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二月四日(火)1: すみません、もういいです

 ()(がつ)(よっ)()(())――

 (しょう)(こう)(ぐち)()()(ばこ)(まえ)日向(ひゅうが)(あかね)さんに(はな)しかけられ、(ひる)(やす)みに(おく)(じょう)()()される()である。

 いや、(だい)(いっ)(かい)(だい)()(かい)ではそうだったが、(だい)(さん)(かい)(こん)(かい)はどうなるか()からない。

 昨日(きのう)(だい)(いっ)(かい)(だい)()(かい)とは(おお)きく(ちが)(てん)(かい)になってしまった。()(かん)(しゅう)(せい)(りょく)とかいうものは、この()(かい)では()(ごと)をしていないようだ。

 (こん)(かい)日向(ひゅうが)さんの(こう)(どう)()めない。(しょう)(こう)(ぐち)(はな)しかけられるのかも、(おく)(じょう)()()されるのかも()からない。


     ☆


 そんなわけで、(おれ)(いま)(がっ)(こう)(おく)(じょう)()ている。

 ()()(しょう)(こう)(ぐち)()()(ばこ)(まえ)日向(ひゅうが)さんに(はな)しかけられ、(ひる)(やす)みに(がっ)(こう)(おく)(じょう)()るように()われたのだ。その(とき)日向(ひゅうが)さんの(ひょう)(じょう)(かた)く、どういう(しん)(きょう)なのかは()(はか)れなかった。

 (ほん)(じつ)(かい)(せい)で、()(がつ)にしては(あたた)かいが、(かぜ)(つめ)たい。()(こく)は12()45(ふん)。12()40(ぷん)から(ひる)(やす)みが(はじ)まり、(ひる)(やす)みが()わる13()15(ふん)までは、あと30(ぷん)といったところだ。

()たよね?」

 日向(ひゅうが)さんが()いかけてくる。きつく()()めてくるわけではなく、(たん)(たん)()いかけてくる(かん)じだ。(こん)(かい)日向(ひゅうが)さんはどんな(こた)えを()(たい)しているのだろうか。

 (しょう)(じき)()って、()からない。

 日向(ひゅうが)さんが「()たよね」と()っているのが、(べん)(とう)(ばこ)のパンダの()(がら)でもなく、スカートの(なか)でもないとすれば、日向(ひゅうが)さんは(おれ)(なに)()たと(おも)っているのだろうか。

 昨日(きのう)(よう)()からすると、日向(ひゅうが)さんは()(ぶん)()()()(ちから)()っていることは()(かく)していない。だから「(わたし)()()()(ちから)使(つか)うのを()たよね」と()っているのではないだろう。

 そもそも(おれ)は、日向(ひゅうが)さんが(べん)(とう)(ばこ)(ふた)()けて()()()たないところまでは(よう)()(うかが)っていたが、そのあとは()(ぶん)()(おん)(べん)(とう)(ばこ)()けていたから、日向(ひゅうが)さんのほうは()ていない。つまり、日向(ひゅうが)さんの(べん)(とう)(せい)(だい)()()()てる()(けん)()きるまで、(おれ)(なに)()ていないはずだ。

 そのあと(ろう)(ばい)する日向(ひゅうが)さんと()()わせてしまったわけだから、それよりあとに日向(ひゅうが)さんの(なに)かを(おれ)()たと(おも)われているということか。

 いや、(ちが)う。日向(ひゅうが)さんの(たち)()(かんが)えてみよう。(ろう)(ばい)した日向(ひゅうが)さんは、(おれ)()()わせた。日向(ひゅうが)さんは、(おれ)がその(しゅん)(かん)から日向(ひゅうが)さんを()(はじ)めたと(おも)うだろうか。そうではないはずだ。日向(ひゅうが)さんからすれば、()()わせる(まえ)から(おれ)日向(ひゅうが)さんを()ていたと(おも)うかも()れない。

 ()()だ、(あたま)(こん)(らん)してきた。(けっ)(きょく)のところ、日向(ひゅうが)さんからしてみれば、(おれ)(じっ)(さい)日向(ひゅうが)さんを()ていたかどうかなんて(かん)(けい)なく、(なに)かを「()たよね」と()っているわけだ。

 ああもう。(ぜん)(かい)日向(ひゅうが)さんを()かせてしまってクラスの(じょ)()(かこ)まれて(せい)()(しっ)(こう)されたときもだけど、どうして(じょ)()ってのは()(にん)()()めるときに、(なに)()()めているのか()ってくれないんだ。「()(ぶん)(むね)()いてみなさい」とか()われても、()(おぼ)えがないことを(むね)(おし)えてくれるわけないだろ。

 というわけで、(なに)を「()たよね」と()っているのか、()(なお)()いてしまうことにする。「(なに)を?」だけだと「お(まえ)(なに)()ってるの?」という()()()()られてしまう()(けん)があるので、(めい)(かく)(しつ)(もん)する(ひつ)(よう)がある。(しつ)(もん)(あい)(まい)だと(かい)(とう)(あい)(まい)になる。

日向(ひゅうが)さんは、(おれ)(なに)()たって()ってるの?」

 ふむ。(われ)ながら(わる)くない(しつ)(もん)だと(おも)う。(しゅ)()(しょう)(りゃく)しなかったし。(しつ)(もん)(たい)して(しつ)(もん)(こた)えるのはよくないという()(けん)もあるが、(しつ)(もん)()()(めい)(かく)でないときは(しつ)(もん)()()(かく)(にん)しなくてはならない。(にん)(しき)がずれたまま(しつ)()(おう)(とう)()(かえ)しても()()がない。

 日向(ひゅうが)さんは、(こと)()()まらせてる。()(せん)(およ)ぎ、(なに)かを(はな)したいと(おも)っているようだが、(こと)()()てこない(かん)じだ。

 この(かん)じ、どこかで()たことがある()がする。この(すう)(じつ)(かん)のどこかで()たような()がする。

「あの、(なに)から(はな)していいのか()からないけど、昨日(きのう)()(ばやし)くんが()っていたことを(かんが)えてて」

 日向(ひゅうが)さんの(こと)()に、はたと()づいた。そうだ、(おれ)()たことがあるんじゃない。(おれ)だ。(おれ)がやっていたんだ。「この(がっ)(こう)()()()(ちから)()った(せい)()がいる」と(みや)()()げる(とき)、どんな(はん)(のう)(かえ)ってくるのか(こわ)くて、(おれ)もこんな(きょ)(どう)(しめ)していたと(おも)う。

 そりゃそうだよな。()(つう)なら「バカじゃねーの」という(はん)(のう)(かえ)ってくるだろうから。そして、それだけで()めばいいが、(こう)(こう)(せい)にもなって(ちゅう)()(びょう)をこじらせているという(うわさ)()ち、(こん)()(こう)(こう)(せい)(かつ)()(じょう)()(ごこ)()(わる)いものになってしまう()(のう)(せい)もある。

 (こわ)い。(こわ)いよね。その()(もち)(おれ)()かる。よく()かる。なんだか日向(ひゅうが)さんに(しん)(きん)(かん)()いてきた。

 ここは、(こう)(てい)(てき)(あい)(づち)()れつつ、(あい)()(はなし)()()すことにする。

昨日(きのう)のお(べん)(とう)のこと、(せん)(せい)(なに)かの()()だろうって()ったけど、あとになって(かんが)えると、とてもそうだとは(おも)えなくて」

 ですよね。やっぱりそう(おも)いますよね。

 できれば、ここから「どう(かんが)えてもあなたの()(わざ)ね、この(がっ)(こう)()()(あく)()(さき)め、(ゆる)さん」という(てん)(かい)になりませんように。

「どうしていいかわからなくなったとき、()(ばやし)くんが『(へい)(じょう)(しん)』って()ってくれたから()()けたけど、(いえ)(かえ)ってからなぜ()(ばやし)くんがそんなこと()ったのかわからなくて、ずっと(かんが)えてて、それで、それで」

 よかった、(おれ)(あく)()(さき)じゃなかった。それはそうと、日向(ひゅうが)さんがやや(こん)(らん)()()だな。

 よく()ると、日向(ひゅうが)さんはよく(ねむ)れなかったのか、なんだか(つか)れた(ひょう)(じょう)をしている。()()もないか。

 これはもう、日向(ひゅうが)さんが()(ぶん)(のう)(りょく)()づいたと(おも)って(はなし)(すす)めよう。「バカじゃねーの」という(はん)(のう)(かえ)()ちになったら、それはそれで(あきら)めよう。

(だい)(じょう)()()()いて。日向(ひゅうが)さんは、()(ぶん)()()()(ちから)()ってるって()づいたんだね?」

 いけない。うっかり「あなたも()づいたんだね?」みたいな(おも)わせぶりな台詞(せりふ)()ってしまうところだった。「あなたも」なんて()ってしまうと、(おれ)にも(のう)(りょく)があると()(はく)しているようなものだ。いや、(おれ)がこんなに()()いた(たい)(おう)をしている()(てん)で、(おれ)()()()(ちから)(そん)(ざい)(もと)(もと)()っていたと()(はく)しているようなものか。とはいえ、()(つう)(こう)(こう)(せい)(おれ)には、()()()(ちから)なんて()りませんでした(おどろ)きですびっくりです、みたいな(えん)()をできる()(しん)なんてない。

 ともあれ、日向(ひゅうが)さんが(なに)()づいたのかはっきりと()いたことで、ここで()(かい)()むことはないだろう。

 日向(ひゅうが)さんは、しばらく(しゅん)(じゅん)したあと、こくりと(うなず)いた。

()()()(みが)いているときに」

 日向(ひゅうが)さんが()いかけて(ちゅう)(ちょ)する。(だい)(じょう)()(だい)(じょう)()ですよ、(はなし)()んだとか(おも)ってませんから。

()(ぶん)でも(なに)をやってるんだろうと(おも)いながら、コップの(みず)に、(あたた)かくなれって(おも)ってみたら、お()になってて」

 おお、この()()(ぶん)(のう)(りょく)をちゃんと(けん)(しょう)してる。

 いや、(おれ)ももちろん、()(ぶん)(のう)(りょく)(けん)(しょう)しましたよ。(けん)(しょう)しようとしましたよ。(かがみ)()かって「おはよう」と()ってみたり。でも、()(ぶん)では(こう)()(じっ)(かん)できず、しかも()(ぶん)(からだ)がぼんやり(ひか)っているようにも()えなかった。()(ぶん)には()かないのか、(かがみ)()しでは(からだ)がぼんやり(ひか)るのは()えないのか、それとも(おれ)がそんな(のう)(りょく)()っていること()(たい)(うそ)なのか。

 (おれ)のもうひとつの(のう)(りょく)()()らないことがあると()(かん)()(もど)すというのも、(なに)しろ(おれ)()(おく)まで()(もど)るとあって、()(ぶん)では(けん)(しょう)できない。これも、(みや)()がそう()っているだけで、そんな(のう)(りょく)()っていない()(のう)(せい)もある。たとえば昨日(きのう)は、日向(ひゅうが)さんと()()ってしまって(おれ)としては(たい)(へん)()()らない(じょう)(きょう)だったわけだが、()(かん)()(もど)らなかった。あの()(みや)()がいなかったことも(かんが)えると、(じつ)()(かん)()(もど)(のう)(りょく)()っているのは(みや)()で、(おれ)()()らないことがあったときに(みや)()()(かん)()(もど)しているだけ、という()(のう)(せい)もある。

 (よう)するに、(おれ)(のう)(りょく)()っていない()(のう)(せい)ばかり(あたま)()かんでしまうわけだが、それすらも、()(つう)(こう)(こう)(せい)でありたいと(おも)(おれ)(しん)(そう)(しん)()がそう(おも)いたがっているだけなのかも()れない。

 日向(ひゅうが)さんの()(あい)、コップの(みず)()になったということなら、そういう(のう)(りょく)があるということは()(ちが)いないのだろう。

(わたし)(なに)かおかしいのかな、()(つう)じゃないのかなって(おも)ったら、どうしていいのかわからなくて」

(だい)(じょう)()()()いて」

「うん、昨日(きのう)(よる)も、()(ばやし)くんが()ってくれた『(へい)(じょう)(しん)』って(こと)()(おも)()して。でも、あのときそんなこと()ったのって、やっぱり(わたし)がその、()()()(ちから)、を()っているって、()てたんだよね?」

 ああ、ようやく日向(ひゅうが)さんが()きたかった「()たよね?」に辿(たど)()けた。そして、この(はなし)(なが)れだと、(おれ)()()()(ちから)()っている、もしくは()っている(ひと)をすでに()っているということを(はな)さざるを()ないような()がする。

 日向(ひゅうが)さんが()()()(ちから)()っていることに(おれ)()づいているけど(おどろ)くようなことではないってのは()()がある。()(つう)(にん)(げん)なら(すく)なからず(おどろ)くはずだ。つまり、(おれ)()()()(ちから)()っていないふりをするためには、昨日(きのう)(へい)(じょう)(しん)」とか()ってないで、(あわ)てる(せい)()(ひと)()(えん)じなければならなかったのだ。

 もはや(かく)(とお)せる(なが)れでもないし、(おれ)(のう)(りょく)()っていることを()()けてしまったほうがいいか。だとして、どこまで(はな)せばいいんだろう。(べつ)日向(ひゅうが)さんと(てき)(たい)しているわけでもないし、どんな(のう)(りょく)なのかまで(おし)えてもいいんだけど。あと、この()にいない(みや)()のことまで(おし)えていいものかどうか。日向(ひゅうが)さんに(はな)してもそんなにひどい(てん)(かい)にはならないとは(おも)うが、(こん)(きょ)があってそう(おも)うわけでもない。そう(おも)いたいだけなのだろう。

「うん、()づいてた。それと、そういう(のう)(りょく)()っているのは、日向(ひゅうが)さんだけじゃないから(あん)(しん)して」

 いや、(あん)(しん)してっていうのはちょっと(ちが)うか。()(ぶん)()(がい)にも(のう)(りょく)()った(ひと)がいるということと(あん)(しん)できるということには(そう)(かん)はない。たとえば(おれ)(じん)(るい)(ほろ)ぼすような(のう)(りょく)()ってしまって(きょう)()(ふる)えているとして、「ほかにも(じん)(るい)(ほろ)ぼす(のう)(りょく)()った(ひと)はいるから(あん)(しん)して」と()われて(あん)(しん)できるだろうか。さすがに(きょく)(ろん)すぎる()もするが。

 (おれ)()(こう)(から)(まわ)りしている。こういうときに(みや)()がいてくれれば、(みや)()(なに)(みょう)なことを()っている(あいだ)(かんが)えをまとめられるのに。

 そうだ、この()には(みや)()がいないんだ。ならば、(ため)したいことがある。

「この(こう)(こう)には()()()(ちから)()った(せい)()がいて、(じつ)(おれ)もそうなんだ」

 (まわ)りくどい(せつ)(めい)はやめて、ド(ちょっ)(きゅう)(こく)(はく)した。ただし、()(ぶん)()(がい)のことは「()えない」とも「()わない」とも()わず、()れないことにした。

 とはいえ、まずは()(けん)がないことを(つた)えておかないと、()(あん)(おも)ってしまうだろう。

(おれ)()(かぎ)り、()(けん)そうな(のう)(りょく)()った(ひと)はいないよ。(おれ)(のう)(りょく)()(けん)なものじゃなくて、え〜と」

 (おれ)(じん)(ちく)()(がい)だと(せつ)(めい)するには、どうすればいいだろう。

 (じん)(ちく)()(がい)(ひと)が「(わたし)(じん)(ちく)()(がい)です」と()ったところで(しん)(よう)してもらえるだろうか。そもそも、(ほん)(とう)(じん)(ちく)()(がい)(ひと)がいるのか(あや)しいことはさておき、()(ぶん)(じん)(ちく)()(がい)()っている(ひと)(ほん)(とう)(じん)(ちく)()(がい)だとは(おも)えない。

 (こと)()()(けん)がないと(せつ)(めい)するのは(むずか)しい。(ろん)より(しょう)()、やって()せたほうが(はや)いだろう。

「そうだ、日向(ひゅうが)さん、昨日(きのう)あんまり(ねむ)れてないでしょ?」

 (とつ)(ぜん)(しつ)(もん)()(まど)いつつ、日向(ひゅうが)さんが(うなず)く。(われ)ながら(はなし)()って()きかたが()()だな。

日向(ひゅうが)さん、ちょっと(おれ)のことよく()てて。おはよう」

 (じょ)()に「(おれ)のことよく()てて」なんて台詞(せりふ)()うことなんて(いっ)(しょう)ないと(おも)っていたんだけどな。いや、それはいいとして、(かい)()をしていたと(おも)ったらいきなり(あい)(さつ)するという、こんな()()()台詞(せりふ)()()()になるとは。もしそばで(だれ)かが()いていたら、まず()(ちが)いなくこいつは(なに)()ってんだって(おも)うだろうな。

 日向(ひゅうが)さんは、ちょっと(おどろ)いたような(かお)をしている。()(まる)()をして、まるで(しょう)(どう)(ぶつ)のようだ。

()(ばやし)くんの(からだ)が、(ひか)った。それに、なんか(ねむ)()がなくなったような」

 (じっ)(けん)(せい)(こう)だ。どうやら(おれ)にはちゃんと(のう)(りょく)があるし、(おれ)(からだ)(のう)(りょく)使(つか)うと(ひか)るらしい。

 (みや)()(はな)れたところにいて(のう)(りょく)使(つか)い、(おれ)(のう)(りょく)使(つか)っているように()せかけているという()(のう)(せい)はさすがにもう(じょ)(がい)してもいいだろう。(みや)()は12()43(ぷん)20(びょう)から(こう)(ばい)()って()きそばパンを()っているはずだ。

(たい)(ない)()(けい)をリセットする(のう)(りょく)なんだけどね。アニメで(てつ)()して()()(そく)(みや)()には便(べん)()使(つか)われてる」

「じゃあ、(みや)()くんは、()(ばやし)くんの(のう)(りょく)()ってるのね」

 しまった、()(けい)なことまで()った。(かた)るに()ちるとはこのことか。(みや)()のことは()(ひつ)(よう)はなかったのに。

「うん、まあ、()ってるけど、それでどうこうしようとは(おも)ってないよ。そろそろ(みや)()(もど)ってる(ころ)だから、(きょう)(しつ)(もど)らなきゃ」

 このまましゃべっていると、(みや)()(のう)(りょく)()っていることまでしゃべってしまいそうだ。(おれ)(はなし)()()げることにした。

「あと、日向(ひゅうが)さんのことは(だれ)にも()わないよ。それより、あまり(なが)(おく)(じょう)にいると、そのほうが(あや)しまれちゃう」

「それは(こま)っちゃう」

 えっ。ちょっとショック。

「あはは。なんてね。()(ばやし)くん、ありがとう」

 あっ、(わら)った日向(ひゅうが)さん、ちょっと()(わい)い。いや、ごめん、だいぶ()(わい)い。

 でもまあ、この(さき)ハーレム(てん)(かい)になったりすることはないだろう。日向(ひゅうが)さんと(はなし)をするのには()れてきたが、(おれ)()(ほん)(てき)(じょ)()(かい)()するのが(にが)()なのだ。

 日向(ひゅうが)さんが(さき)(こう)(しゃ)(もど)ったのを()(とど)けてから、(おれ)(こう)(しゃ)(もど)った。


     ☆


 (こう)(しゃ)(もど)り、(かい)(だん)()りて(きょう)(しつ)()かう。(かい)(だん)()りてすぐの(ろう)()()がり(かど)で、(じょ)()とぶつかりそうになった。

「おっと、ごめんなさい」

 (はん)(しゃ)(てき)(あやま)ったあと、(あい)()(かお)()(しん)(ぞう)(くち)から()()しそうになる。(しら)(ふき)さんだ。

 (あらた)めてお(たが)いに(あやま)り、(おれ)(あたま)()げて(かお)()せないようにしつつ、(きょう)(しつ)()かおうとする。

「あら、ちょっと()って」

 なぜ()()めるんですかね。いや、ちょっと()て、このシーンは(まえ)にもなかったか。

 そうだ、(いっ)(しゅう)()だ。日向(ひゅうが)さんに「あなたは(なに)()ていない。(だれ)にも(なに)(はな)さない」というスパイ(えい)()みたいな台詞(せりふ)()われて(きょう)(しつ)(もど)()(ちゅう)だ。()(しゅう)()日向(ひゅうが)さんを()かせてしまって()(かん)がかかったから、タイミングがずれて(しら)(ふき)さんとぶつかりそうにならなかったんだろう。そして(こん)(かい)(いっ)(しゅう)()(おな)じタイミングで(おれ)(かい)(だん)()りてきたために、(しら)(ふき)さんとぶつかりそうになったと(おも)われる。

 (おれ)(かお)を、(しら)(ふき)さんはじっと()つめてくる。そして、(おれ)()りてきた(かい)(だん)と、()(ぶん)(ある)いてきた(ろう)()()て、(なに)かを(なっ)(とく)したように()った。

「ありがとうございました」

 ()()()からない。(ぜん)(かい)もそうだったけど、やっぱりなぜお(れい)()われているのか、()(かい)できない。ぶつかりそうになったのはお(たが)(さま)で、(おれ)(なに)かお(れい)()われるようなことをしたとは(おも)えない。これで(しら)(ふき)さんが(しょく)パンでもくわえて(はし)っていて、()()(がしら)にぶつかって「(いた)いわね、どこ()(ある)いてるのよ」とでも()われれば、あまりのベタな(てん)(かい)にその(さき)()(たい)してしまったりもするわけだけど、そもそもぶつかっていないし。

 いや、ぶつかってない、わけじゃないのか。

 (かる)(あたま)()げて()っていこうとする(しら)(ふき)さんを()()める。

「もしかして、ぶつかっちゃった?」

 (おれ)はなんて()()けな(しつ)(もん)をしているんだろう。

 この(いち)()()(じゅう)()ている(ひと)がいたとしたら、(おれ)のこの(しつ)(もん)()いて「バカじゃねーの」と(おも)うことだろう。なにしろ、ぶつかりそうになっただけで(じっ)(さい)にはぶつかっていないのは、(とう)(ほん)(にん)である(おれ)(たち)()らないわけがないからだ。

 (しら)(ふき)さんが(おれ)(かお)()ながら(なに)(かんが)えている。ああ、そうだ、この(ひと)は、きっと(あたま)(なか)でフルスピードで(なに)かを(かんが)えて、(さい)()(けつ)(ろん)だけを()うんだ。それで(おれ)にはその(こた)えが()(かい)できないんだ。

「はい。いいえ。ぶつかっていませんわ。あなたが()けてくださったもの」

 (おれ)にも()(かい)できる(こた)えだった。ちょっと(こし)(くだ)けそうになる。いや、(おれ)()けたっけ。それに、「はい」なのか「いいえ」なのか。

 (いち)(おう)、ぶつかる(ちょく)(ぜん)()()いて、(うん)(どう)(おん)()(おれ)にしてはうまく()けたほうだとは(おも)うけど。

 いや、もしかして、(ほん)(とう)はぶつかったのだろうか。

 (しら)(ふき)さんにぶつかったあと、(おれ)()(かん)()(もど)した?

 もしかして、(しら)(ふき)さんも、(みや)()(おな)じように()(かん)()(もど)っても()(おく)()(つづ)けることができるのだろうか。

(わたくし)はあの(かた)のように()(おく)()()したりはできませんよ」

 (しら)(ふき)さんの(こと)()(おれ)(がく)(ぜん)とする。あの(かた)ってのが(みや)()のことなのは(めい)(はく)だ。しかも(みや)()(のう)(りょく)()(あく)されている。っていうか、(こころ)()まないでいただけませんでしょうか。

「じゃあ、(しら)(ふき)さんは、(おれ)()(かん)()(もど)せるってことを、どうやって()ったんですか?」

 もういい。(こころ)()(のう)(りょく)なのかも()れないが、日向(ひゅうが)さんのときと(おな)じく、()(なお)()いてしまおう。

 (にん)(げん)()(なお)(いち)(ばん)だよ。()(なお)バンザイ。(おも)いを(こと)()にしよう。(こと)()(つた)えよう。

 あっ、しまった、(おな)じことを(まえ)にも()いて、スピリチュアルな(かい)(とう)をいただいたんだった。

(かぜ)(いき)づかいを(かん)じた、ということですね』

 あれは()(しゅう)()(すい)(よう)()だったか。()(おく)(こん)(らん)する。

(わたくし)(かぜ)(いき)づかいを(かん)じたり()ることができまして、あなたやあの(かた)(まわ)りの(かぜ)()ることで、どのような(のう)(りょく)()っているのか()かるのです」

 (なん)ですと。(かぜ)(せい)(れい)使(つか)いでしたか。いや、(せい)(れい)とは(ひと)(こと)()ってないのだけれども。

「じゃあ、(たい)(いく)のときも?」

「あれは(かぜ)(ちから)()りて、(たい)(りょく)(しょう)(しょう)(かい)(ふく)させていただいたのです。(ない)(しょ)ですよ」

 (しら)(ふき)さんは、(すこ)しいたずらっぽく(ほほ)()む。(いや)しの(かぜ)ですか。すごい、(ほん)(とう)(かぜ)(せい)(れい)使(つか)いだ。

 いやいや()()(おれ)(かぜ)(けい)(のう)(りょく)かも()れないが、(かっ)()(せい)(れい)使(つか)いにしてはいけない。

(さき)ほど、あなたとぶつかりそうになりましたが、(かぜ)(なが)れを()ましたところ、あなたと(わたくし)()(どう)(そく)()(ほう)(こう)から、(しょう)(とつ)()()(にん)(しき)から(かい)()までを1(びょう)(おこな)わなければならず、(ほん)(らい)(しょう)(とつ)()()()だったことが()かりました」

「でも、ぶつかってないよね」

「はい。(しょう)(とつ)したあと、あなたは十秒ほど()(かん)()(もど)して、()がり(かど)()()かる(まえ)から(かい)()(こう)(どう)(はい)られたようです」

 あ、(おれ)、やっぱり()(かん)()(もど)(のう)(りょく)使(つか)ってたんだ。()(かく)できないって、ある()()(おそ)ろしいな。

 ともあれ、それで「ありがとうございました」ってわけか。

「この1(びょう)(こん)(きょ)ですが、あなたと(わたくし)()(こう)(そく)()(びょう)(そく)1メートル、(かべ)から50センチメートルの(きょ)()(ある)いていたとし、(たが)いのベクトルが(ちょっ)(かく)(まじ)わる(さい)に」

「すみません、()(ほん)()でお(ねが)いします」

(かん)(たん)(もう)しますと、お(たが)いを()(にん)できるのが(しょう)(とつ)()(そう)(てん)から(さい)(だい)でも1メートル()(まえ)で、(しょう)(とつ)までの()(かん)が1(びょう)ということです。そこから(しょう)(とつ)()()(にん)(しき)して(かい)()する(ひつ)(よう)があるわけですが、たとえば()(どう)(しゃ)()()(かい)()のためのブレーキングでは、(くう)(そう)()(かん)が0.7(びょう)から1(びょう)とされることが(おお)く、これは(はん)(しゃ)()(かん)(やく)0.4(びょう)から0.5(びょう)、ペダルの()()えが0.2(びょう)、ブレーキペダルを()()()(かん)が0.1(びょう)から0.3(びょう)という()()もりによります。(はん)(しゃ)()(かん)はこの0.5(びょう)()るとしまして、(うん)(どう)(とく)()でない(わたくし)(のこ)り0.5(びょう)(かい)()(こう)(どう)()ることは(むずか)しく、(ひつ)(ぜん)(てき)にあなたの(かい)()(のう)(りょく)(すべ)ての(かい)()(こう)(どう)(ゆだ)ねなければならないわけですが、(しつ)(れい)ながらあなたも(うん)(どう)はさほど(とく)()ではないと(かぜ)(いき)づかいが(もう)しておりまして」

「すみません、もういいです」


 (ほん)(じつ)はお(いそが)しい(なか)()(ちょう)なお(はなし)をお()かせいただき、ありがとうございました。


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