一話 弾丸黒子の地〈だんがんこくしのち〉
━━━夏、それは夏休みがある季節。
全国の学生が喜ぶものである。でも、僕は喜ぶ気にはなれない。青藍高校を首席合格、定期テストでは当たり前のように一位をとる。そのためみんなから期待され、母は僕を塾にいれ、友達は僕の周りから消え...
夏休みが嫌というのは、塾が多いというのも一つの理由だが、それ以上に僕は暇なのだ。家に帰ってもスマホなんてものはない。あるのは、母が買ってきたナンプレだけ。つまらない。こんな生活を抜け出せたらどれだけ幸せだろうか...
∞∞∞
「勉ー、勉ー!」
遠くから母の甲高い声が聞こえる。どうやら寝てしまっていたようだ。塾かと思い時計を見るが、塾まであと一時間もある。なぜこんな時間に起こされなくてはけないのだろうか。母の頭が夏の暑さにやられたのだろうか。色々な思考を巡らせてる間に母が呼んだ玄関についた。
玄関にはスーツを着た男性が立っていた。
「ほら、勉。挨拶しなさい。」
母に言われるがままに僕は挨拶をした
「青藍高校2年、原本 勉です。」
「勉くん、だね?」
男の声は低く、軽く、強かった。僕の胸にその声が刻まれた。その男の名前と共に、
※※※
「僕の名前は、神原 応、君のサポーターだ。」
勉くんが何かを考えているみたいだ。サポーターについて教えないといけないようだ。
「サポーターというのは、ある人のサポートをする人のことだ。これだけじゃ分からないよね。」
僕は軽く笑いながらそう言った。彼の緊張はほぐれてきたみたいだ。
「具体的になにをするかというと、君に現実を教え、将来のために色々なことをさせる。」
「それってサポートしてないですよね」
勉くんが僕の話を遮って口を開いた。勉くんは、やはり現実を知らない。教えてあげないといけないみたいだな。今日はまだ現実を知る必要はない。まだ〈青二才〉でいてもらわないといけないしな。
※※※
この人、神原と言ったか..サポーターってなんなんだよ。僕の知能でも理解できない...
━━━「勉くん。僕は君のサポートをする。〈社会で生き抜くための〉ね。」
━━━僕を社会で生き抜かせるため?僕は今の生活に不満を感じていないし、充分だと思う。このままでは社会で生きていけないとでも言いたいのか?巫山戯てやがる。僕をなめているみたいだ。
「僕は高校を首席で合格したんだ。あなたにサポートされなくても生きていける。」
「首席合格とこれはなんの関係がある?」
神原さんの言葉は冷たく無慈悲で僕を突き放した。
∞∞∞
「今日から勉くんには毎日ここに来てもらいます。」
そこは、とても広く、果てしない場所だった。空は光っている、すごく...輝いている。目がやられそうなくらいだ。
「はぁ。。で、神原さん、僕はここでなにをすればいいんですか?」
※※※
「君の世界を広くしてくればいい。」
「神原さん。そういうのいらないんで真面目にお願いします。」
「君はぶれないね。さすがだよ。」
いずれ、それも壊されることになることも知らずに。
「簡単に言うと、人と関わってくればいい。」
「人と関わる?」
勉くんが常に半開きの目を大きく開けて言った。
「ここには君と同じぐらいの年頃の子がたくさんいる。男の子だったり女の子だったり...」
「あのー、あれですか?アニメでよくある人間の未知なる力を見つけるとかゆーやつ?そんなんだったら僕帰りますよ。」
「安心してくれ。さっき説明した通り、毎日来るだけでいい。ここに住む必要もない。こちらは君の生活を制限しない。塾はこっちのを使ってもらうけどね。」
勉くんの寝癖が今はとても愛おしい。それを見れるのは今日が最後かもしれないからね...
∞∞∞
「神原、勉というやつはどうだ。」
「彼の住んでいる世界は狭い。狭すぎます。彼には〈あの世界〉が似合うと思います。」
「そうか、、、まぁ君に任せるよ。あくまでも目的を忘れるな。」
「はい。承知しております。〈マスター〉。」
夕日に照らされた顔。それは、神々しくもあり、不気味でもあり、これから起こることを僕たちに案じているように見えた。
※※※
疲れた。疲れた疲れた疲れた。なんなんだあの場所は人が多すぎる。あーーもーめんどい。...。
部屋から見る夕日は、なんか切なかった。