「それではまず、前周の記憶の回復をいたしましょう」
白蕗さんが「今日のアジェンダ」の最初の項目を読み上げた。
- 前周の記憶の回復(全員)
- 能力の多重使用の危険性(報告者: 宮田)
- 召喚の門との意思疎通(報告者: 小林)
前周は宮田は体調不良によって修学旅行に参加できなかった。そのため召喚の門で俺が粉々になって時間が巻き戻る直前に、宮田の能力によって記憶を固定することができなかったはずだ。
ただ、修学旅行の前日、病床の宮田がうっかり「みんな、覚えていてくれ」って言ってしまったおかげで、俺達は月曜日から水曜日の夕方くらいまでは覚えているわけだが。
「宮田くん、どうしたの、平気?」
雲川さんが宮田に声を掛けている。宮田は心なしか青ざめているように見える。
宮田は前周の病室で余計なことを言ってしまって、白蕗さんに警告されていた。目の角膜と網膜に「能力について語るな。次の周の月曜日の放課後に科学部に集まってから記憶を回復しろ」というメッセージを書き込まれた宮田にしてみれば、恐怖でしかないよな。白蕗さんの能力は、使いようによっては相手を失明させることもできるわけだ。
俺は昼休みに宮田の話を聞いてこのあたりのことを思い出してしまったが、「みんな、覚えていてくれ」までしか記憶にない雲川さんにしてみれば、宮田が何を恐れているのかは分からないだろう。
「いや、大丈夫だ、落ち着け俺、落ち着け俺」
宮田はそう言うと、どうやら落ち着いたようだ。やっぱり宮田の能力、便利だな。
「宮田さん」
白蕗さんが声を掛けると、宮田の体がびくっと跳ねた。うん、あまり大丈夫じゃなさそうだな。
「私は前周のことをある程度は記録に残しているのですが、緊急事態だったとは言え、宮田さんにはずいぶんな仕打ちをしてしまったこと、心からお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした」
白蕗さんはそう言うと、深々と頭を下げた。
「お、おう、あれは俺が口を滑らせたのが悪いからな。白蕗が謝ることじゃないぜ」
ああ、宮田の性格なら、先に謝られたらそう言うだろうな。俺には白蕗さんの掌の上でいいように転がされているようにしか見えないが。
「はい。それではその件に関しましては解決済みで今後は不問ということにいたしまして、記憶を回復しましょう。複数人を同時に回復させると宮田さんへのダメージが心配ですので、一人ずつ回復いたしましょう」
なんか、その件には二度と触れるなと釘を刺しているのが気になるが、気にしないでおこう。
「どう言って思い出させればいいんだ?」
宮田が白蕗さんに確認する。もちろん俺を気にしてのことだろう。
「はい。そうですね、『前周の病院以降のことを思い出せ』あたりでよいでしょう。全員同じで大丈夫です」
「いや、それだと光夫が思い出しちゃいけないことまで思い出しちまうんじゃねーのか?」
宮田が反論する。俺が召喚の門で粉々になって死ぬ話を宮田がしてしまえば、俺はその記憶を思い出す。前周の宮田みたいに全身の筋肉が断裂するくらいの衝撃を受けるか、あるいは苦痛によってショック死してしまうか、どうなるかは分からない。
「いいえ。あくまで今回に限ったことなので留意が必要なのですが、今回は小林さんは召喚の門によって粉々にされることはありませんでした。どういうことなのか疑問に思われるでしょうが、小林さんが思い出しましたら、召喚の門との意思疎通について説明いただけるはずです」
召喚の門との意思疎通。何だそれ。召喚の門と意思疎通なんてできるわけないじゃないか。白蕗さんは何を言っているんだ。いや、召喚の門の向こう側にいる誰かと意思疎通ができたという話なんだろうか。白蕗さんがそんな曖昧な言い方をするだろうか。
「分かった。白蕗を信じるぜ」
宮田は覚悟を決めたようだ。
「ただ、信じてはいるんだが、雲川と日向の記憶を回復して、念のため、どうやって時間の巻き戻りが起こったのかだけ先に確認させてくれ」
「はい。冷静な判断。すばらしいです」
というわけで、雲川さん、日向さん、白蕗さんの記憶の回復が実行された。