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インモータル/セクステット  作者: はいろく
5/11

セイネン

 シオンの部屋でリリナはくつろいでいた。ベッドにごろ寝である。本当にどういう神経をしているのか分からない。確実にミミズぐらいの太さはあるはずだ。


「で、説明してもらいましょうかね」

「何をだよ」


 上の服はあの時ズタズタにされたため今彼女は代わりにシーツを巻いている。もう少し悩ましい体をしているなら、目のやり場に困るが、不思議と困らない。

 今何故かシオンは睨まれた。


「あの時の事とか、なんで首輪がとれたのかとか、エリクサーの事とか」

「いろいろあるんだ。色々な」

「ふーん」

「……」

「それで納得すると思うの?」

「いや?」


 リリナは眉を吊り上げた。


「なら説明しなさいよ」

「すると思うか?」

「思う」


 さっきのやり取りの意趣返しだったが彼女には効かなかった。さぁ言え、と睨みつける。しかしシオンはそれにかまうつもりなどさらさらなくて、腰かけていた小さな椅子から立ち上がった。


「その話はあとだ。まずはフォレストパンサー、だろ?」


 その実、悠長にしている暇はなかった。死体が腐り、悪臭を放つまでに討伐証拠を押さえておかなければ、それに勘付いた別の冒険者にかすめ取られてしまうかもしれないからである。

 リリナも二度助けてもらった手前、さすがにそれ以上踏み込めないようで黙り込んだ。代わりに三角形の耳が不服そうにシャキンと威嚇していた。

 シオンには別にモフラーの趣味はないので、特に心がなびくこともない。


「お前の主人を殴っちまった以上、長居は良くないな」

「えぇ…ちょっとまずいわね」


 何か歯に物が詰まったようにリリナはもごもごっと喋る。シオンは勘付いた。


「本当は?」

「えっと…うーんかなりヤバいかしら?」


 リリナにとっては精一杯言葉を選んだほうだった。


「なら、さっさと動いたほうがいい。お前のためでもあるしな」

「そうね。アイツねちっこいから」

「しかし、出発するための準備が必要だな…」


 食料とか食料とか。


「長期間の滞在は無理かもしれないけれど、数日の猶予はあるわ」

「どういうことだ?」

「フォレストパンサーの討伐証明がされない限り、通行は規制されてるっていったでしょ」

「言ったっけ?」

「言ったわ、多分、おそらく。ま、とにかく私たちが討伐証明をしない限りアイツの私兵とかはやってこれないわけ」


 そういうわけなら納得であった。


「それなら服を買いに行かないか。お前もニーナも酷い格好だからな」

「キャッ!見ないで!」

「さっきまで会話してたろ…」


 改めてシーツを体に巻きなおすリリナにシオンはため息をついた。


「普通なら金とるんだからね」

「はいはいそうですかー」


 適当に受け流しておく。


「…近くの服屋に心当たりは?」

「あるわ」

「じゃ道案内をよろしく」



 服屋は本当に近くにあった。建物が相当古いようで、屋根が明らかに不自然にしなっていた。赤いペンキが剥げかけてどぶ色の木材が顔をのぞかせていた。

 

「着いたわ」

「見ればわかる」

「いちいち細かい男ね」


 ふんと鼻を鳴らすとリリナはさっさと店に入っていった。シオンとニーナはしばらく店先に突っ立っていたが中から呼ぶ声がして仕方なく入っていった。

 店内は狭いの一言に尽きた。所狭しと服が並んでいる。限りあるスペースを最大限生かそうとするあまりレイアウト度外視の窮屈さである。

 男物女物上下季節すべてごちゃごちゃで片っ端から並べているようである。


「あら、掘り出し物」


 服の山の向こうで声がしたのでニーナの手を引いて行ってみると、純白とは言えないウエディングドレスを手に持ったリリナがいた。


「あ、シオン見てほら。ここ結構いいものあるみたいよ」

「へぇ、使う機会があればいいな」


 返事は拳だった。


 痛むシオンをしり目にリリナはニーナを連れていく。ニーナは後ろ髪が引かれる思いであったがリリナのペースにはかなわなかったようでおとなしく付いてくる。


「ほんとお人形さんみたい。綺麗な髪。赤系の服が似合いそうね…それじゃあこれとこれと…」


 リリナはぱっぱっと服をとると左手に掛ける。すると数分のうちに左手には山が出来上がっていた。


「試着室は…あ、あったあった」


 店の奥にひっそりと試着室があった。カーテンで覆うだけの簡易的なものである。


「シオン、ちょっと来て」


しばらくしたらリリナの呼ぶ声がする。


「どこにいるんだよ。どっかの誰かさんが殴ってくれたせいで見失っちまったじゃないか」

「それはあんたがデリカシーのないことを言うからよ。自業自得というやつね」


 リリナはシオンの言い分を聞かず早く来いとせがむ。本当にどこにいるかわからないわけではなかったのでシオンも渋々彼女たちの方へと行くのだった。


「遅いわよシオン」

「うるさいな」

「ほらニーナちゃん。朴念仁が来たわよ」


 リリナがそういうとシャッとシオン達の目の前にあった試着室のカーテンが開かれる。

 シオンはリリナの発言にツッコミを入れることも忘れて驚いた。


「おぉ…こいつは…」

「いやぁ素材がいいと腕が鳴りますなぁ、ガッハッハッハッ」


 バシバシとリリナがシオンの背を叩く。結構力が強い。痛い。やめろ。


「ほらほら、かけるべき言葉があるでしょ旦那様?」


 芝居がかった小声でリリナが告げる。

 シオンはわかってはいたが相当の勇気が必要だった。しかし無表情にこちらをみるニーナを見て、彼女はあまり気にしないのではないかと思った。それに彼女は子供だ。何を恥ずかしがる。


「すごく似合っているじゃないか」


 ごく自然に言えた。これにニーナはてっきり「ん」と返すだけかと思った。


「……」


 が、しかし彼女は微かに耳を赤くさせて静かに俯いた。それになんだかこっちまで気恥ずかしくなってしまいシオンも俯く。

 リリナはそんな二人をニタニタと眺めているだけだった。

 

 リリナのチョイスはなかなかに唸らざるを得なかった。珍しいワインレッドのワンピース。しかしそれが不自然でなく、ニーナの髪色にマッチしていた。フリルなどの装飾は抑えられているが、ワンポイントとしては十分だった。

 おまけに試着室の前には靴が置いてあった。シオンが貸した靴ともう一つ。小さい編み上げのブーツだ。少しつま先に傷がある。

 この服屋は靴も置いているようだ。

 ニーナがこの靴を履いて外に出たら、彼女が元奴隷などと誰が思うのだろうか。


「ふふん。私の手にかかればこんなものね」

「ん…まぁほんとは目立たないほうがいいんだがな」


 そう問題はそこなのである。目立つ。嫌でも目立つ。


「女の子のおしゃれに制限なんて無粋よ」


 その理論で言うと女の暗殺者はリボンのついた服で対象を襲うことになりそうなものだが。

 だが、着ている服を興味深そうに眺めているニーナを見ると、止めろという気も失せた。


「似合っているからいいじゃない。でしょ?」

「確かにな」


 ニーナの服が決まるとお次はリリナであった。


「どう」

「いいんじゃないか?」

「ど~お?」

「素晴らしいと思う」

「じゃーん」

「びゅーてぃふぉー」


 感情がこもっていないと怒られたが、この状況で一人ファッションショーをやる奴に素直な賛辞は送れないのも当然だ。

 結局シオンと初めて会った時のような動きやすい格好に落ち着いた。


「長い」

「うっさいわね。女にとって服屋でのショッピングは癒しなんだから。あんなこともあったし…」


 シオンが文句を言うと何かを思い出してしゅんとうなだれるリリナ。ここでシオンは言い過ぎたことを悟った。あんなことがあってすぐこんな態度をとれるはずがないのだ。彼女のこれまでの元気さは過去を払拭しようとする努力の表れだったのかもしれない。

 それにつられてしまった。

 思えばウエディングドレスのくだりも彼女には相当に堪えたはずに違いないのだ。結婚出来たらなんて…。


「…すまない。それに…俺が言うのも何だがお前は結構美人だし、きっとそういうことを気にしないやつが現れるさ…」

「そういう?」

「それはその…操とかだよ。と、とにかく俺もさっきは言い過ぎた。悪かったよ」


 シオンが頭を下げ、謝罪し、そして頭を上げると、ドン引きしているリリナと目が合った。ドン引きしている…なぜに?

 

「え、キモっ」

「は?」

「え?ちょっと無理なんですけど。男子ってみんなこうなんですか?四六時中そういうことしか頭にないんですか?」

「は?は?」

「勝手に私の貞操奪われた体にしないでいただけますぅ?」

「え、だってあいつ裸だったじゃん」


 そうだったはずだ。ん。ちょっと待てよその時リリナの服装はどうだったか?上の服はダメになっていたが、下は…。

 

「確かにそういうことされそうだったけど、未遂よ。み・す・い」

「なんだよ…気遣って損した」

 

 ほっとして思わず言ってしまった。リリナの目つきがより一層鋭くなる。


「損したぁ?あいつにひどいことされたのは事実だし、そういうのがなければ女に被害がないって考えるの?最低ね男って」

「…ごめん」


 リリナの言うことが正しかった。直接的な危害を加えられていなくても、体の自由を奪われた恐怖は想像を絶するものだろう。もしかしたら肉体的損傷よりひどいかもしれない。それをまた、軽はずみな発言を…。シオンは壁に頭を叩きつけたいほど猛省していた。


「この最低男!!服代は全部アンタ持ちよ!」

「あぁ分かった。もちろんだ」

 

 それぐらいで許されるなら喜んで払おう。


「ついでに昼飯代もよ!」

「あぁもちろんだ」


 食べることはストレス解消になる。喜んで払おう。


「フォレストパンサーも全部よこしなさい!!」

「あぁわかtt、ちょっと待て…流れおかしくないか?」

「あ、バレた」


 この野郎。


 シオンは こいつは厄介な女だとつくづく思った。

 

 服を揃えた一行は森へと足を向ける。門の前に昨日あった二人はいなかった。代わりに立っていた二人に森へいくことを告げると、暗くなる前に帰ってこいとのことだった。軽くシオンは頷いておく。

 

 今はすでに昼を過ぎており、ポカポカと暖かい日差しがさしている。二ーナのお腹が心配だったが、さっさとフォレストパンサーを換金するのが最優先だ。ある程度魔力のある死体は腐りにくいが、限度がある。臭いがきつくなり、別の魔物や人間に見つかる前に確保しておきたい。

 リリナもそれがわかっているのか無駄口を叩かず、もくもくと先導していた。

 

 しかし…。シオンは後ろを振り替える。

 

 現在三人の隊列はリリナ、シオン、二ーナの順になっている。二ーナの体質に距離が関係あるかはわからないが、一応念のためリリナとは距離を離してある。

 魔力吸収が無差別範囲型ならリリナに不調が出てもおかしくはないが、今のところ何もないようだ。宿でも一晩泊まったが誰それが倒れたと言う話も聞かない。彼女のそれはシオン単体に向けられているようである。何か条件があるのか。思い当たる節がひとつある。というかそれしかない。

 

 となると彼女の出自が予想できる。

 

「着いたわ」


 シオンが考え込んでいる間についていたようだ。靴も履き、誰も背負っていないために結構早く着いた。

 フォレストパンサーは無事のようだ。さすがは森の主だっただけあって、死体が漁られた形跡が見当たらない。しかし魔力の流失が激しいらしく、その存在感は昨日よりも薄れていた。


 あと数時間もたっていれば次の森の主となる高位の魔物に食われていたかもしれない。


「じゃあ始めますか」


 リリナがパン!と手を鳴らす。

 シオンはうなずくとナイフを取り出した。


「二ーナはここで待ってて」


 シオンがそういうと二ーナは頷かなかった。けれど首を振りもしない。どういうことだろうか、とシオンが考えあぐねていると、横からリリナが出てくる。


「役に立ちたいのね?」


 今度は二ーナはハッキリと頷いた。


「いやしかしな……解体作業は大変だしなぁ」

「二ーナちゃんがやりたいっていってるのよ?それに解体以外にも仕事はあるでしょう?」


 まぁ確かにないこともない。しかし死体を解体する様を間近で見せるようなことは果たしてよいのかどうか。シオンはそれで迷っていた。

 

「わたし、なにもしてない」


 二ーナが言う。


「それ…いけないこと」


 二ーナの言わんとしていることがシオンには何となく理解できた。

 シオンはため息をつき、しゃがみこむ。ちょうど二ーナと目線の高さがあう。


「あのな…別に何かしてほしいとか、働かせるためにつれてきているわけじゃないんだ」

「……わからない」


 まぁそりゃそうかとシオンは内心苦笑いする。


「俺は依頼を受けてお前を助けている。ちゃんと報酬はもらってるから気にするな」


 だから彼女にわかりやすいようにごまかす。俺にはちゃんと利益があってお前を助けている、と。

 

「でも、働いたらシオンはもっと助かる」

「……」


 二ーナは澄んだ瞳でこちらを見てくる。


「あのさぁ…べつにそんなに過保護になる必要はなくない?」

「でもなぁ……」


 リリナは腰にてをあて、ため息を吐いた。


「二ーナちゃんはあなたのために言い出してくれているのよ?それを無下にするわけ?人の好意は素直に受けとるべき時もあるのよ。とくに今なんてね」


 シオンは眉間にシワを寄せて考え込んでいたが、やがて観念したのか表情を和らげた。


「わかったよ。二ーナ手伝ってくれるか?」


 こくり、と二ーナはうなずく。リリナはそれを見て微笑んだ。


「じゃあ早速始めるわよ」





 エルジオンの酒場では一人の男が日がまだ上っていると言うのに酒を飲んでいた。ここはいつもは昼に酒を出すことなんてしない。昼間は食事処として開店している。ところがなぜ。それはこの男が貴族であり、町に多大な影響を及ぼす力を持っているからだ。

 

 いつもは脂ぎった自尊心の塊のような顔に気味の悪い笑みを張り付けているのだが、今日は訳が違った。

 男はひどく酔っていた。何時暴れだすか分からないほどに。髪はぼさぼさで目は虚ろ。そして先ほどから何事かを独り、つぶやいている。


 周りの者、とはいっても店員と今日が休業の冒険者が数人しかいないのだが隠しながらも迷惑そうな顔で男を見る。


 男はその視線に気付いて睨み返すが、また直ぐに興味を失うと、酒を煽る。


 火酒と言われるほどに高いアルコールが男の喉元を過ぎると同時に、脳を揺らす。ハッキリ言って不快だ。もうすでに飲むのを楽しいと男は思っていない。


 それでも飲むのは忘れたいことがあるためだ。この吐き気のする酩酊感だけがこの男の逃げ場だった。


「クソっ!!」


 バンと手に持ったジョッキを男はテーブルに叩きつけた。


 その音にギョッとなった店内だが、男はふんと鼻を鳴らした。


「なんだ……あの男はよぅ……」


 男の独り言は終わらない。


 他の客は男の言葉からすると、「あの男」とやらが彼の機嫌を損ねたせいで今の状況にあると推測した。そして「あの男」に呪詛と憐みの言葉を投げかけたかった。


 


 男は最近ここに来て数々の悪名を残しているバイツェル・フォン・ベルナールその人だ。


 ある時は買った娼婦を使い物にならなくなるまで痛めつけたり、ぶつかってきた老人を死の淵に至るまで殴りつけたり、服が汚れたという理由で子供を斬ろうとしたり、数え上げたらきりがない彼の悪行。しかしそれらは全て、彼の家であるベルナール家の圧力でうやむやにされる。ここエルジオンの町はベルナール家の領土にあるため誰も逆らえないのだ。


 だから目をつけられたが最後、その者はどんなことをされようが泣き寝入りするしかない。


 そのバイツェルが苛立っている。そして彼の癇癪にあえば、ここにいる全員が最悪の時を迎えることだろう。店員はともかく低ランクの冒険者も権力の前では跪かざるを得ないのだ。


 自分の一挙一動が生死を分けるといっても過言ではない、白刃の上を素足で歩くような緊張感。


 こんな状況に自分たちを陥れた「あの男」に呪詛の一つでもぶつけてやりたいのは当然といえば当然だろう。


 だが、自分たちよりも気の毒なのも「あの男」である。


 何をしたのか知らないがバイツェルを怒らせた。彼がいつも悪行を行うときは決まって「なんとなく」だった。


 それが恐ろしくこの街の住人は彼におびえていたのだが、そんなバイツェルが明確な怒りを持った場合どんな仕打ちを喰らわせるのか。


 きっとどんな拷問よりも苛烈で目をそむけたくなるような罰を与えるに違いない。


 


 すると呼び鈴が鳴る。そしてその音に遅れて一人の青年が入ってきた。


 そのせいで青年へその店内の視線が一斉にそそがれた。


 金髪の髪をなびかせた青年は、こんな状況でなければここの女性店員が声を思わずかけたくなるような、そんな整った顔をしていた。


 その視線を気にすることなく悠然と青年は歩く。


 客と店員は思った。こんなタイミングでこの行動は気の毒としか言いようがないと。


 青年とバイツェルの挙動に自然と店内の関心が高まる。


 怒るか?


 そう皆が思ったとき。


「やぁ。君ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 あろうことか青年はバイツェルに話しかけていた。


 バイツェルは酒場の入り口からもっとも近い場所に陣取っていたのだ。かといって不機嫌そうなこの男にまず話しかけようとするのは当然ではなさそうである。だが、もう既に話しかけてしまっていた。


「なんだ……」


 さも不快そうにバイツェルが答える。


 終わった。店内は早くも青年が五体満足に帰れなさそうなことを思い、悲しみに暮れる。


「人を探しているんだけど知らない?黒い髪の……」


 青年がそういった途端に、バイツェルの酒のせいで濁っていた目に憤りの炎が見て取れた。


 立ち上がり青年の襟をつかんで、唾を飛ばしながら叫ぶ。


「あいつとどういう関係だ!!」


「おや?なにか知っているようですね」


 青年は酒に酔った男が、敵意をむき出しで掴みかかったというのにまるで動じない。


 それよりさらにバイツェルの顔に自分の顔を近づける。


 何だこいつ。


怒りに煮立つバイツェルの頭の片隅にこの不気味なまでに冷静な青年への戸惑いが生まれた。


 そのタイミングを狙っていたかのように青年は口を開く。


「あなたが知っている黒髪の男は、 異常なほど強かった?」


 青年の問いに強くバイツェルは思い当たることがあった。しかし肯定しようとしたがやめた。


 青年はあの男を知っているようである。ならば青年があの男の仲間なのかかそれとも敵なのか。バイツェルには確かめる必要があった。                                                             


「あいつの仲間か?」


 仲間なら見せしめに痛めつけてやる。


「仲間?そうですね……はい、ともいいえ、とも言えますね」


 青年は極めてあいまいな答えをする。


 そのどっちつかずの答えに苛立ったバイツェルが叫ぶ。


「どういうことだ!!」


 客がそれを見て、ごくりとつばを飲み込んだ。


「身内、ではあるのですが彼は私の、敵です」


「敵……。奴を憎んでいるのか?」


 青年は笑みを浮かべると、さらに彼に顔を寄せてきた。


 互いの息遣いが聞こえる距離で青年は言う。


「ええ。とっても。殺したいほどにね」


 その言葉にバイツェルはニヤリと笑った。

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