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ナマポランドフクシマ  作者: にーとしのしの
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第5話 手に入れた力

 頭が痛い……ここはどこだ……。

 目が覚めると俺は病院のような部屋のベットで寝かされていた。


 あの説明会から3日後。俺たちは放射能に適応するための手術を受けさせられた。

 全身麻酔をかけられていたので、どんな手術だったのかはわからない。

 ただ、胸に大きな手術痕が残っていた。この傷は消えるのだろうか。

 

 そんなことよりも空腹で死にそうだ。

 一体どれだけの長い間寝ていたのか。


「やっと目が覚めたのね」


 医者なのか科学者なのか白衣を着た女が部屋に入ってきた。


「いったい俺は何日寝ていたのですか?」

「とりあえず、お腹が減ってるでしょうから向こうにある食堂でご飯を食べなさい。質問とかはその後。検査もあるからさっさと済まして頂戴ね」


 なんだこの女。人の質問を無視して命令までしやがって。

 脳が小さい劣等人種の女のくせして生意気な。許せねぇよ。おい。


 俺は苛立ちを感じながらも、空腹を満たすため女に言われた通りに食堂で食事を済ませる。

 その後、さっきの白衣の女に検査をいくつか受けさせられ、結果を聞くため俺は呼ばれた部屋に入った。

 

 部屋には白衣の女と、もう一人ナマポ受給者と思われる奴が座っていた。

 

「2回に分けるのめんどくさいから二人同時にやらせてもらうよ」

 

 白衣の女はめんどくさそうに、机に散らかった書類をまとめながらそう言った。


「は、初めまして。僕はむ、室井あきのりです」

「どうもね。俺はずいえきって言うから。うん。よろしくー」

 

 見覚えがあると思ったら、説明会の時に後ろに座ってた陰キャを具現化したような奴だ。

 いかにも社会の落ちこぼれって感じだな。うん。


「君らは目が覚めたのが58人中の56人目と57人目。最後に目が覚めた3日間も寝てたどんくさい二人だ。せいぜい仲良くしな」

「58人目はまだ起きてないんですか?」

「いや? まだ起きてないんじゃない。もう起きれないんだよ。手術のダメージに耐え切れなくて、榎本翔平さんという方が亡くなった」 

「翔平が死んだんですか!?」

 

 あきのりが驚きの声を上げる。友人だったらしい。

 悲しんでるようだが俺には関係ないことだ。

 まぁ誰だか知らないが冥福を祈ろう。


「亡くなった者のことを考えても仕方がない。今から重要な話をするからしっかり聞け」 

 

 白衣の女は冷酷にそう言い放つ。

 いくら俺でも友人を亡くした奴にそこまでは言えない。こりゃないだろ。


 動揺するこちらをよそに、白衣の女は今回の手術の詳細について語った。

 

 白衣の女の話を纏めるとこうだ。

 今回、俺らが受けたのは放射能に適応するための手術。

 この手術には、第1回目の調査で副産物的に偶然得た情報が大きく関係しているそうだ。

 その情報をもとに、放射能に適応し身体機能を大きく向上させ、人類本来の力を逸脱した力を手に入れられる手術の開発に理論上は成功した。


 しかし、その手術は動物実験段階で壁にぶち当たる。

 手術をしても、身体機能がほとんど向上しなかったり死んでしまったり、何故か上手くいかなかった。


 失敗の原因を分析したところ、体内に蓄積している紫外線が手術の際に放射線の吸収を邪魔していることが分かった。

 つまり、体内の紫外線の蓄積が少ない人間なら成功し効果も大きく表れるということだ。


 手術を成功させるためには、紫外線の蓄積が比較的少ないと考えられる、太陽光を浴びてる時間が少ない人間が必要だった。


 第1回目の調査の際に動員されたのは自衛隊員。

 太陽光を浴びてる時間が多く、必要とされる人員とは真逆の存在だ。


 なので国は自衛隊からではなく、新たに人員を外部から徴集することを計画した。

 そこで目を付けたのは引きこもり。

 太陽光を浴びないのは誰かと考えたら当然の発想である。

 

 しかし、一概に引きこもりといっても、そこに基準はないしリストがあるわけでもない。

 それに親のすねをかじってぬくぬく生きている人間に高額な報酬を提示しても、効果があるのかは微妙なところだろう。

 ということで、引きこもり・金なし・国にリストがある、この条件が揃いやすいナマポ受給者の中から集めようとなったらしい。


 そしてナマポ受給者に施すため完成され、俺たちに実用された手術。

 それが、ナマポ放射能適応手術、通称『NRAO(Namapo Radioactivity Adaptation Operation)』ということだそうだ。


「じゃあ、次は検査の結果を伝えていくよ。検査といっても健康的なことじゃなくて、どれだけパワーアップしてるかを測定して数値で出しただけだけどね」

「数値ってなんなんですか?」 

「聞かれなくても説明してやるから黙っててくれよ。数値の単位はNP(ナマポポイント)。某アニメの戦闘力みたいなもんだよ」 

 

 白衣の女は部下に指示してファイルを持ってこさせると、あきのりに向けてしゃべり始めた。

 

「じゃあ、まずあきのりさんから。手術は完ぺきに成功してるね。NPは……57万か……」

「そ、それって…高いんですか? 低いんですか?」

 

 あきのりが目線を伏せて、恐る恐る質問した。


「超がつくほど低いね。今までの最低値が80万だったから断トツの最下位。あなたナマポ歴は?」

「は、半年ぐらいです……」

「話にならないわね。NPだけで判断すれば一番弱い雑魚。使える戦力になるとは到底思えないわ」


 この女の辞書には失礼という言葉がないのか……。


「次はずいえきさんね……えっ……」


 女の周りだけ時間が停止したのではないかと思うほど、さっきまで威勢の良かった女が目を点にして黙ってしまった。


「あの……先生?」

「あっ、えっ……、ごめんなさい……」

 

 すごく動揺しているのが見てわかる。

 こういう女見てると興奮してきちゃうね。うん。

 

「先生……俺のNPは?」

「あなたのNPは5……」

「5!?」

「いえ、5億よ……」


 5億マジか!? あきのりが57万で、俺は5億だから約1000倍……!!

 NPは戦闘力のことみたいだから、俺ってまさか物凄いチートキャラなのか。はっはっはっ。

 オラ、ワクワクしてくるね。うん。

 

「バグとかの可能性はないのですか?」

「それはありえないわ……」


 女が平静を取り戻そうとするようにして、首を横に振りながら答える。


「ところであなたのナマポ歴は?」

「今年で12年目ですけど」

「その若さでそのナマポ歴……。信じられない……」


 また目を点にして固まってしまった。

 あまりに動かないのでちょっとえっちなことしてみようとも考えたが、あきのりもいるのでやめておこう。

 

「先生……?」

「あっ……。そうだ、これで握力を測ってみてくれないかしら?」


 女に渡された変わった形の握力計を俺は全力の力で握った。

 使うのは高校生以来だ。

 そのときは20キロぐらいだった気がする。

 

 メモリを自分で見てみたが数値がわからないな。

 先生に握力計を渡すと、またもや目を点にして驚いた。

 

「何キロですか?」

「1350キロ。おめ。あなたがナンバーワンよ」

 

次回、第6話 隊

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