日向さんが落ち着いたところで、白蕗さんは着席し、日向さんに真剣な表情で語り始める。
「これでお分かりでしょうが、日向さんには対象を加熱する能力があり、私には自分や他人を癒す能力があります。正確には風の力を借りていくつかの現象を引き起こす能力ですが、それを応用して他人を包む風を読み取ることもできます。そして、こちらの小林さんと宮田さんも、それぞれ能力を持っています」
「ちょ、何で俺達のことまでしゃべってんだよ」
宮田の抗議を白蕗さんは完全に受け流す。
「こちらの小林さんと宮田さんも、それぞれ能力を持っています。小林さんは体内時計を調整する能力で、宮田さんは他人の記憶や認識を操作する能力です」
「えっ」
思わず声が出てしまった。俺の能力は体内時計を調整する能力と、もうひとつは?
「実はこの世界は、二月三日(月)の昼休み前から二月六日(木)の修学旅行の日までが繰り返される不具合を起こしており、小林さんと宮田さんはたった二人で何とかしようとしています」
「おい、何で部外者にそんなことしゃべってんだよ」
宮田が再び抗議する。
白蕗さんは無表情に宮田を見つめていたが、しばらくして小さな溜息をもらした。
「部外者とおっしゃいますが、私達がこのような超常的な能力を持ってしまった原因は、この世界が同じ日々を繰り返してしまう不具合を起こしていることと関連していると疑うのが妥当です。時間が周回する物語と高校生が超常的な能力を持ってしまう物語、完全に別々の物語がたまたま同時に起こったと考えるのは無理があります」
うっ、ちょっと言っちゃいけない感じのことを言ってませんかね。作者に怒られませんかね。
「せっかくですから、宮田さんの能力『回復』と『改変』のうち、『改変』についてお話しておきましょう」
白蕗さんは俺に問いかける。
「小林さん」
「は、はい」
「あなたは、同じ日々を繰り返してしまう不具合を解析するのに、宮田さん以外の能力者になぜ相談しようとしなかったのですか?」
「え、えっと、それは女子を巻き込むわけには」
うっ、また偏頭痛だ。
なぜ女子を巻き込まないのか、いや、巻き込んではいけないのか、それは俺自身も不思議に思っていたことだ。
「宮田さん」
「なんだよ」
「あなたは、小林さん以外の能力者になぜ相談しないのですか?」
「当たり前だろ、女子を巻き込むわけにはいかんだろ」
その瞬間、俺の体を電気が走り抜けたような感覚があった。
頭の中のどこかに霧がかかっていて、しかも霧がかかっていることにも気づいてなくて、その霧が急に晴れきったような感覚だ。
宮田との会話がフラッシュバックする。
『女子三人には声をかけないのか?』
『女子を巻き込むわけにはいかんだろ』
あっ。俺は思わず椅子から立ち上がる。そうか、そういうことか。
「小林さん、もう一度お聞きしますが、なぜ相談しようとしなかったのですか。合理的な説明はできますか」
「合理的な説明はできないよ」
俺は再び椅子に座る。座るというより沈み込む気分だ。
これは宮田を責めればいいのだろうか。いや、宮田を責めてもしょうがない。おそらく宮田に悪気はない。
宮田が立ち上がって言う。
「いや、女子は巻き込んじゃ駄目だろ」
「それはなぜですか。同じ日々を繰り返してしまう不具合を解析するのに、男性でなければならない理由は何ですか?」
「いや、その、危険なこととかあるかもしんねーし」
「男性なら危険な目に遭ってもいいのですか?」
「いや、その」
宮田、諦めろ。感情論で敵う相手じゃない。あと、お前の能力はとんでもない能力だが、同時に欠点もある。
「宮田さんの他人の記憶や認識を操作する能力には制約事項があります」
「どういうことだよ」
宮田は白蕗さんの言葉に驚いたようだ。つまり宮田は自分でも気づいてなかったんだな。俺が気づいたのもついさっきだが。
これは、この身で体験した俺から話したほうがいいだろう。
「宮田、お前には他人の記憶や認識を改変する能力があって、相手が記憶や認識を改変されていると認識すると無効化されるみたいだ」
「光夫、お前、何を言って、えっ?」
「俺はついさっきまで、能力を持っている女子たちを巻き込むわけにはいかないと思い込んでいたんだけど、その理由がさっぱり分からなかった。そして宮田が以前『女子を巻き込むわけにはいかんだろ』と言って俺の認識を改変していたのが、ついさっき解けたわけだ」
「えっ、いや、俺の、いや、えっ、俺の能力って、そんななのか?」
なるほど、宮田は自分の能力を正確には理解していなかったということか。
逆に、本人も理解していない能力を正確に知ることができるとか、白蕗さんの能力こそ何だよ、どういうことだよ。