「えっと、言語野を通して答えてもらいたいんだけど、お前は何なんだ?」
『我は召喚門なり』
召喚の門のテレパシーは、意思を直接相手に伝えることができるようだが、それだと受け手である俺は、自分の考えなのか、送られてきたテレパシーなのか判別が難しい。
人間の脳には、言語野という領域があって、言葉を話したり、言葉を理解する機能を司っているらしい。俺の脳の言語野を通して答えてもらったところ、俺の頭の中に文章として『我は召喚門なり』という答えが返ってきた、というわけだ。
男性なのか女性なのか判然としない声だ。何しろ俺は耳で聞いているわけではなく、俺自身の脳が文章として受け取っているわけだから、性別の違いが聞き取れるわけもないということだろう。
ああ、そうか、あの声は、これだったのか。
『召喚魔法は成功した。ただし召喚は成功しておらぬ』
おそらく召喚の門は別の誰かに答えていたのだろうが、それがなぜか、俺の脳の言語野にも届いていたんだろう。俺にしか聞こえない理由が分かった気がする。逆に、なぜ俺にだけテレパシーが届いたのかという新たな謎も生まれてしまったが。
いや、余計なことを考えている時間はない。大展望台二階に上がってきた人達が、二階の惨状を見てすでに騒ぎになっている。いずれ、二階にはもう誰も残っていないことに気づき、この大展望台一階に降りてくるだろう。
俺は白蕗さんに言われたとおり、召喚の門の目的、なぜこんなことをするのか、そして、やめさせることはできるのかを聞き出さなければならない。
召喚の門は俺の考えを読み取って回答することもできるだろうが、俺は白蕗さんにも質問内容が伝わるよう、声に出して質問することにした。
「召喚の門なのか、召喚門なのか、どっちが正しいんだ?」
あっ、いきなり余計なことを聞いてしまった気がする。
『我は召喚をする門であり、そなたの脳がどのような文章として受け取っているのかは預かり知らぬ』
そういうものなのか。じゃあ、召喚の門の言葉がやけに堅苦しいのも、俺がそういう風にイメージしているからなのだろうか。
「何が目的なんだ?」
『我は召喚門。強き者を求め、開くものなり』
いや、じゃあ召喚しろよ。なんで全員が粉々になるんだよ。
「ふざけんな、誰がこんな召喚をしたんだよ」
『守秘義務により、依頼者のことは言えぬ』
「つまり、誰かの依頼があって、こんな召喚をしているってことだな」
『あ、しまっ、いや、うん』
召喚の門が、うっかり口を滑らせてくれた。いや、思考を滑らせたと言うべきだろうか。
「どういうことだよ、そいつは何の恨みがあって俺達を粉々にしてるんだ」
『えっと、その、最強の者達を召喚せよという依頼であるため、弱き者は粉々になるように設定されておる』
俺は目眩がして、危うく倒れそうになった。
つまり、こいつは、この召喚の門は、最強の者を召喚するように依頼されて、最強の者を選別するために、罪もない人々を粉々にしているってことか。
俺はさっき、悟暁高校の男子が召喚の門で粉々にすり潰されていった様子を思い出していた。あまりの衝撃で名前も思い出せないが。
あれはなんだろう。俺のイメージで似たものというと、採掘場の岩砕機みたいなものだろうか。
『そんなところだ』
召喚の門に同意された。
俺は再び猛烈な吐き気に襲われる。しかし胃の中がすでに空なので、何も出るものはなかった。
「つまりお前は、強い者を召喚するために人々を岩砕機に掛けて、生き残った者だけを召喚しようとしているのか!」
『然り』
俺の胃が、何もないものを絞り出そうと捻れている。
白蕗さんを見る。顔面蒼白だ。日向さん、雲川さん、そして悟暁高校の女子四人も同様だ。どうやら俺の意図通り、俺の質問を聞いて、おおよそのやり取りを理解してもらえたようだ。
「バカじゃねーの」
俺は宮田にいつも言っている台詞を口にした。
「バカじゃねーの。そんなのを生き残れる人類がいるわけねーだろ!」
俺は召喚の門に向かって叫んだ。
『然様か。道理でこの惑星の二百か所のいずれにおいても強き者が見つからぬわけだ』
俺はあまりの恐怖に立っているのがやっとだった。
「同じことを、二百か所でやっているのか!」
『然り』
ああ、駄目だ。言葉は通じるけど、話が通じない存在かも知れない。
しかし、言葉が通じるなら、せめてこの愚行をやめるように言わなければ。
『そんなに酷い案かのう』
俺が何かを言う前に、先に召喚の門の思考が伝わってきた。
「いや、強い者を求めるなら、軍隊とか、兵器を持っている人とかを、無傷で召喚しろよ」
『召喚先の兵器より劣る兵器を召喚したところで、八千匹の魔物には対抗できぬ』
「魔物?」
『あっ、いや、強大な脅威に対抗するには、ここの兵器などでは刃が立たぬのだ』
召喚の門がまた思考を滑らせたおかげで、召喚先にも兵器があり、どうやら地球の科学よりも進んでいるようだが、それでも八千匹の魔物とやらには刃が立たないということが分かった。
日向さんの水を温めたり冷やしたりする能力、雲川さんの必ず矢を中てる能力、白蕗さんの風を操るチート能力で、八千匹の魔物をどうにかできるだろうか?
俺の体内時計を調整する能力で、八千匹の魔物をどうにかできるだろうか?
無理。
無理無理。
無理無理無理無理。
無理無理無理無理無理無理無理無理。
『そんなに無理なのか』
「無理に決まってるだろ、とにかく、こんな選別方法で生き残れる人はいない。絶対にいない。とにかく、こんなことはやめてくれ」
『しかし、我は召喚の依頼を果たさねばならぬ』
ああ、話が通じない。
俺は白蕗さんをちらりと見た。そうだ、こういうときこそ、白蕗さんに丸投げ作戦だ。
「ちゃんと相談してくれれば、こんな無茶な選別をするんじゃなくて、八千匹の魔物もなんとかできるかも知れない。とにかく、世界中でやっている選別をやめてくれ」
『他に手立てがあるというのだな』
ここで悩んだり躊躇ったりしちゃ駄目だ。もちろん白蕗さんが解決してくれるに決まってる。
「もちろんだ」
『ふむ』
召喚の門は何かを考えているのか、思考が伝わってこない。
俺は白蕗さんに助けを求めた。
「どうやら説得はできそうだけど、そのためには異世界で八千匹の魔物をどうにかしないといけないみたい」
白蕗さんは少し考えて、言った。
「それは考えるとして、ひとまずこの場はそろそろ時間切れです。小林さん、召喚の門との精神感応がどれくらいの距離、あるいは時間を超えて月曜日でも通じるのか確認いただけますか」
な、なんて頼もしい。
そして、大展望台二階で騒いでいた人達が、階段を使って一階に降りてきたようだ。「誰かいませんか」などと大声で訊いている人もいる。
「召喚の門、魔物をどうにかする方法は考える。ただ、相談するためには、俺はこうやってお前に話しかける必要があるんだけど、月曜の昼に戻ったとして、こうやって話しかけることはできるのか?」
『召喚門、召喚門、応答せよと呼びかければ、我はいつでも応じようぞ』
なんだよそれ。いや、ツッコミを入れている時間が惜しい。
「ひとまず、時間を月曜日に戻さないといけない。お前の岩砕機で俺が粉々になると時間が戻るようだけど」
俺は再び悟暁高校の男子が召喚の門で粉々にすり潰された光景を思い出していた。白蕗さんの言う通り、尋常じゃない恐怖が俺を襲う。
『時間を戻すだけなら、そなたが粉々になる必要はない』
「なんだって?」
『元々、そなたが粉々になる際に、痛い痛い、こんなのは嫌だ、タンマという思念を送ってきたゆえ、何か願いはあるかと尋ねたのだ。するとそなたがこんなことはなかったことにしてほしいと希うので、時間を戻したのだ』
「えっ、じゃあ、時間を巻き戻す能力って」
『それ以来、我はそなたの依頼をちょこちょこ叶えておる』
なんてこった!
時間が巻き戻るのは、俺がきっかけではあったけど、俺の能力ではなかった。そして、俺に都合のいいケースが度々あったのも当然だ。俺の望みが叶えられているだけだった!
「わ、分かった。八千匹の魔物については、あとで相談しよう」
『承知』
俺は白蕗さんを見た。白蕗さんはこくりと頷いた。
「召喚の門、俺達を月曜日に戻してくれ」
『汝の依頼、しかと了解した』