二月三日(月)6: グッド・ジョブである
「ほんとだ、小林くんが召喚の門とテレパシーで話をして、それで時間を巻き戻してる」
日向さんが前周の記憶を思い出して言う。
えっと、何ですって?
俺の耳がおかしくなったのでなければ、日向さんがテレパシーって言ったように聞こえたけど。
「ちょっと白蕗さん、宮田くんに何てことをしてるのよ」
雲川さんは別のところが気になったようだ。そりゃそうだよね。
「はい。その件に関しましては解決済みで不問となっています」
白蕗さんはしれっと応えた。宮田本人が「白蕗が謝ることじゃないぜ」と言ってしまった事件だし、もう蒸し返したところで判決が覆されることはないかな。
いや、そんなことより、俺としてはテレパシーというものが気になる。テレパシーはファンタジーなんかではしばしば出てくるものではあるが、現実に自分が使うということは想像もしてなかった。
「宮田さん、小林さんがお待ち兼ねのようです」
白蕗さんが俺の記憶の回復を宮田に促す。さっきの話を蒸し返される前に、話を先に進めようという意図などはないと思われる。
「ああ、そうだな。どういう話の流れなのか、俺も気になる。光夫、前周の病院以降のことを全て思い出せ」
宮田がそう言って俺の記憶を回復させる。
話数で言えば第85話からあとのことを、俺は思い出した。
「思い出した。宮田が導尿カテーテルについて院長先生に質問して、そのあとそれを女子もいる前で見ようとしたんだ」
「バカ光夫、何でそこから思い出すんだよ」
宮田が抗議してくる。確かに、それは別に思い出す必要はなかったな。
しかし、宮田の能力はすごいな。改めてすごいな。細かい台詞まで克明に思い出せるぞ。
『挫滅症候群の可能性はないのですよね?』
『ないとは断言できませんが、血中カリウムも正常範囲内ですし、今のところは安心してよいかと』
白蕗さんと院長先生の会話を俺は思い出す。挫滅症候群というのは何なんだろうか?
いや、「今日のアジェンダ」に能力の多重使用の危険性も挙げられているから、そのときに確認しよう。院長先生が安心していいと言っていたくらいだし、それほど大したことではないと思うが。
俺はさらに、病院を出て最寄駅に行くときの会話を思い出す。俺の能力は体内時計を調整するもので、時間を巻き戻してるは俺の能力じゃないと白蕗さんに教えられた。そうだ、確かに俺の能力じゃなかった。それはその翌日、修学旅行で知ることになったわけだが。
その夜、俺は体内時計を調整する能力で壁掛け時計の時刻を変えられることに気づいて大興奮で実験を繰り返したわけだが、修学旅行で分かったことを考えると、そんなに大はしゃぎするものじゃなかった気もするな。
「それで、俺のいない間に、召喚の門と何があったんだよ」
おっと、今度は宮田がお待ち兼ねのようだな。
「いいえ。次の議題は、能力の多重使用の危険性についてです」
白蕗さんがきっぱりと言った。
「何でだよ」
「召喚の門について分かったことが重大すぎるため、先にそれを議論してしまうと、能力の多重使用の危険性に関して考えている余裕もなくなると思われるからです」
「そんなにすごいことが分かったのか?」
「はい」
「だったら先に教えてくれよ」
「いいえ」
うん、諦めて白蕗さんに従っておこうか。怒らせると怖いし。だいぶ怖いし。めっちゃ怖いし。
それに、俺としても宮田がいったい何をやって生死の境を彷徨う羽目になったのか知りたい。
「宮田、能力の多重使用で命を落としかねないってことは、能力を持っている俺達全員が情報共有をしておかないといけないと思う。宮田がやってしまったようなことを俺達がやってしまわないように、まずは宮田がやったことを教えてくれよ」
宮田はしばらく考えて、やがて口を開いた。
「そうだな。俺がやったみたいなことは俺の能力じゃなきゃ起こらねーとは思うけど、光夫を危険な目に遭わせるわけにはいかねーからな」
おい、何でそこで俺に限定した物言いをするんだよ。いや、宮田が死にかけた前日に俺も気絶しているから、危険という意味では俺も似たようなものだったのかも知れないが。
雲川さんがまるで冷気でもまとったかのようだ。室温が何度か下がったような気さえする。
「ああ、雲川さんが入院なんてしたら、宮田、お前は耐えられるのか?」
俺は宮田の意識を雲川さんに向けさせる。
「バカ光夫、そんなひどいことを俺に想像させんじゃねーよ、雲川が傷つくなんて、耐えれるわけねーだろ!」
あっ、宮田がガチ切れした。
恐る恐る雲川さんを見てみる。雲川さんは耳まで真っ赤にして俯いていた。
えっと、俺は、何をやっているんですかね。何をやらされているんですかね。
日向さんが俺にしか見えない位置で親指を立てている。テレパシーじゃなくとも伝わった。グッド・ジョブであると。




