第8話 ナマポスキル
ナマポスキル……。
スキルはゲームとかで出てくるスキルのことだろうけど、ナマポってつける意味あるのか。
馬鹿にしてるだろ。おい。許せねぇよ!
「ま、説明するより見てもらった方が早いわね」
椎名は部下に部屋の電気を消すように指示を出した。
スイッチの音とともに視界が闇に包まれる。
数秒後、視界に光が戻ると、居たはずの場所に椎名がいない。辺りを見渡すが気配すらも感じない。
「き、消えた!?」
「部屋からは出てねぇぞ!」
この場にいる誰もが椎名の居場所をつかめていないようだ。
「ずいえき君」
突然で驚いたが、確かに近くで声が聞こえた。近くにいる。そう確信して周囲を見回そうと……、したのだが首が回らない。息も苦しい……。
「な、なんだこれ……」
首に手をあてようとすると、ぶつかるものがある。
誰かの手?首を掴まれているのか。よく見れば腕もついている。
腕から辿っていくと目の前には椎名の顔があった。
「えっ?」
「もし私が敵だったら、あなた今死んでたわね」
「は、はぁ……」
椎名は勝ち誇ったようなドヤ顔で俺にそう言うと、投げるように手を放し背を向けて元居た部屋の前方へと戻っていった。
「ずいえきさん! 大丈夫ですか!」
「あぁ、別になんともないよ。うん」
今までの経験からでは説明のつかない状況に、俺は唖然とするしかなかった。
目の前に突然あらわれて首を掴まれた?
いや、違う。『掴まれてたのに気付かなかった』の方が感覚的には正しそうだ。
「今のが私のナマポスキル『霊能力』の中のひとつ。霊脚と言ってね、まるで闇に潜む幽霊のように極限まで気配を消すことができるのよ」
「でも、あーしには突然消えたように見えたけど? 気配が消えても目には見えるでしょ。瞬間移動とは違うんけ?」
「ちゃうね。霊脚で消した気配は常人の感知能力では視界で捉えても認識できていないだけ。幽霊も見える人と見えない人がいるでしょ? そんな感じだ」
あまりよくわからないが、すごい能力だ。これがあればどこにでも忍び込めるんじゃないか。
……興奮してきたな。うん。
「椎名くん、その霊能力って俺でも使えるようになるのかな?」
「椎名くんじゃなくて先生と呼べ。これは私の固有の能力だ。偶然が起きない限り同じ能力ってのは無理だね」
なんだあれは使えないのか。俺のピンク色の野望が崩れ落ちた……。
「君ら団員にはナマポスキルを調査本番までに会得してもらいたい。してもらわないと困る」
調査本番までってあと2週間ぐらいしかねぇぞ。
そんな簡単に出来るようになるのか?
「なーに、心配はいらん。会得する下準備は手術とこれまでの訓練ですべて完了している。あとは君たちの発想次第といったところかな。すでに使えてるやつもそこにいる」
椎名が指で指した先にいたのは同じ班になったなみだった。
「あーしですか!?」
なみは思いもよらぬ指名に驚きを隠せない様子だ。
「その手汗、ただの汗ではないことがわからないか?」
「え……、ほんとだ! この汗なんかいい匂いがするんだけど」
そんな馬鹿なと思い、俺も匂いを嗅がせてもらうと本当にいい匂いがする。
嗅いだことがあるほんのり香ばしい匂いだ……。これはごま油か?
「あなたはどうやら『ごま油』のナマポスキルのようね。量を増やしたり勢いをつけたりできれば有効な物になるわ」
ごま油のスキルか料理にも使えて便利そうだな。うん。
「コツは発想すること。ナマポスキルにはその人物の性格や生き様などの個性が出ることが多い。個性を発想力でナマポスキルに変換していくのよ」
個性を発想力でね。うん。
俺はドラゴンボール好きだし、かめはめ波とか打てるようになれたらいいな。
ちょっとやってみるか。
まずは気を溜めるぞ。
「はああああああ……!!」
いままで経験したことのない感覚だ。
身体が熱い。
「あれ?でもなんか……頭がクラクラする……」
遠のいていく意識に促されるまま、俺は床に倒れこんでしまった。
次回、第9話「侵入者」