「それでは宮田さん、あなたが何をやって重度の多臓器不全および全身の剥離骨折と筋組織の断裂を起こしたのか、ご説明いただけますか」
白蕗さんの議事進行により、議題は次に移った。俺はプロジェクターで映し出された「今日のアジェンダ」を改めて見る。宮田の報告のあと、俺が召喚の門との意思疎通について報告する流れだ。
- 前周の記憶の回復(全員)
- 能力の多重使用の危険性(報告者: 宮田)
- 召喚の門との意思疎通(報告者: 小林)
召喚の門との意思疎通について、今は考えるのをよそう。月曜日に戻っても召喚の門に話しかけることができるのかを聞いたところ、召喚の門は『召喚門、召喚門、応答せよ』って呼びかけろと言ってたな。
召喚の門の思念を俺の脳の言語野で言語化しているせいもあってか、召喚の門の言葉遣いはどこかしらおかしいような気がする。
『我はそなたの脳がどのような文章として我の思念を受け取っているのかは預かり知らぬ』
そうだよな。って、うわっ、召喚の門の思念か。俺が『召喚門、召喚門、応答せよ』って考えたから、召喚の門に繋がったんだな。
『然り』
おっと、召喚の門との意思疎通について今は考えるのをよそうと思った途端にこれだ。宮田の話を聞こう。
『それがよかろう』
ちょっと黙っていてもらえませんかね。
『汝の依頼、しかと了解した』
宮田はというと、何か話しづらいことでもあるのか、しばらく考え込んでいる様子だ。
「いや、まあ、何をやったかっつーと、実はそんな難しいことをやったわけじゃなくて、むしろめっちゃ単純なことなんだが」
そこまで言ったところで、宮田はまた黙り込んでしまった。
「そんなに勿体ぶるようなことなのか?」
「いや、別に勿体ぶってるわけじゃねーよ」
勿体ぶっているわけじゃないのか。だとすると、宮田が口にすること自体にリスクがあるのだろうか。
宮田はうーんと唸ったあと、意を決したように言った。
「確信はねーけど大丈夫だろ。俺は前周、『時間の繰り返しが始まってからのことを全て思い出せ俺』って言ってみたんだよ」
科学部の部室に沈黙が流れる。沈黙と言っても、サーバーの冷却をしているから無音ではないのだが。
「いや待て宮田、そんなことを言ったら、金槌作戦のときの記憶が戻ってしまうんじゃないのか」
そして召喚の門に粉々に砕かれた記憶を思い出した宮田は、あまりの激痛の記憶によって全身の筋肉に限界を超える力が加わり、剥離骨折や筋組織の断裂という恐ろしい状態に陥ってしまうんじゃないのか。
しかし、宮田は倒れる気配はなく、腕を曲げ伸ばししたり、肩を上下させたりしている。どうやら体に異常はないらしい。
「やっぱり大丈夫みてーだな。今の俺は、すでに時間の繰り返しが始まってからの記憶を全て思い出している。そんな俺が、思い出していることを思い出しても、何も起こらねーってことだな」
宮田の仮説に応じたのは日向さんだ。
「私の能力で、水を温められるのが一回だけってのと同じかな」
そうだ。日向さんの能力は、一度加熱した水を再度加熱することはできない。同じような仕組みなのかはさておき、宮田の能力も重ね掛けができない仕様なのなら、不公平じゃない感じはする。
「ああ、日向の能力を見てなけりゃ、俺も試してみる気にはなれなかったかもな」
宮田としては、ある程度のリスクは覚悟の上で踏んでみたということか。
「そう言えば、宮田くんには見せてないけど、私の能力は水を温めるだけじゃなくて、冷やすこともできるんだよ」
日向さんは修学旅行の朝に披露してくれた能力について説明を始めた。みかんが一瞬にして冷凍みかんになったのを思い出す。
「火属性と氷属性を両方使えるとか、有能かよ」
宮田が感心したように言う。おっと、雲川さんがウォーミングアップを始めましたよ。
「私も氷の精霊かと思ったんだけど、白蕗さんが言うには、物理学的には熱を与えるのも熱を奪うのも同一線上の現象なんだって。それで、私の能力では一度温めた水はもう温められないと思ってたんだけど、そうじゃなくて、温めたあとに冷やしたら、また温めることができるみたい」
「温めたり冷やしたり、交互にできるってことか。じゃあ、同じ理屈だとすると、俺の能力でも忘れろってのと思い出せってのを交互にやることはできるんだな」
宮田がしれっと怖いことを言ってるぞ。
「宮田、お前、他人の記憶を消すこともできるのか?」
「ん、ああ、しまったな、記憶を消す能力は使うつもりもねーし、みんなを怖がらせるだけだから言わねーつもりだったが」
できればそんな恐ろしい能力は使わないでほしいものだが、しかし、使うつもりがない理由は気になる。
「何で使うつもりがないんだ?」
「いや、人間なんてもんは、誰かに記憶されててナンボだろ。時間の繰り返しが始まってからずっと、俺は自分以外は記憶を持ち越していない状態で、ある意味独りぼっちだったからな。光夫がときどき前の周のことを思い出してくれたときは嬉しかった。覚えていてほしいと思うことはあっても、忘れてほしいなんて思うことはねーな」
そうか。俺は宮田が能力を悪用するような奴じゃないと、特に根拠もなく思っていたが、宮田はこういう奴だった。
宮田はバカじゃない。信用できるバカだ。
「私の能力の新しい使い方も見てもらいたいわね!」
ウォーミングアップを終えた雲川さんが立ち上がった。ちょっと、それは今やることですかね?
部室の奥から、炊飯器が仕事を終えたことを知らせる電子音が聞こえた。