第3話 説明会へ
今日は説明会当日。
出席するために福島から東京まで夜行バスで来た。
一晩中椅子に座ってたせいでお尻が痛い。
持病の嵌頓痔核がひどくなりそうだ。こりゃないよ……とほほ……。
クッションでも持ってくればよかったな。
東京には初めて来たが、どこを見渡しても高層ビルばかりだ。
歩行者もまるで町内祭りでも開催してるかのように多い。
東京はすごいと聞いていたが、福島の方がずっといい場所だと思うね。うん。
会場はここかぁ。
指定された会場の部屋に入ると、そこにはすでに数十人が集まり席に座っていた。
もの凄く空気が重い。
椅子を動かす音でさえ遠慮してしまうほどだ。
「ちょっと、おっさん! そこの席、あーしが座ってたんだけど!!」
静寂に包まれていた部屋に声が響き渡る。
何事かと辺りを見回すと、部屋中の視線が俺の方に集まっていた。
え?俺?
戸惑いながら後ろを振り返ると、そこには女が立っていた。
「早くどいてよ。きったないなぁ」
女がまるで汚物を見るような目で催促してくる。
あっちゃーw変な奴に絡まれちまったな……
反論をしたいところではあったが、これ以上この女と関わるのも面倒なので潔く隣の席に移ることにした。
俺も大人になったもんだな。うん。
「皆さまお集まりになっているようですので、始めさせていただきます」
再び訪れていた静寂を司会らしき女の声が切り裂いた。
「それでは、まずこちらの用紙の方にサインをお願いします」
配られたプリントには依頼を受けるうえでの規約などが長文で書かれていて、最後に同意のサインを書く場所があった。
うーん。めんどくさいな。文章を読むのはあんまり得意じゃない。
ぱっと見、情報漏洩に関する注意と事故による怪我の責任の所在などが書かれているな。
『……調査中の事故に関する責任は一切負わないものとする。上記について、同意をいただける場合は下記にご署名下さい。なお、同意書サイン後の辞退は認めかねますのでご注意を』ね。うん。
ありきたりな文章だ。読むまでもないね。
俺は軽い気持ちでサインを書いて提出した。
「同意していただける方はここに提出を、辞退する方は無記名で提出後お帰りください」
意外と辞退者が多い。半数ぐらいは部屋から退出していっている。
1億円がかかってるのに参加しないなんておかしな奴らだな。
放射能にビビったのか?
その点、俺は震災からずっと福島に住んでいる。最初は五感で感じることができないものに恐怖を感じたが今はもうない。慣れってやつだな。うん。
「同意していただけた方々には、今回の計画の発案者の方から詳細の説明がありますので、そのままでお待ちください」
そう言い残して、司会の女も退出していった。
今残っているのが、今回の仕事仲間ってことになるのか。
隣の席の嫌な女も残っている。
そんなことを考えていると、部屋に立派なスーツを着た男が入ってきた。
どこか見覚えのある顔だな……。
「えー、どうも。皆さんこんにちは。環境大臣の久保田学でーす」
俺の中に衝撃が走った。
次回、第4話 放射能汚染の真実