二月三日(月)2: 爆炎の勇者じゃなくて
午後の授業は、全く集中できないまま終わった。
これだけいろいろなことがあって、何ごともなかったかのように授業に集中などできようか。いやできまい。
「できまい」というのは、「できる」というカ行上一段活用の動詞の未然形「でき」に、打消推量の助動詞「まい」が付いたもので、「できないだろう」というような意味になる。
って、俺は何を説明しているんだ。頭の中がぐちゃぐちゃだ。記憶が混乱する。
この高校には不思議な力を持った生徒がいる。そう思っていたら、実は俺にも不思議な力がありました。何てことが、そんなすぐに受け入れられるわけがない。
しかし、俺が「おはよう」って言ったら宮田が元気になった。それは間違いない。回復魔法だろうか。
どうして「おはよう」で回復するのか、意味が分からない。もっとかっこいい呪文はなかったのか。いや、中二病じゃないんだから、かっこいい呪文なんてなくてもいいんだが。
あるいは、俺に不思議な力があるわけではなく、俺が「おはよう」と言った瞬間に、宮田が自分で回復魔法を使ったのかも知れない。いや、しかし、宮田の体は光らなかったし、そもそも自分で回復できるなら俺に頼むこともないだろう。俺には不思議な力があると誤解させて、宮田にメリットはあるだろうか。いやあるまい。
疑い始めれば何もかもが疑わしい。そもそも、不思議な力を使うと体が光るという確証があるわけでもない。そこを疑い始めると、体がぼんやりと光っているのは本人が不思議な力を使っているわけではなく、誰か他の人に不思議な力を使われているという可能性もある。
他人の体を光らせる力を持った人と、他人に何か影響を与える力を持った人が別々にいることまで疑ったら収束しなくなる。
駄目だ、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
☆
ホームルームが終わり、教室の清掃が終わったところで、宮田がいつものように声をかけてくる。
「光夫、アイス買って帰ろうぜ」
「ん、ああ、寒いからこそアイスだな」
校舎を出てグラウンド横の道を通り、弓道場に向かう。買い食いをする前に弓道部の練習を見に行くのも俺と宮田の日課だ。
いや、ちょっと待て、そんな日課、いつから始まったんだ。
「なあ宮田、何で弓道部の練習を見に行くようになったんだ」
「気づいたか」
宮田は感心したふうに言う。やはり、弓道部の練習を見に行く日課なんてなかった。
グラウンドでは、運動部が活動を始めている。弓道部の女子の先頭を走るのは雲川潤さんで、剣道部の先頭を走るのは日向茜さん。いつもの光景だ。
「お、雲川だ。相変わらずクールビューティーだな」
「その台詞は言わなきゃいけない決まりでもあるのかよ」
「まあな」
放課後に弓道部の練習を、というか、雲川さんの練習を見に行くようになったのはいつからだっただろうか、と思ったことがある。
そうか、宮田は雲川さんが不思議な力を持っていることに気づいて、それで弓道部の練習を見に行くようにしたのだろう。それが何周前なのか、何十周前なのか、何百周前なのかは分からないが。
いや、いやいや、ちょっと待て。何かがおかしい。それは理屈に合わない。
宮田が同じ時間を繰り返しているとして、なぜ俺までそれを習慣だと思い込んでいるんだ。それは理屈に合わない。俺は今日まで同じ時間を繰り返していることを認識すらしていなかったじゃないか。
いや、こんな異常な出来事に、理屈に合うも合わないもないと言ってしまえばそれまでか。
「混乱しているみたいだから、これだけ先に言っておくか」
宮田がやれやれというふうに話し始める。
「実は俺も、光夫が言うところの不思議な力を持っているらしい」
うん、まあ、もう驚かないけど。
「らしいってなんだよ」
「マジで分からないんだよ。ただ、俺が光夫に話を振ると、光夫は前の周回のことを思い出すことがある」
えっ、そうなのか。いや、言われてみれば、霧に包まれてはっきり見えないものが、宮田に言われると急にはっきり見えるような感覚はあった。
昼休みに屋上で話したときもそうだ。不思議な力を持った生徒が三人いると言おうとして、白蕗空さん、日向茜さんの名前は思い出せたのに、雲川潤さんの名前が出てこなかった。宮田が「クールビューティー」と言った瞬間、霧が晴れたように今日のこれからのことを思い出した。
「そうか、昼休みに雲川さんのことを思い出したのも、それか」
「ああ、しかも、何周か繰り返すと、だんだん思い出しやすくなるみたいなんだぜ」
「パブロフの犬みたいだな」
「犬は知らんけど、こんなにはっきり思い出してくれたのは今回が初めてだな」
なるほど。それが宮田の力なんだろうか。俺がこのあと、たぶん明日か明後日に白蕗さんと話をするような気がするのだが、これも宮田が話を振ってきたらはっきりと思い出すということだろうか。
「そういえば光夫、英語のとき、白蕗が走ってんの見てたろ」
「ん、ああ、そっちか」
宮田に言われた瞬間、このあと宮田が言う台詞を思い出す。「何か気づいたことはないか」と聞かれたはずだ。
「白蕗を見て、何か気づいたこととかないのかって聞いたら、光夫は慌ててごまかしたよな」
「いや、あの時点で、白蕗さんの体がぼんやりと光ってたとか言えないだろ」
「で、隠れ巨乳だってことは確認したのか」
「バカじゃねーの」
そんな話をしているうちに、弓道場に着いた。走り込みを終えた弓道部員が練習を始めるところだ。
弓道場には見学用の小窓があって、行射を後ろから見ることができる。俺と宮田はいつもの見学窓に陣取った。いつもの見学窓といっても、いつから見学しているのか分からない。そもそも、俺は弓道に興味があっただろうか。
今日の弓道部は、試合を想定して遠的の的前稽古をするということで、見学している生徒の数も多い。的前稽古とか巻藁稽古とか、俺がなぜそんな言葉を知っているのか分からない。俺がなぜ弓道部の練習内容を把握しているのかも分からない。
そうか、宮田が同じ時間を何周もして、俺と一緒に弓道部の練習を見に来るうちに、俺にもそんな記憶が植え付けられたのか。
って、ちょっと、なにそれ、マジで怖すぎるんですけど。
宮田、お前、俺の記憶をどこまでいじってるんだよ。
「光夫、ちょっと落ち着け」
俺があたふたしていると、宮田に叱られた。そうだ。練習は静かに見学しないとな。
練習が始まった。二年生が四人ずつ出てくる。雲川さんの組が出てきた。矢を二本持っている。前後に足を開き、床を踏みしめるように立つ。雲川さんが弓構えすると、その体がぼんやりと光る。どうやら誰も気づいていないようだ。
雲川さんの射た矢が60メートル先にある的の中心に中って、拍手が沸き起こった。
そういえば、雲川さんは座右の銘が明鏡止水とか言ってたっけ。いや、まだ言ってなかったっけ。記憶が混乱する。
『私の座右の銘が明鏡止水なんだけど、この言葉を心の中で唱えると、心が落ち着いて集中できる、かしら』
『なるほど、それがあたなにとっての魔法の言葉なんですね』
雲川さんと宮田の会話を思い出す。やはり、宮田は雲川さんが不思議な力を持っていることに気づいて、それを探るために弓道部の練習を見に来るようになったのだろう。
そういえば、この会話のあと、どうなったんだっけ。ちょっと思い出せない。記憶が混乱する。
雲川さんが弓構えするときに体がぼんやりと光り、辺りの空気まで静まるように見えるのは間違いないが、矢を射たあとに軌道をコントロールしているのかは見ても分からない。いや、矢が不自然な軌道で飛んだら、誰かが気づくだろうとは思うのだが。
矢というものは、まっすぐに飛ぶわけではない。地球には重力があるからだ。では放物線を描いて飛ぶのかというと、そうでもない。空気抵抗があるからだ。バドミントンのシャトルほど極端ではないが、最後にはストンと落ちる。
力の弱い者が軽い矢を射るときは、放物線のような軌道になってしまう。熟練と鍛錬で重い矢を使うようになると軌道は直線に近づいていくが、物理法則を無視できるようになるわけではない。矢は地球の重力に引かれて放物線を描き、空気抵抗によって最後にストンと落ちる。
この軌道を不思議な力でコントロールしたりすれば、長年弓道をやっている顧問の先生がおかしいと気づくだろう。しかし、顧問の先生が何も言わないところからすると、つまり、おそらくだが、飛んでいる矢に対しては何もしていないと思われる。
って、何で弓道に詳しいみたいなふうを装って解説なんかしちゃってるんですかね、俺。
あと、説明をわかりやすくするために軽い矢とか重い矢とか言ってるけど、弓道では弱い矢とか強い矢って言うよね。
「光夫、ちょっと落ち着け」
また宮田に叱られた。
結局、雲川さんが四射を五回、全て正鵠を射たのを見届けて、俺と宮田は弓道場をあとにした。
「とんでもないな」
俺は溜息とともに感想を漏らす。
あれはたぶん、高校生レベルを超えているとかいうものじゃないような気がする。
「雲川も、今じゃあんな凄腕だけど、以前はそうじゃなかったんだぜ」
宮田が通販番組でとっておきの情報を伝える司会者みたいな顔をして言う。
我が高校の弓道部は、去年の県大会で、雲川さんの集中力の乱れによって敗退してしまったという噂は聞いた。いつ聞いたのか、何周前なのかは分からないが。
ただ、今日の雲川さんは、集中力が課題とか、それから腕を上げてキャプテンになったとか、そんな次元の問題じゃない気がする。
「以前って、県大会か?」
「違う違う、その以前ってのとは違う」
「どういうことだよ」
「俺が周回し始めた頃、雲川はあんなに上手くなかった。何百回もこの数日を繰り返して、あんなに上手くなったんだ」
へぇ。じゃあ、やっぱり雲川さんが言ってたとおり、練習の成果だったんだ。
月曜日の試合形式の練習、火曜日の通常練習、それを千回。単純計算で五年半近くを練習に費やしたことになるのか。しかも、明鏡止水という不思議な力によって心を鎮め、完全な状態で矢を放つ。そうやって練り上げられたものなのか。
いや、ちょっと待て。同じ時間を何周も過ごしているのに、なぜ上達するんだ。
「雲川さんも前の周のことを覚えているのか」
「いや、何度か会話して確認したが、雲川は周回前の記憶は持っていない」
「それでも、前の周と同じことが繰り返されるわけじゃないのか」
「ああ、少しずつどこか違っていくんだ」
それは、宮田という観測者がいるからなのか。
たとえば、ある世界が同じ時間を繰り返しているとしよう。しかし、その世界にいる者は誰一人としてそのことに気づいていないとしたら、果たしてその世界は同じ時間を繰り返していると言えるのだろうか。そもそも観測者がいなければ、時間が流れていることすら確かめることができないわけだが。
逆に、その世界にいる誰かが同じ時間を繰り返していると気づいたら、その世界は同じ時間を繰り返しているとは言えなくなるのではないか。
頭が混乱してきた。
☆
校門を出て、駅へ向かう。
白蕗空さん、日向茜さん、雲川潤さんが不思議な力を持っているであろうことは確認できた。
白蕗さんは、祈りのようなもので体力が回復できると思われる。
日向さんは、弁当箱を温めていたところからすると、炎系とかそんな感じだろうか。
雲川さんは、心を落ち着ける力を持っており、弓道はどうやら実力らしい。
この三人が、この時間の繰り返しに関わっているのだろうか。そうは思えないが、そもそもこの三人の力がこれだけだとは限らないし、俺が誤解している可能性もある。無関係だと決めつけることはできない。
それに、俺は俺自身の力についても分かっていないのだから。
「なあ宮田、俺の力って何だろう」
直球勝負で聞いてみる。
俺の力がどんなものなのか、宮田が正しく理解しているかは分からないが、どう思っているかは知っておきたい。
「俺の力って、回復魔法みたいなもんなのかな」
「いや、回復とはちょっと違う感じだな」
回復とは違うのか。宮田は明らかに回復していたように見えたが。
「なんつーか、バシッと目が覚める感じだな」
「なんだそのエナジードリンクみたいな効果は」
カフェインと糖分で脳を活性化させて、元気になったと勘違いさせる能力だろうか。
もう少し詳しい症状を聞いてみたい。
「効果が切れたら急に眠気が襲ってきたりしないのか」
「いや、眠気がくるっていうか、夜眠れなかったりする。いや、それは月曜の夜だけだな。火曜と水曜の夜は、ぐっすり眠れるし」
月曜日は昼休みに「おはよう」と言っているから、夜まで効果が持続して眠れないのだろうか。
「月曜の夜に眠れなくて、火曜日の朝は睡眠不足じゃないのか」
「ああ、それは大丈夫。光夫が朝おはようって言うから」
ああ、確かに言う。言ってる。俺は普通に宮田に挨拶しているつもりだったが、そこで仕切り直ししてたのか。
朝「おはよう」と言った場合は、夜には効果が切れてぐっすり眠れるということだろうか。
「それより光夫、早くコンビニ行こうぜ。俺の腹時計はグーグーだぜ」
「アイスで腹がふくれんのかよ」
腹時計なんか使わなくても、スマートフォンでも見れば時刻くらい分かるだろ。
いや、腹時計か。宮田の腹時計は単に腹が空いただけだと思うが、そういえば人間には体内時計なんてものもあるらしいな。
その瞬間、俺は自分の力が何なのかを悟った。ちょっと待て、そういうことか。
『朝日を浴びて、体内時計をリセットしましょう』
テレビで誰かがそんなことを言っていたのを思い出す。
俺は膝から崩れ落ちた。すげぇ。俺の力は、朝起きて朝日を浴びるくらいの威力がある。すげぇ。
ある意味すごいのかも知れないが、なんて、くだらないんだ。
中二病だった頃の俺に教えてあげたい。お前は将来、体内時計をリセットする能力を得るぞ、と。
「おい光夫、何してるんだよ、お前のもうひとつの力を確認するぞ」
ちょっと打ちのめされつつ、コンビニに行く。店内に入り、アイスの冷凍庫に向かう。
そう、やたらと歯ごたえのある、当たり付きのアイスを買うわけだ。
「さて光夫、このアイスの当たりを引いてくれ」
宮田の言葉は、今では冗談ではなく本気なのだと分かる。しかし、俺の力は体内時計のリセットじゃないのか。いや、不思議な力がひとつだけとは限らないのか。
体内時計のリセットのほかに、アイスの当たりを引く能力があると知ったら、中二病だった頃の俺は喜んでくれるだろうか。
「それって、俺の力と関係あるのか?」
「いや、わからん」
こいつ。
「できるかどうかはともかく、当てるつもりで選んでみてくれ」
「無茶を言うなよ」
いや、そうか、このやり取りは前回もやった気がする。あのときは、俺にそんな力があると思うどころか、あるわけがないと思っていたが。
本気で当てるつもりで選べば、当てることができるかも知れない、宮田はそう考えているわけか。
俺はアイスを選ぶ。こういうときって、一番上から取るといいのか、一番下から取るといいのか。それとも別のところから取るといいのか。俺がアイスを選ぶところを、宮田は凝視していた。
コンビニを出て、俺は買ったアイスを食べる。半分ほど食べたところで結果が分かった。
アイスの芯棒には、当たりを示す焼印がはっきりと示されている。
「おっ、光夫、当たりじゃん、すげーな」
いや、その、俺もちょっぴり感動していたりするわけだが、失望のほうが大きいというか。
体内時計のリセットと、アイスの当たりを引く能力。
どうしよう。こんな能力で、悪の組織と戦えなんていう展開になったら。
いや、大丈夫、悪の組織なんて存在しない。いやいや、存在しないことはないだろうが、俺が何とかしなくても、警察や自衛隊が何とかしてくれる。
「光夫はやればできる子だと思ってたけど、当たりを選ぼうと思えば選べたんだな」
宮田は心の底から感心しているようだ。馬鹿にしている様子はない。それだけに、余計に気恥ずかしくなってしまう。
「前回の光夫は、当たりを引いてくれって言ったのにハズレを引いたから、正直何でだよって思ったからな」
「何がだよ」
そういえば、宮田が怒っていたっけ。俺に不思議な力があるかどうか確認しようとしたのに、俺が真面目にアイスを選ばずにハズレを引いたから、それで怒ったんだな。
って、無茶を言うなよ。
そのあと俺が宮田にした質問を思い出した。
「このアイスの当たりを引けってのは、雲川さんと何か関係があるのか、って聞いたけど、的外れだったんだな」
「ああ、弓道部だけにな」
くっそ。誰がうまいこと言えと。
カラカラと笑っていた宮田だが、急に表情を引き締める。
「とにかく光夫、俺は一人ではこの時間の繰り返しから抜け出せなかった。巻き込んで悪いが、お前も手伝ってくれ」
「ああ、何をすればいい?」
「もちろん、この繰り返しを抜け出すことだな」
「それは目的だろ。そのために何をすればいい?」
「俺に聞かれても困るが」
駄目だこいつ。
いや、違うか。宮田だって、何をどうすればこの時間の繰り返しから抜け出せるか分からないんだ。何をすればいいかなんて、分からないに決まっている。結局、俺も手探りで進むしかないわけか。
手探りなら人数が多いほうがいいと思うのだが、白蕗空さん、日向茜さん、雲川潤さんにも声をかけたほうがいいだろうか。
「女子三人には声をかけないのか?」
「女子を巻き込むわけにはいかんだろ」
それもそうだな。
整理しよう、俺達の最終的な目的は、この時間の繰り返しを抜け出すことだ。だから、その原因を調べて、この時間の繰り返しを終わらせなければならない。
最も疑わしいのは、電波塔に現れたあのドアだ。ただし、あからさまに怪しいとはいえ、あのドアが原因だと決めつけてしまうのはまずい。
時間の繰り返しを起こしているのが誰かの不思議な力のせいなら、調査して対処する。
時間の繰り返しに関係なさそうな生徒には、積極的には関わらないようにする。
そんなところだろうか。
☆
電車で20分ほど揺られ、駅から15分ほど歩き、マンション6階の家に帰り着いた。
「ただいま」
「お帰り光夫」
夕食の支度をしている母に挨拶し、保温弁当箱を鞄から出して、台所の洗い場に置く。ご飯の容器には水を注ぐ。
「弁当ごちそうさま」
「あら、どういたしまして」
今日の昼休み、宮田はもう焼きそばパンはただの栄養補給だと言っていた。三日を千回繰り返しているとして、三千個も食べれば飽きるということか。いや、だったらほかのものを食べればいいような気もするが。「焼きそばパンについて語ると話が長くなる」と言っていたが、肝心な話を聞きそびれたな。
俺も周回するうちに、母の弁当に飽きてしまうのだろうか。暗い気持ちになった。
「修学旅行の準備はできてるの?」
「ん、だいたい終わってる」
修学旅行に必要なものといっても、四日分の衣服と下着、寝間着、学校ジャージ、洗面用具、タオル、雨具はもう旅行鞄に詰め込んである。制服で集合だし、運動靴はいつも履いているやつでいい。修学旅行は最初の半日で終わってしまうわけだが、準備をしないわけにはいかない。時間の繰り返しから抜け出せた場合、修学旅行の続きが待っているからだ。
自室に入り、鞄を放り出して、ベッドに寝転がる。そして、今日のことを改めて思い出す。
同じ学校に、何か不思議な力を持った生徒がいる。少なくとも三人だ。そう思っていたら、実は俺自身も不思議な力を持っていた。宮田も持っていた。
しかも、俺の能力ときたら、体内時計をリセットしたり、アイスの当たりを引くというものだった。
ちらりと勉強机の最下段の引き出しを見る。おい、勇者ミッツォ、お前は爆炎の勇者じゃなくて、アイスの当たり屋だったぞ。
おかしい。俺はただの普通の高校生なのに、普通の高校生活を送ろうと思っていたのに、どうしてこうなるんだ。
明日、学校に行きたくない。日向茜さんに「見たよね」とか問い詰められたくない。
頼む、勇者ミッツォ、エグゾースト・バーストで俺を焼き尽くしてくれ。




