*まずは森のモンスターの中華料理店から 10
●【No.010】●
果たしてイトリンはお店を出せるのか?
この後も俺は小屋に戻り、色々と試しながら、ラーメン・チャーハン・ギョウザの味の微調整をしていく。
やがて、なんとか人様に出せる程度の味と見た目の中華料理が完成した。
しかし、ここで問題が起きた。
―――店がない……。
そもそもお客がいない……。
ここは森の中……しかも、近くに街や村すらないみたいで、周囲一面広がる森は最早ジャングル並みである。
この森の中にいる人間はヴァグドーさんとヴァグドーさんの仲間たち、あとは俺。 モンスターもいるらしいけど、俺はまだ見ていない。
これでは商売にならないぞ。
なんとか何処かテキトーな街とか探しに行って、お店を出さないと、商売どころか、そもそもせっかく作った中華料理を食べてもらえないぞ。
この森の中にいるのは、モンスターばかり……人間に食べて貰えなければ……意味がない……。
だからモンスターなどに……食わせても……。
・・・
………
……イケるか?
もしかしたら、前代未聞・前人未到の……モンスターの為の中華料理店を、おそらくは、全世界探しても、俺だけではないのか?
……イケるのか?
そこで俺は色々と模索する……検討する……思案する。
一体どうすればいいのか、しばらくの間、考え込んでいる。
第一、モンスターに中華料理の味など、果たしてよくわかるのか、うまいのか、まずいのか、普通なのか、モンスターに食レポなど出来ないと思うけど、ただ食べ尽くすだけなら、エサと変わりがないのでないか?
だからつまり、ある程度の知能と味のわかるモンスターに中華料理を食べて貰うしかない。
・・・
………
正直、俺に戦う力などない。
今の俺に出来ることは料理を作ることだけだ。
相手はモンスターだ。
交渉には当然、力・強さが必要だ。
まずモンスターに試してみて、上手くいけば人間にも試せる。
なにせ、この世界にない中華料理……既に試食は完了・終了している。
あとは中華料理屋のお店の試験運用・実験営業のみだ。
・・・
………
やっぱり、ここで頼りになるのが、ヴァグドーさんの存在だな。
聞いた話だと、この大陸・この王国の弱小モンスターは、本能的にヴァグドーさんを避けているらしい。
最早戦っても無駄……自殺行為だということを、モンスター自身が本能的に悟っているらしいのだ。
それならば、これは交渉のカードに使えるかもしれないぞ。
ヴァグドーさんに交渉のテーブルについてもらい、なおかつ美味しいモノも食べられる……モンスターにとっても悪い話ではないはず……だ。
これが上手くいけば、俺の「森のモンスターの中華料理店」は完成する。
そう、俺は遂に森のモンスターの為の中華料理屋の店を開業して、現在は森の弱小モンスターだけだけど、やがては国内外・大陸別・人種・種族の垣根を越えたモンスターも亜種も魔族も大魔王もドラゴンも妖精・精霊も……勿論、人間も全ての者が美味しいと慕ってくれる……俺の中華料理屋チェーン店の展開が、これこそが俺の理想・そして、俺の夢……!
これこそが前代未聞・前人未到の「全生命体専用中華料理屋チェーン店」の……他の者には絶対真似の出来ない俺だけの野望なのだぁーーっ!!
不意に俺は物陰に隠れて、思わず「フフフ」とニヤつく。
・・・
………
本当にイケるのか……??
●【No.010】●
イトリン、意外ととんでもないことを考えるよな?
もしこれが成功したら凄いことになるぞ?




