実に使い勝手が悪いですね」
「そうですね」
「ほかに使えそうな言葉は、ああ、言葉に出さないと発動しないなんて本当に使い勝手が悪いですね。『おやすみなさい』というのがあるようですね」
「なるほど『おやすみなさい』ですか」
使い勝手が悪いと連呼されてちょっと凹むが、新しい使い方が見つかるなら嬉しい。
白蕗さんの体がぐらりと揺れる。
「これは、けっこう来ますね」
「えっ」
あっ、俺は今「おやすみなさい」と言って、白蕗さんに対して能力を使ってしまったのか。
「ごめんなさい、えっと『こんにちは』でいいのかな。いやもう夕方だから『グッド・イブニング』とかかな」
これは日本語の都合かも知れないけど、「こんにちは」の挨拶が昼でも夕方でも使えるから、やっぱり俺の能力って使い勝手が悪いな。
「このように、小林さんの能力は体内時計を調整するものなのですが、雲川さんも体験してみますか?」
「遠慮しておくわ」
ですよねぇ。
「さて最後に宮田さんの能力ですが、事前に能力を使っていただいています」
やっぱりあれは白蕗さんの入れ知恵だったか。
「宮田さんは月曜日に弓道部に入部し、昨日火曜日は連絡もせずに休んでいます」
「そんなわけないでしょ」
雲川さんは白蕗さんの言葉を否定した。
「俺は月曜日に弓道部に入部したし、昨日は連絡を忘れてしまったんですよ」
宮田が白蕗さんとほぼ同じことを言う。宮田の言葉を聞いて、雲川さんの視線が左右に泳ぐ。
「えっ、そういえばそうよね。でも、体験入部で弓取りもしてたわよね。あら?」
「実はそれは、今回じゃなくてずいぶん前なんですよ」
「ずいぶん前?」
「行射を見せてもらったのも、今回じゃなくてずいぶん前なんですよ」
「ずいぶん前?」
雲川さんは宮田の言葉を聞いてしばらく無言で考え込んでいたが、しばらくして何かがおかしいことに気づいたようだ。
「どういうこと? 同じ日の記憶が複数ある」
「それでは説明させていただきますね」
白蕗先生、やっちゃってください。




