白蕗空さんに案内され、日向茜さん、宮田、そして俺は科学部の部室にやって来た。
『科学部』と書かれた金属製の扉の横のパネルに白蕗さんがカードをかざすと、電子音が鳴ってガチャリと解錠する音が聞こえた。扉を開けると、ものすごい冷気が流れ出してきた。
「何だここ、寒っ」
宮田が両腕で自分を抱くようにして震える。日向さんもびっくりしているようだ。
科学部の部室は二月だということを考えても寒すぎる。
「冷房しているので、入ったらドアを閉めてくださいね」
「冷房なんだ」
白蕗さんが科学部の部室に入室し、続いて日向さん、宮田が入室し、最後に入室した俺がドアを閉める。電子音が鳴ってガチャリと施錠する音が聞こえた。オートロックらしい。
二月なのに息が白くなるほど冷房を入れている理由は一目瞭然だった。高さ2メートルは超えるであろう業務用サーバーラックがずらりと並んでおり、それら全てにぎっしりとコンピューターが詰まっているようだ。
「白蕗さん、これは一体?」
「これは42Uのよくあるサーバーラックですわ。同じものが32台あります」
いや、そういうことじゃなくて。
何で普通の高校の科学部の部室に、こんな大量のコンピューターがあるんでしょうか。どこから予算が出ているのでしょうか。電気代とか大丈夫なんでしょうか。
俺は虎の尾を踏む覚悟で聞いてみることにした。
「白蕗さん、物語の本筋とは関係ないかも知れませんが、このコンピューターは何なんですか?」
「はい。物語の本筋とは関係ないので手短に話しますが、この学校に入学して科学部を立ち上げた私は、個人でできる研究として、プログラミング言語Cの基本ライブラリlibcをGPU上で動作させるための移植作業をしていまして、その成果物のベンチマークとしてビットコインの発掘をしていたのですが、思わぬほどの大金が手に入ってしまいまして、予算は使い切るように言われていましたのに増えてしまう事態となってしまい、困惑した私はその泡銭で科学部のコンピューターを追加購入して増強していったのですが、みるみるうちに思わぬほどの規模になり、電気代で学校に露呈することを恐れた私は、専用ネットワークと専用電力線を引いて学校とは別に経理処理することで秘密裏に研究を進め、サーバーラックも32台に増えたのですが、サーバー保守を委託していた業者が職員室で科学部の部室の場所を聞くという失態を犯したために学校側に知られることとなりまして、一年生の終わり頃にずいぶん問題となったのですが、この機構を利用してとある製薬会社の新薬研究のための人工知能プログラムを開発しまして、表向きは文部科学省から表彰されるという形で着地したのですが、この件に関わった教師のみなさんは、本件で得られる利益の14パーセントでこの件に関して不問にしてくださると約束を」
「すみません、聞かなかったことにさせてください」
ふう、悪い夢を見たようだ。
この学校に文部科学省から表彰された天才がいるとかいう噂は一度も聞いたこともないし、本人にも悪気はまったくないようだし、俺は何も見てないし、誰にも話さない。
そう、俺は何も見てないし、誰にも話さない。
「そんなことより、実験を始めましょう」
白蕗さんはビーカーに水を注ぎ、テーブルに置いた。
ツッコミどころ満載な内容ですが、有識者の方はどうかスルーしてください。